第十九話
「次の時間は自習なんだ。だから、どうする? って聞いたんだけど」
「ああ、何だ…自習か」
ちょっとがっかりして、机に両腕で頬杖をついた。
「あと次の時間は自習で、そのあとの二時間はテストが返ってきて、その後は、下校。って感じだよ」
「え…ということは、午後からの授業は無いのか?」
「無いよ」
それじゃ、昼休みじゃないじゃないか…とも思ったけど。まぁ、昼に屋上に行けば良いわけで。
「あぁ…それでお袋は、弁当を持たせなかったのか…」
「昼ごはん食べたいなら、学食があるよ。もう、そんなに寄る事もないだろうし、帰りに寄ってく?」
「あー…金、持って来てたかな…」
制服のポケットには入っていないことは、確認済み。と、なると。鞄しかないわけだ。
俺はおもむろに鞄を机の上に載せると、開いて中を覗いてみた。
「あ、これかな」
財布を発見。でも中身が分からん。
恐る恐る開けて見ると、おお! さすが金持ちの財布は違う。俺こと三刀屋 鋼樹の財布の中身の倍は入っている。下手したら三倍か…? うぅ…。
そういえば、久しぶりに自分の名前を思い出したことに気付いて、要という名前に慣れている自分に、少し驚いたりした。
「寄ってける?」
「あ? あぁ大丈夫」
「どうした? ぼんやりして」
「ちょっと…ね。大事な事…思い出した…ってとこかな」
要に入っていられるのは、一年未満だ。
学校の雰囲気や友達と話すのが楽しくて、忘れてたけど。
俺は…三刀屋 鋼樹で、船迫 要じゃない。
身体を捜さないと。
俺は思わず、深い深い溜息を付いてしまった。
「もしかして、身体辛いのかな?」
「あ、いや。大丈夫」
「無理しない方がいい。少し顔色悪いよ」
「ああ…うん。ありがと」
その時、丁度ベルが鳴って、一時間目が終わった。
教師が出る前に俺は勢い良く立ち上がると、教室を出て階段の横にあるトイレに駆け込んだ。
鏡の前に立って、顔を眺めるためだ。
船迫 要の顔。
見慣れた俺の顔じゃない。
そう確認したと途端に、まるで拒否反応のように、身体が苦しくなった。
息をするのが苦しい。
そんな時に、あの箱柳が入って来るのが鏡越しに見えた。箱柳を含めて三人…いや四人はいるかもしれないけど、もう確認できない。目がかすんできた。兎に角、数人で俺を取り囲んだ。
「今朝の態度は何だ? 船迫」
お前に構っているどころじゃないって。
ヤバイ。耳鳴りする。
「高等部に行っても同じクラスなんだからな…、分かってるのか?」
箱柳の横にいた生徒が、俺の胸倉を掴んだ。