第二十八話
「ってことは無いと思う。だってそうだとしたら、切られた気がお前さんに絡みついてくるはずだからね」
絶句。
の後に、大治郎の首を絞めた。
「がっ…ぐるじい…」
「やめなよ、要……あ、要でいいのかな」
都雅が困ったように笑いながら、そう言った。
俺は手を離して(もちろん本気で絞めてはいないぜ?)大治郎を下ろした。
「一応、要の身体だし。ややこしくなるから、要でいいよ」
「分かった。さて、大治郎は大丈夫?」
「く、苦しかった…ちょっとした冗談じゃないさ…もう。動物愛護団体から、苦情が来ても知らないよ」
大治郎は身体を、一瞬震わせてから都雅を見た。
「分からないことだらけだろうね? これから青空のところに行くから、一緒に来るといいよ。もっと詳しく教えてもらえると思うからね」
そうして、次に勇気を見つめた。
「さっきから黙っているけど、大丈夫かい?」
「え? あ、はい」
勇気は大治郎の言葉に素直にコクンと頷く。
ようやく体勢を立て直して、えへへと笑って見せた。
俺は何だかほっとして、ほっとした後に再び気持ちを引き締めた。
「気のことも説明してもらえるんだろうな?」
「もちろん」
「で…結局、屋上に呼び出した理由は? こんな話なら、学園の敷地外でも良かったんじゃないか」
「こっから隣の校舎が見えるからさ。ほれ、あれを見せたかったんだよ」
そう言って大治郎は、再び手すりに上ると、視線を隣の高等部校舎に移した。俺たちも立ち上がって手すりに近寄る。
そこに見えるのは、中等部校舎とあまり変わらない校舎。ただ違うのは、屋上で何かがゆらゆらと揺らめいていた。
「何だ、あれ」
「僕…砂時計に見えるんだけど…」
「…オレにもそう見えるよ」
勇気と都雅の言うとおり、よくよく見てみると確かにぼんやりと砂時計のようなものが見えた。
ただ、建物の大きさから考えて、どう考えても俺たちより遥かに大きい、砂時計だ。中身はまだ上のほうにあって、下に落ちているのは僅かだった。
「大治郎…あれは?」
「悪趣味だよ、あれはね。砂じゃないんだ」
「砂じゃない…となると…中身は何?」
大治郎は空を見上げた後に、ため息をついた。
「あれは…魂なんだ」
「魂…? 砂に見えるの全部?」
「そう。あれはね、魂を特殊な球に封じ込めたものなんだ。きらきら光ってるだろう?」
大治郎の言うとおり、その砂に見える珠は、色取り取りに光っていて、綺麗だった。
「思いっきり、青空たちを挑発してるよ。阻止できるものなら、してみろってさ」
「あれが?」
「そう。あの砂が全て落ちるまでに、こっちはお前さんの身体を見つけなくちゃいけないってこと。分かったかい? あの砂時計はある意味、わざと居場所を分からせるために置いたみたいだし」
大治郎は俺たちを振り返って、ため息をついた。
「そろそろ、おいらも疲れてきたから、結界の外でるよ」
猫の姿をしているとはいえ、やっぱり結界は身体に負担を与えるらしい。