第十一話
「だっ大丈夫? 要くん!」
「何だ…これ」
「ど、どうしたの? 誰か呼んでこようか?」
立ち上がれない。立ち上がれないどころか、このままだと地面に突っ伏してしまいそうな感じ。
ヤバイ。
かなりヤバイ。
「こんなところで、何やってんの?」
後ろから声がかけられたが、振り返られないし声も出なかった。
「あっ、八潮路くん」
「あれ? もしかして船迫?」
八潮路と呼ばれたそいつは、おれの右腕を掴まえて引っ張りながら立ち上がらせてくれる。有難い。
ふっと身体が軽くなって、俺は振り返った。
「サンキュー。助かった」
「ん…」
かなり驚いた様子で、そいつが俺を見つめてるのに気づいたのか、鳶沢が慌てた様に喋りだした。
「あ、あのね。要くん記憶喪失なんだって、ほら何週間か入院してたでしょう? それで、えっと」
「記憶喪失?」
「うん、まあね。ところで名前教えてもらえる? 全然覚えてないもんで」
「オレは八潮路都雅。同じクラス」
そう言って右手を出してきた。握手を交わして俺は八潮路を見上げた。
俺よりかなり背が高い。
髪が要や鳶沢と違って染められていて、ミルクティーの様な色だった。
鳶沢と見比べると、ものすごく正反対な感じ。
鳶沢は随分と可愛いイメージだし真面目っぽい。それに対して、八潮路はずっと大人っぽいけど、何ていうか上手くつかめない感じ。どちらかといえば硬派に近いかな。でもトゲトゲしていなくて飄々(ひょうひょう)としている。
やっぱり制服は着崩してるし、何となく昔の自分を思い出して親近感が湧いた。
「そっか、んじゃ友達になってくれない? どうせ前の友達覚えて無いし」
「友達…」
鳶沢が今まで以上に目をまん丸にして、口を大きくあんぐりと開けた。
「か、要くん……ぼ、僕びっくり…」
「あ?」
鳶沢の方に顔を向けると、目を瞬かせている。
顔の向きを元に戻すと、八潮路は考え込むようにして、眉を寄せていた。
「オレでいいのかな? 知らないだろうから言っておくけど、オレは結構アウトローでアウトサイダーなわけで」
腕を組みながら八潮路はそう言って、俺の答えを待っていた。