第十五話
「すごい席だな…」
「でも灯台下暗しで、何やってても意外と見つからないよ? たまに漫画読んでるけど、怒られたこと一度もないし」
可愛い顔して意外な奴。いや、顔は関係ないか…。
「授業中漫画読んでて、成績優秀かよ…」
「あ、別に全部の授業で読んでるわけじゃないよ? ほら、立川先生の授業とかさ」
「立川?」
「あ、ごめん。覚えてないんだったね。えっと歴史の先生。黒板に書くことって教科書と同じなんだもん。漫画読んでても支障はないよ。いい先生なんだけど…、授業はツマンナイんだ」
何となく想像できる授業風景…。懐かしさ満開だ。俺の場合、ほぼ全授業そうだったし。
ガム噛んでる奴いたし、弁当食ってるやつとか、携帯ゲームやってるやつとか…。寝てるのが殆どだったような気がする。
さすがにこのクラスには、そんな奴はいないだろうけど。
それにしても、この空気の馴染め安さったらない。もしかして俺、高校生から成長してない? 一応二十代なんだけどなぁ…。
自分の席に鞄を置いて、都雅の席に遊びに行くと、勇気も鞄を置いてこちらへ来る。
都雅の席の隣りの椅子を勝手に借りて座った。勇気は座らずに、黒板側に背を向けて机と机の間にある通路に立っている。
「都雅と話すの、慣れたか?」
「うん、今日は驚いてばっかりで、すっかり。こんなに普通に話せると思ってなかったよ」
「ふうん…そんなに都雅は怖かったのか?」
「怖かった…っていうか、八潮路くんは僕らに無関心って感じだったんだよ」
都雅を見ると苦笑している。
「無関心?」
「そう、こんなに話す八潮路くんを見たのは、今日が初めてだからね。いつもは何が起きても、何もしなかったから」
「へー…いまいち分かりにくい…説明」
「ごめん…えっとね…うーんと…。例えば、教室で誰かが倒れたとするよ?」
「凄い例えだな…まぁいいか。それで?」
「教室には僕と八潮路くんしか他にいなくて、倒れた人を助けなきゃって思うでしょ? でもそういう時、八潮路くんは決して助けてくれない。助けを呼んで来てもくれない…感じ…。えっと…大げさに言うとだけど…」
少し怯えた感じに言い終わって、勇気は恐る恐る、都雅を見る。
都雅は別に怒った様子も無く。
「大げさどころか、その通りだと思うよ」
と言った。
「口も利かない事が多いしね。繋がりがなければ、オレにとって塵も同然だから」
「うわ…うわー。凄い発言」
二人の会話に勇気は首を傾げた。
「えっと…それじゃあ、どうして僕と話をしてくれるの? 今まであまり話したことないのに」
「友達になった要の、友達だから。要の友達は、オレの友達であると同義」
「うわー。んじゃ、校門で俺を助けた理由は?」
俺の質問に都雅は少し躊躇した様子で、一瞬俺から目を逸らした。
「……借りがあったから…」
「借り? 俺に?」
それ以上、都雅は何も言わなかった。
「ふうん…ま、いっか。んじゃ、勇気も友達なわけだから、都雅って呼んでもいいんだな?」
「もちろん」
都雅は即答する。
「えっ…」
勇気は一歩後ろに下がった。
「都雅は勇気って呼ぶってことで、いいよな」
「ん、いいよ」
これもまた即答。
「えっ…ええっ…」
勇気はもう一歩下がる。
「何だよ。嫌なのか?」
「そうじゃないけど…いいの? 本当に?」
ずいと接近した勇気の勢いに、気圧された都雅が驚いたように返事をした。
「も、もちろんいいよ」
「うわー、嬉しいなぁ…、名前で呼び合うって、友達って感じするよね。勉強を教えてもらったりしたかったんだ」
「へぇ…都雅って、そんなに頭いいの?」
「都雅くんはずーっと首席なんだ」
「首席? ずっと? まさか…小等部から?」
「うん」
首席…つまりは学年一位。
「うわ…やっぱり反則だよ…都雅」
「……どんなルールだ、それは」
呆れたように都雅は笑って、自分の前髪を引っ張る。
「こんな髪(ミルクティー色の髪)でいられるのは、その事があるからさ。さすがに学年首位の生徒を、追い出すわけにはいかないだろう?」
「ははぁ…へぇ…」
感心しつつ横目で勇気を見ると、なにやら一人でうっとりとしている(ちょっと怖い)。