第二話
「わっ」
背中を打って痛みのあまり地面を転げ回る俺を、助ける様子もなく少年と猫はただ見ている。
「痛いじゃないか!」
「何で?」
「何でっ…て、急に落ちたから背中打ったんだぞ」
黒猫と少年は顔を見合わせた。
「幽体なのに?」
「はっ?」
俺は起き上がって背中を触ってみた。驚いたことに痛みが無くなっている。
「えっ…あれ?」
「凄い想像力だね…」
「へぇぇ、初めてだなぁ、想像で痛がる奴」
何だか恥ずかしくなって、俺は立ち上がった。砂や埃は付いていなかったけど、何となく服のほこりを払うふりをして恥ずかしさを誤魔化す。
「えっと、確認したいんですけど。あなたは三刀屋 鋼樹さんですよね?」
黒い服の少年は微笑んでそう言った。
何とまぁ、無防備な笑顔。
「ああ、そうだけど」
ふと黒猫を見下ろすと、もう光ってはいなかった。俺を見上げてにゃーと鳴く。
「時間がありませんので、手短に話させていただきます。まず、僕は青空と申します。こっちは大治郎です。以後よろしくお願いします」
「は、はぁ」
「実は、貴方が戻るべき魂の器が、故意に隠されてしまいました」
「はぁあ?」
黒い服の少年青空は、手に持った最小のノートパソコンをパタンと閉じた。俺が欲しいと思ってたのと同じ型。
「こちらとしても色々手を尽くして捜したのですが、見つかりませんでした」
「なぁ? 青空。こちらさんはさっぱり理解してないようだけど」
黒猫の大治郎が青空の足を軽く引っかいてそう言う。
「えっと…すいません。つまりその、貴方の身体が消えてしまったんです」
思わず煙に包まれて消える自分の体を想像してしまった。
「消えてしまった…って。別の場所に移動したんじゃなくて?」
「移動しただけなら、すぐに見つけられます。幽体というのは自分の体がどこにあるのか、無意識に感知するはずなんです。でも、貴方の場合は無理やり体外離脱させられた上に、二週間もそのままです。鬼籍にも載っていないので死んでいることは無いのですが、しかしこのままだと戻れなくなり…」
「そのうち鬼籍に入っちまうんだねぇ」
大治郎がそう言って、目を細めた。
「きせき…って何?」
「新聞のおくやみ欄みたいなもん」
「こら、大治郎! えっと…その死者の名簿です」
「このままだと死ぬってこと…?」
「はい…」
何とも実感の湧かない死亡告知。
「故意に隠された…ってどういうこと?」
「幽体と器は気で繋がっています。それを途中で遮断されてしまったため、見つからないのです。ただ、遮断されているとはいえ、断ち切られてしまったわけではないので、生きています。たぶん、その身体を生かしておく必要があるからだと思われるのですが」
言いにくいのですが…と前置きして、青空はノートパソコンをもう一度開く。
「今までの報告例からしますと見つかった器はゼロです」
「気が見つからないことには、おいら達もお手上げなんだよ」
「このまま、黙って死ねっていうのか!?」
零。それは無。
俺は踵を返して公園を出ようとした。
「待ってください! 何処へ行くんですか」
「身体捜しに行くに決まってんだろう」
「そのシールは一日しか持たない代物だから、また身体が浮いちゃって、それどころじゃ無くなるってば」
むっとして大治郎を睨むと、黒猫はニイッと口の端を上げて笑った。
「慌てなさんなって。これから一つ提案をしたいと思ってるんだよねぇ」




