第6話「優しさに甘えていたくはない」
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「はい!わかりました!お受けします!」
と、レビンが受話器を持って愛想を振りまいていた。
それを、九乃助が睨みつつ眺めていた。
「なに・・、勝手に電話出てんの、こいつ・・」
と、九乃助は声に出さずに思った。
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『1千円以上払ってくれる仕事なら、なんでも承ります。
ご用件は、こちらまで。
電話番号・・
住所・・
by (有)フリー・ナイン』
こんな看板が、都心に近い田舎町の駅裏に貼られていた。
ボロボロで、なんてことのない悪戯書きに近い看板があった。
そんな看板には、今日も危険な雰囲気もしていた。
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ガチャン!
レビンが、受話器を戻した。
彼女は九乃助がトイレに行った間に、勝手に依頼の電話を承った。
そして、トイレから出てきた九乃助は、彼女の行動に腹を立てていた。
レビンは、振り返った。
「あのご近所の山崎さんが、飼っている猫を探して欲しいとの依頼です」
と、九乃助に向かって言った。
九乃助は、椅子に座ってタバコ吸っていた。
表情は強張っていた。
いつに間にか、彼女がマネージャーみたいな真似をしてるのが油断にならなかった。
そして、灰皿にタバコを押し付けた。
「純太は?」
居なくなった純太のことについて聞いた。
今朝から見なかったのだった。
そして、ポケットからタバコ一本出した。
「病院です。しばらく、入院ですって・・」
そう答えられて、九乃助はタバコを落とした。
前話から、更に悪化してしまったのだった。
そして、脂汗がたくさん出てきた。
「九乃助さん・・」
と、レビンが九乃助の様子の変化に気づいた。
「猫探してくる・・」
そう言って、九乃助は立ち上がった。
急ぎ足で、事務所のドアへ向かって行った。
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しばらくして、九乃助の顔には猫の引っ掻き傷が出来ていた。
依頼が終わった足で、事務所のドアの前にいた。
九乃助は、しばらくレビンと居なければならないということに嫌気を感じた。
女性不信の彼には、辛い日々である。
いつも、心の中で葛藤しなければならなかった。
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ドアに鍵がかかっていた。
そして、持ってた合鍵で開けてみると、事務所に入るとレビンの姿が見えなかった。
左右に首を回したが、どこにも見なかった。
居ないと思って、九乃助はホッとした。
そして、テーブルを見ると書置きがあった。
新聞のチラシの裏に書かれていた。
「買い物に行ってきます by レビン」
と、書かれてあった。
「・・」
九乃助は、少し彼女のことを可愛い気があると感じた。
だが、頭がその気持ちを拒んだ。
そして、代わりに、九乃助の頭の中で血まみれになって倒れこんでいる高校時代の自分の姿と、多くの不良と、一人の女性の姿が現れた。
その頭の中での光景は、妙に生々しく鮮明な記憶であった。
「また・・、思い出しちまった・・」
と言って、また事務所から出て行った。
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廃墟の事務所の一階には、駐車スペースがあった。
そこには、九乃助が無理して中古で買った「シビック」という車があった。
この車は、エンジンメーカーとして有名なホ○ダ社の代表である「シビック」の3ドアのハッチバック式のレーシングモデルであった。
九乃助は、車好きで去年貯金で購入したのであった。
傷があると、すぐ板金に出すほど大切に扱っていた。
九乃助はブラシとバケツや洗車用具を持って一階に来た。
今日も洗車をするはずであった。
だが・・。
バケツと、ブラシが手から落ちた。
ない。
なくっていた。
愛車、シビックが。
どこにもない。
九乃助は、事務所に走った。
やっぱり、シビックのキーがなくなっていた。
シビックは、レビンが乗っていったのだった。
「あの女ぁああああああああーーーーーー!!!!!!!!!」
九乃助は泣き叫んだ。
とりあえず、レビンが壊さないでくれるように九乃助は祈った。
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数時間後、シビックがレッカーに引っ張られていた。
みるも無惨な姿で。
「・・」
九乃助は、口を開けてボーゼンと立ち尽くしていた。
その横で、傾斜の駐車場で、サイドブレーキをかけずに降りたレビンは泣きながら謝っていた。
だが、耳には入っていない。
ショックが大きすぎて。
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