第一話
この作品はフィクションです。
フワフワと浮いていた。
それ以外に形容する言葉は無く。
空を見上げると星が広がり、眼下に見えるのは家々の明かり。
真上から見ると、町ってこんな風に見えるのか…何て考えていた。
こんなに高いところにいるのに、星にはやっぱり手が届かない。
「そりゃ、そうだ」
声にだして俺は少し笑った。
ロマンチックな事を考えてどうするってんだ。
季節は冬のはずなのに実際、寒さは感じない。息を吐いてみても白くならなかった。
「夢か…はたまた、幽体離脱か?」
「ほぼ正解」
耳元で声がして、俺は反射的に振り向いた。
「やぁ」
そこには黒いながらも光っている猫がいた。
「現在、お前さんは己の意志に反し魂となって体外離脱中。元に戻りたかったら、おいらに付いて来て」
「付いて行きたいのは山々だけど、フワフワして思うように動かないんだけどね」
「えぇ? 仕方ないなぁ…」
黒猫は人間くさくため息をつくと、俺の服の襟をくわえて引っ張った。
「魂でも服着てんだ…」
俺のつぶやきに、黒猫は一旦引っ張るのを止めて咥えていた襟を離す。
「変なとこに気付く奴だなぁ。魂っていっても色々種類があんのさ。体外離脱する魂ってのは大抵服着てるよ。もちろん、お前さんが裸を想像すれば裸になるかも…、でも今はやめておくれよ? 髪の毛引っ張られたくなかったら」
「それは…嫌だな…」
想像しそうになって、慌ててバタバタと体を動かした。危ない危ない。
黒猫は再び襟を咥えて、俺の身体を下へ下へと引っ張っていった。
「レスキュー隊に助けられた人の気分」
「何言ってんだ。ほら、着いたよ」
俺の身体はまだフワフワと浮いていたが、辺りを見回すとそこは公園だった。
すべり台なんかはあるけど、ジャングルジムがない。
「ご苦労様、助かったよ」
もう一人の声がして、浮いたままの俺は顔を動かしてその声の主を見た。
「空を飛ぶのは好きじゃないのに、ごめんね」
「青空が飛べないんじゃ仕方ないよ」
青空?
俺が首を傾げると、黒猫に話し掛けていた黒い服を着た少年が慌てたように、俺の胸元に銀色のシールを貼り付ける。その途端に俺は地面に落ちた。