第三十話
「あれが稲頭司橋。それで、あっちが約束の橋」
都雅が説明してくれた。
稲頭司橋から数百メートル上流にかかっている細い橋。
「あら、向こうだったの?」
お袋がそう言って再び車をスタートさせる。
そして約束している橋の所で止めてくれた。
「ここは車が通れないから、私はここで待っているわね。早く戻っていらっしゃいよ」
「分かった」
三人と一匹で車をおりて、橋を渡る。
丁度中央の場所に、青空が立っているのが見えた。
「お久しぶりですね」
青空の元にたどり着いた俺に、にっこりと微笑んだ青空は俺の後ろに付いて来ていた二人を見て深々と頭を下げた。
「始めまして、青空と申します」
「あ、こちらこそ始めまして。僕、鳶沢 勇気です」
「八潮路 都雅」
二人の名前を聞いて、青空は嬉しそうに頷いた。
今日の青空は黒い服ではなくて、紺色の制服らしきものを着ていた。あいにく何処の制服かはわからないけど。
「これからは定期的に連絡できるようにします。あの砂時計があるという事は、コレクターが関わっているようですから」
「コレクター?」
俺たち三人が声を合わせて言うと、青空は頷いて見せた。
「僕たちが勝手にそう呼んでいるだけですけど。コレクターと呼ばれる人々です。集団ではなく、大抵は一人で行動していることが多いんですよ。でも、今回は複数のコレクターが絡んでいるようです。あの魂玉の数は僕が見た中でも類を見ない数です。それで砂時計を作るなんて…」
「こんぎょく?」
「たましいの、たま…と書いてこんぎょく…といいます。魂が封じられた玉のことです」
青空がため息混じりに言った途端に、橋の欄干にカツンと何か硬いものが触れた音がして、俺たちは音のした方に視線をやった。
青空の斜め後ろの欄干の上に人が立っていた。
いつの間に来たのか、橋を渡る音はしなかったのに。
「我らはあの砂時計を玉響と呼ぶ。近くにいると、それは素晴らしい音を奏でるのでな」
欄干の上に立っているその人物は、牧師のような服を着ている。正面から見ているのでよくわからないけど、どうやら髪が長いらしい。その髪は金色に光っていた。
俺たちが言葉も出ずに青空に視線を戻すと、青空は辺りを見回している。
「ラゴ様。早く欄干から降りて下さい」
青空の声が以外に厳しく聞こえて、俺は少し驚いたけど…そのラゴ様と呼ばれた男の方を見ると特に怒った様子も見せずに、欄干を降りて青空の隣に立った。背が高い。都雅と同じくらいかも。
「あれほど上から下りてくるのはよして下さいとお願いしましたのに」
青空は深いため息をつく。
「良いじゃないか。誰にも見られてはいないよ。それに、見られたところで、その人間は目の錯覚だと思うさ」
小さく笑った後、ラゴと呼ばれた男は俺に手を差し出した。
「そなたが噂の少年か?」
「……三刀屋鋼樹です。…今は船迫要の身体を借りてますけど…」
雰囲気に圧倒されて、おもわず敬語をつかってしまう。握手を交わした。
「コレクターの血が騒ぐね。他のコレクターも喉から手がでるほど欲しがっているだろう」
ラゴが言った言葉に青空はさっと表情を硬くした。
「ラゴ様…それでは何か分かったのですか?」
「そうだね…。かなり大変ことになってきた様だよ」