第5話「君の後ろに立つのは誰」
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『1千円以上払ってくれる仕事なら、なんでも承ります。
ご用件は、こちらまで。
電話番号・・
住所・・
by (有)フリー・ナイン』
こんな看板が、都心に近い田舎町の駅裏に貼られていた。
ボロボロで、なんてことのない悪戯書きに近い看板があった。
そんな看板には、今日も危険な雰囲気もしていた。
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「あのノンダクレが・・。ちくしょう・・」
と、純太はトイレで便座で座りながら、呪う様に言葉を吐き続けていた。
そして、両手を祈るように握っていた。
腹からは、奇怪な音が出ていた。
「ぐぁあああああああああ!!」
純太は苦痛の声を上げた。
何故なら、前回のせいで、若くして痔になったからだ。
そんな悲劇の少年は、これからもトイレで奇声を上げる。
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トントン・・
タバコの吸い口を軽く指で叩いてから、口にくわえた。
シュボッ・・
ライターの火が点いた。
そして、ライターをタバコに近づけた。
このようにして、タバコの吸い口を叩くのは、タバコの葉が吸い口に集まるからだ。
これを九乃助が知ったのは、つい最近である。
「プハー」
そうして、思いっきり息を吐いた。
時間は、夜の7時過ぎであった。
そして、九乃助の今居る場所は、昔、自分が「フリーナイン」を立ち上げたばかりの時に貼り付けた看板がある駅の裏であった。
まだ電車は通っていた。
この周囲にいるのは、仕事帰りのサラリーマンと帰宅中の学生らであった。
この場所にいるのも、依頼であったからだ。
依頼内容は、奇妙だった。
ただ、この時間に駅の裏に立っていろとのことであった。
言われたとおり、九乃助は駅の裏に立っていた。
だが指定された時間になっても、特に変化はなかった。
吸い終わったタバコを、駅裏の灰皿に押し付けて火を消した。
ちょうど、一本吸い終わった頃に依頼者らしき男が現れたのだった。
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依頼を送った男は、タンクトップを着た筋肉隆々の男であった。
そして、タンクトップから見える皮膚には傷が多数見えた。
顔は、いかにも女性から支持されそうな野性的な顔つきであった。
年齢は、九乃助と同じか下に見えた。
「お前か・・?例のなんでも屋って・・」
と、タンクトップの男は言った。
彼の髪型は、よく見ると、妙なオールバックであった。
「そうだが・・」
九乃助は、質問に答えてやった。
そして、軽くあくびをした。
「なら、いいんだ・・」
「依頼はなんだ・・。眠いから、早く言え・・」
と、九乃助が口を押さえて、またあくびをした。
タンクトップの男は、首を鳴らし始めた。
「いやね・・。俺も、あんたと似た同業者で、私立探偵なんだがね・・」
男は更に、肩も鳴らし始めた。
「俺の名前は、篤元 豪・・。ある男から頼まれ事があってね・・」
男は、足を屈伸させ始めた。
「なにが言いてぇんだ・・。ごう・ひろみ・・」
会話の回りくどさに、九乃助は腹を立てた。
更に、名前を間違えた。
「お宅・・、レビンって名前の女を預かってるか?」
やっと、豪という男は話を切り出した。
そして、拳をコキコキと鳴らした。
「・・」
九乃助は、なにやら危険な予感を察知した。
「以前、お宅に、レビンという女を追って黒いスーツが入って行ったきり連絡が取れなくなった・・」
それは、数日前のことである。
そのことで、彼は九乃助を呼び出した。
彼は、レビンを探してる一味と見た。
「知ってる・・。というか、何故か、俺の事務所に居ついてる・・。あの女、なんなんだよ・・」
九乃助は、目線を下げた。
そして、自分の靴紐がほどけていたのに気づきながら言った。
「俺もよく解らん・・。だが、依頼があってね・・。あの女と関係があるなら・・」
彼は、徐々に九乃助に近づいた。
「関係などないぜ・・。ごう・ひろみ・・」
嫌な言い方をされたので、九乃助は怒った。
また名前を間違った。
「あの女、渡してもらえないか?」
と、豪は言った。
そして、また九乃助と距離を縮めた。
「そうしたいんだけど、一応、ビジネスだから渡せないね・・」
九乃助は、豪の頼みを断った。
「そうか・・、じゃあ、渡してもらう・・」
タッ!!!
思いっきり、地面を豪は蹴った。
豪は、九乃助に向かって、低くタックルするように突進した。
そして、手を空手の構えのように位置させていた。
「っ!」
驚きつつ九乃助は、右足の靴紐のほどけた靴を踵まで脱いだ。
豪は、自分に近づいてくる。
そして、殴りかかってくる。
彼の手は、そのように構えられていた。
「ふん!」
ブン!!
それを見計らって、九乃助は右足を豪の突進が来る前に蹴った。
靴が勢いで脱げた。
「なっ!!」
ダン!!
脱げた靴が、突進中の豪の顔面にヒットした。
ちょうど、鼻に当たった。
だが痛かったが、軽くだったので鼻血は出てていない。
当たった靴は、豪の顔から落ちた。
「なんだ、お前、男好きか・・」
と、九乃助が笑いながら言った。
「てめ・・」
しかし、このことは、男の怒りに火を注いだ。
豪は改めて、両手を拳に構えた。
九乃助は、両手をポケットに突っ込んでいたままであった。
そして二人は段々、距離を縮めていった。
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ジャーー!!
トイレの水が流れる音がした。
ドアが開くと、汗だくの純太が出てきた。
「はぁはぁ・・」
汗を拭いつつ純太は、トイレから過呼吸状態で出てきた。
彼は痔の痛みと、タバスコの辛さによって腹膜がやられてしまっていた。
「・・あの、大丈夫ですか・・」
一層、激しくなる過呼吸で出てきた純太にレビンは話しかけてきた。
純太の過呼吸が落ち着いてきた。
「ありがとう・・、君だけだ・・。僕の心のアクシズは・・」
「(アクシズ・・?シャ○・・?)」
と、純太は涙を片手でわざとらしく拭いた。
ちなみに、彼はアクシズと、オアシスを間違った。
それに、レビンは気づいた。
「ところで・・、今日のご飯は?」
と、純太はトイレから出て、いきなり晩食の内容を聞いた。
「はい、私の得意料理の激辛のタン麺です」
そう答えられて、純太の顔が凍った。
痔は治りそうにない。
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タッ!タッ!
豪は両足で跳ねながら、体を上下に揺さぶった。
距離は十分に、九乃助に近づいていた。
さっ!!
そして、豪は右腕を前に出した。
強力に握られた拳は、九乃助の顔にめがけて放たれた。
九乃助の方は、避ける気配すらしなかった。
バチン!!!
強烈な打撃音がした。
「・・!!」
豪は目を疑った。
彼は、いわゆる筋肉自慢であった。
日ごろ、サンドバックを殴り続けていた。
そのため、両腕の筋肉とスピード、破壊力には自信を持っていた。
その拳で、立ち向かってくる奴は誰だろうと屈させた。
拳を敵の顔にめり込ませてきた。
だが、そんな豪の拳が、いとも簡単に九乃助の左の片手で止められた。
顔面に拳が近づいた瞬間に、キャッチされた。
「なんだと・・」
メキメキ・・
そして、豪の拳には握力からの圧力が来た。
物凄い激痛と、屈辱だった。
九乃助の握力は、万力のように徐々に強くなってきた。
「ぐっ!!」
豪は耐えた。
激痛を。
九乃助の口が開いた。
「お前の依頼者に伝えろ・・。ビジネスで、あの女は預かってるんでね・・。そう易々、渡したら俺の信頼性が崩れちゃう・・。信頼性って、崩されたら戻すの大変なんだぞ・・、ってな・・」
そして、九乃助は左手を離した。
その手から開放された、豪の右手は赤く跡がついていた。
「ぐっ・・、てめ・・」
豪は、右手を押さえてうずくまった。
九乃助は、豪に背を向けて歩いて行った。
ゴトン!ゴトン!!
電車の音が、豪の耳に響いた。
右手は、痙攣を起こしていた。
そして、うずくまってから、顔を上げたときには九乃助の姿は消えていた。
こんな簡単にあしらわれ方。
自慢のパンチを握られた屈辱は、豪に強い衝撃を与えた。
「奴が・・、「関東圏の悪夢」だと・・」
ドン!!
左手で地面を殴った。
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九乃助は、廃墟の事務所の灯りが見える所まで歩いた。
そして、ふと足を止めた。
「あの女・・」
彼女が原因で、これからもあのような男が現れると思った。
「あっ・・」
右足に違和感を感じた。
足元を見てみると、右足の靴がなかった。
さっき、豪に蹴り上げた靴を回収するのを忘れたことに今、気づいた。
どおりで歩いてる途中、痛かったと思っていた。
「だから、女は嫌いなんだ・・」
仕方なく、そのまま事務所に帰った。
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