第二十五話
泣きそうになりながら、勇気が俺を見上げてそう言った。
「本当にいいのか? 命を懸けるっていうのは、大げさに言った事だけど…でも、大変なことに巻き込むことになると思う」
「命懸けなくてもいいの?」
「…分かんないけどさ」
後ろで、大治郎がやれやれといった感じに、ため息をついた。
「ちょっと、面倒なことになっているのは間違いないけど」
振り返ると、大治郎はトコトコと俺の足元に歩いてきて、勇気の手を舐めた。
「お前さんはどうやら耳がいいらしい。あの場所からおいらの声が聞こえたんだからね。協力してもらえると、おいら達も助かるなぁ」
「本当?」
大治郎は勇気に向かって、頷いて見せた。
「さて、二人の協力者ができたところで、説明に入るよ」
俺はため息をつきながら頷いた。
もう、なるようになれって感じだ。
「おいらが他の人間に姿をさらした理由は、実は結界にあるんだ」
「結界? さっきも言ってたよな」
「うん。結界のせいで、姿を隠して入れなかったんだ。それで、青空たちは中に入れない。そこで猫の姿をしているおいらが、入る事になったわけ」
「ああ…なるほど。でも、ちょっと待てよ。青空だったら制服着れば、ばれずに入れるんじゃないのか?」
大治郎は首を横に振った。
「そうも行かないんだな。ここら辺に張られている結界は古いものでね、結構強いんだ。青空たちが一歩足を踏み入れれば、身体にかかっている術が全部解けて、物凄い格好になるだろうね。制服着たって誤魔化せないさ。お前さんの気が途中で遮断された…って言うのも、この結界のせいらしい。中に入ってみて、どうだった?」
物凄い格好ってのが気になったけど、大治郎が『物凄い』に力を入れて言ったので、怖くて聞けなかった。