第十七話
ホームルームが終わり短い休み時間の後、授業が始まる。
授業といっても、テストが返ってきて答え合わせだけだったけど。
なるほど。
学年七位にもなると、満点に近い点数だ。
っていうか…全然わからないんですけど…大丈夫か俺。
かなり高校生活に不安を感じつつ、後で青空に聞いておこうと思った時に、俺はようやく青空との連絡の取り方を知らない事に気付いた。
遅すぎるけど。
「……どーするんだろ…」
「どうしたの?」
隣で都雅がクロスワードパズルの本を開いて、解きながら(何しろ満点だから答え合わせなんて必要ないわけだ)そう聞いてきた。
「あ、いや。ちょっとね」
「困りごと?」
「うーん、ちょっと困りごとかな。でも、まぁ…何とかなるのかな」
「ふうん……ま、要がそう言うなら、そういう事にしておこう。それより、答えならオレの答案用紙貸そうか?」
「あ、助かる。黒板の字は、ミミズ這ってるみたいで、読みづらい」
どうせ説明聞いたって、チンプンカンプンなわけだから、都雅の答案用紙を借りて、バッテンがつけられたところに答えを書くことにした。
「今日は一日、こんな感じかな」
「そうだね。学年末試験も終わったから、こんな感じかな」
他の答案も、都雅から借りようと心に決めて、三つ、間違った答えを写す。
「ほい、サンキューな」
「どういたしまして……」
都雅は自分の答案用紙を受け取りながら、俺の答案用紙を見て不思議そうな顔をした。
「記憶喪失になると、字まで変わるんだね…」
「あ? あ、あぁ…そ、そうみたいだな」
ノートに書かれた要の字と比べると、俺の字はかなり硬い字だ。明らかに違う。
何か言われるかとひやひやしたが、都雅からはそれ以上何も言われなかった。
都雅は鞄を開けて、答案用紙をしまう。その時見えた鞄の中身は、殆どがパズルの本だったのには驚いたが、まぁ都雅らしいっていえば都雅らしいか。
「要」
「んあ?」
「さっきから気になってること、聞いてもいいかな」
「なんだよ」
「あそこにいる猫。何だと思う?」
都雅が指差した場所は、教卓の上。
そこに真っ黒い猫が、ちょんと座っていた。
「だっ…大治郎…?」
俺の声で、教室の全員が教卓に乗っている猫に気付いたらしく、教師が驚きつつ追い払おうと教科書を振り回す。
大治郎はその攻撃を軽やかにかわしつつ、机を飛び移り渡り、俺の机に乗った後、俺の肩に飛び移って耳元で囁いた。
「昼休み、屋上」
それだけ言って、大治郎は床に降りた。
教室は逃げようとする奴と、捕まえようとするやつで、めちゃくちゃになっている。箱柳のやつは明らかにビビって、教室の隅に逃げていた。
都雅がドアを開けると、大治郎はするりと抜けて、教室を出て行く。廊下を覗くと、ゆらゆらとゆれる尻尾がみえた。
誰もそれ以上深追いせずに、何事も無かったかのように授業を再開。
したかに見えたけど、やっぱり教室はざわついたままだった。
「さっきの猫、だいじろうって言うの?」
「あ? あぁ、うん」
「要の猫?」
「あ、いや…えーと。知り合いの猫」
「ふーん…」
都雅はそう言った後、本当に何事も無かったかのように、クロスワードパズルを解き始める。
それにしても、放課後でも良かろうに…大治郎。
でも、退屈な雰囲気が少し減ったので、感謝かな?
教室を見渡していると、勇気と目が合った。こちらを見ていた様だったけど、俺と目が合うと、さっと前を向いてしまった。