第二十九話
「あ、それじゃ。僕たちもどうせ外にでるから、僕が君を運んであげようか?」
「あ、ちょっと待て。学食は?」
「学食どころじゃないでしょ」
都雅が苦笑しながら俺の肩を叩いた。
「そうりゃそうだけどさ」
「それじゃ、よろしく頼むとしようかな」
大治郎は手すりから勇気の肩にひょいと飛び乗った。
「で、何処に行けば青空に会えんだ?」
「稲頭司川にかかっている橋の途中」
「……何だ…その中途半端さは」
「稲頭司橋の事?」
勇気が尋ねると、大治郎は違うという。
「ほれ、もうちっと上流に車は通れない橋があるだろう」
あぁ…と都雅と勇気は頷いたけれど、当然の事ながら俺には分からない。
「ちょっと歩くけど…要くん大丈夫?」
「ああ、平気だ」
都雅が俺の言葉に小さく笑う。
「要の家の車に迎えに来てもらえば?」
「ああ? 冗談じゃないっつーの…っていうかさ…頼みもしないのに来てたらどうしよう」
考えられる。
「来てる可能性のほうが高いよね、何しろ要はまだ退院して間もないんだし」
都雅が校庭を見下ろしながら数台止まっている車を、指差す。
「車…分かる?」
「わかんねぇ…」
「兎に角、下りてみようよ。ね? 要くん。都雅くん」
屋上のドアの鍵を開けて、俺たちは生徒玄関へと階段を下りた。
「そういえば、屋上の鍵を開けたのは大治郎?」
都雅が勇気の横に並んで歩きながら、肩に乗っている大治郎に話しかける。
「ま、一応そうだよと言っておく。大丈夫、もう今頃は鍵がかかっているはずだよ」
「ふうん…」
靴を履き替えて玄関をでると、案の定お袋が迎えに来ていた。
「要」
げっ…と言いそうになった口を俺は何とか閉じた。
「帰りましょう、要」
「え、ええと。ううんと…約束…そう! 友達と約束があるんだ。約束って大事だよね?」
作り笑顔でそういうと、お袋は仕方なさそうにため息をついた。
「稲頭司川で待ってるんだ」
「……分かりました。それじゃ、送るわ」
「二人もいいよね」
勇気と都雅を見ながら言うと、お袋は一瞬都雅を見て眉をひそめたが、頷く。
どうやらお袋自身が運転して来たらしく、俺は助手席で勇気と都雅は後部座席になった。
「猫も乗せるの?」
「大丈夫だよ。おとなしい猫だから」
俺の言葉に大治郎が可愛らしい声で鳴く。これこそ猫撫で声だ。
「暴れたりしないわね?」
「しないしない」
エンジンがかかり、車がスタートすると見慣れない町が通りすぎる。
青空に貰った地図の範囲外の場所へと向かっているから、途中で頭の中の地図も途切れた。
信号に何回か引っかかった後、ようやく川にたどり着く。そこはもうすぐ海に近い場所だった。
橋が架かっている。
その橋の袂から少し離れたところに車を止めた。