第3話「神様は大嫌い・・」
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『1千円以上払ってくれる仕事なら、なんでも承ります。
ご用件は、こちらまで。
電話番号・・
住所・・
by (有)フリー・ナイン』
こんな看板が、都心に近い田舎町の駅裏に貼られていた。
ボロボロで、なんてことのない悪戯書きに近い看板があった。
だが、この看板が一つの組を潰した・・。
組とは、もちろんヤクザの意味である・・。
そんな看板には、危険な雰囲気もしていた。
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ガラッ・・。
午後6時の居酒屋のドアが開いた。
「いらっしゃい!」
鉢巻を巻いた店の主人が、焼き鳥をうちわで扇ぎながら、掛け声を出した。
「ちっす・・」
開けたのは、ツケばかり溜める客人の九乃助であった。
彼は、どこかクタクタな感じだった。
そんなフラフラ感を漂わせ、カウンターの椅子に座った。
「どうした、珍しいー。こんな時間に早く来るなんて」
「いろいろあってね・・」
店主の声を聞きながら、九乃助はポケットに手を突っ込んだ。
いつになくお疲れ気味の九乃助を、変に店主は思った。
すると・・。
ポケットから出た九乃助の手に握られていたのは、札束であった。
「なっ!!」
店主は驚いた。
その反動で、うちわを落とした。
「これ、今までのツケね・・」
そう言って、札束を九乃助はカウンターに置いた。
「なにが、あったんだよ!!九ちゃん!!!別に、少しずつで良いんだよ!!ツケなんて・・」
急に気前良く、ツケを払われたため、九乃助が犯罪をやっちまったと誤解してしまった。
「はぁ・・、実はね・・」
九乃助はため息をついて、さっきまでの出来事を思い出しつつ語り始めた。
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先日の夜、純太の独断でレビンの依頼を受けた九乃助こと、フリーナイン事務所。
レビン少女は、未だに、自分の名前以外は語らずに居た。
何故、追われているのは言わなかった。
追っ手の黒いスーツの男二人は、身分を証明できる物を持っていなかったので、不法侵入ということで警察に送った。
結局、誰に追われているのかすら不明である。
更には、廃墟の事務所に泊めてくれとまで言われたのだった。
そこから、九乃助のクタクタの始まりだった。
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時計は、あれから午前1時を指していた。
事務所のシャワー室からは、音がしていた。
純太は、椅子に腰掛ける九乃助の目の前にいた。
「彼女は、今、シャワー浴びてます・・」
「知ってるよ・・。誰が覗くか、ぼけぇ・・」
と、純太がレビンの入浴中なのを九乃助に知らせていた。
そんなこと言われても、九乃助の心の病気は、なにも思わせることはなかった。
「彼女の部屋なんですが・・」
「泊まらせるのかよ!!!ふざけんな!!!」
純太の部屋割りの話に、激しく拒否反応をした。
それほど、心の病気がひどかった。
というか、そこまでに至らせた原因が気になる。
「嫌だぞ!!」
と、九乃助は純太の襟首掴んだ。
「いいじゃないですか・・。うふふ・・」
何故か、嬉しそうに純太が言った。
この廃墟で使える部屋は、事務所だけであり、この部屋の構造上で寝室が、隣同士の2つ部屋しかなかった。
だから、どちらかが、レビンに部屋を譲って事務所の椅子で寝なければいけなかった。
つまり、純太が言いたいのは・・。
「九乃助さん、椅子で寝て」
純太がはっきり言った。
九乃助の顔の影が濃くなった。
純太は笑顔だった。
九乃助の顔は、気持ち悪いくらいに穏やかだった。
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「ぎゃあああああああ!!!!!!!!!!!!」
物凄い奇声が聞こえた。
ゴシゴシ・・
レビンはシャワー室から、自前の服に着替えて、タオルで髪を拭いていた。
さっき、事務所から物凄い奇声が聞こえていた。
なんだと思いながら、事務所の方に向かった。
「ひっ!!」
事務所の方を見たら、九乃助が純太にアルゼンチン・バックブリーカを決めていた。
その光景が、物凄く殺気立っていた。
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純太は気絶していた。
原因は、さっきのアルゼンチン・バックブリーカなのは言わなくても解るであろう。
まるで、カニのように綺麗な泡を吐いていた。
プシュッ・・
ビールの缶が空いた。
そこから、泡が出ていた。
「・・」
ビールを開けた九乃助は、飲みづらかった。
理由は、ビールの泡が純太の泡に似ていたのと、事務所には、気絶した純太以外で、自分の病気の対象であるレビンがいたからであった。
「・・」
「・・」
椅子に座っていたレビンの方は、話しかけづらかった。
さっき、テレビを点けても、深夜帯のため変な番組が真っ先に画面に映ったため消した。
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室内二人(プラス1)の空間では、心の葛藤が始まっていた。
九乃助の心の中は、こうなっていた。
なんで・・、こんな期限がいつまでだか、わからん仕事しなきゃならんのだ・・。
純太のやろう・・、女好きだったか・・。
くそ・・、ここで寝たら、ジャッキー・チャンの映画「スポルタンX」みたく、この得体の知れない女に、事務所の物盗られる事か・・。
不安で眠れんぞ・・。
さっさと、寝ろ!この女!!
っていうか、なんで、追われてんだよ!!
事情ぐらい話せんのか!!
今度から、事情なしの仕事は受け付けんぞ・・。
いっそ、もう男限定にしようかな・・。
この仕事・・。
ああ、でも、ホモって思われんの嫌だし・・。
いや・・、むしろ、思われていいや・・。
「うほっ・・、いいなんでも屋」って名前にしよう・・。
いや・・、でも、本物から掘られんの嫌だな・・。
あっ!
「掘る」って漢字で思い出した・・。
出所後のホ○エモンは、一体、どんな心境の変化だ・・。
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レビンの方。
さっきから、ずっと黙ってるけど・・。
この人、女性不信って本当かしら・・。
なにが、あったんだろう・・。
気になる・・。
でも、今日、ずっと逃げてたせいか・・。
眠い・・。
・・。
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「すぅ・・」
「・・!」
椅子に黙り込んでいたレビンから、寝息が聞こえた。
「寝やがった・・」
こうして、二人の心の葛藤は終了した。
かに思えたが・・。
「この俺を、油断させる気か!!」
九乃助の女性不信は大きすぎた。
だから、狸寝入りと思い込んだ。
そして、自分が寝た隙に物を盗ると信じ込んだ。
「こいつ・・、マジで寝てるのか・・」
そう思って、近づいてみた。
だが、聞こえるのは寝息だけだった。
「こいつ、演技上手いな・・」
どこまで、不信がひどいんだ、こいつは・・。
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ここで、また心の葛藤スタートした・・。
マジで寝てるのか・・。
こいつ・・。
いや、油断させる気だ・・。
俺を・・。
ちょこっと、体触ってみるか・・。
なにか、反応をしめしたら確信犯だ・・。
いや、でも・・、セクハラで訴えるかもしれない・・。
そしたら、勝ち目ないよ・・。
この日本じゃ・・。
ああ、アメリカ行きたい・・。
アメリカなら、勝てる・・。
いや、駄目だ!
今、関係ないだろ!!
問題は、こいつが・・。
いつ盗むかだ・・(段々、盗まれることが前提になってきてる)
どうする!!どうするよ!俺!!
どうするぅーーーーーー!!!!!
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夜中の1時から、9時間後・・。
「・・!」
レビンが目を覚ました。
よっぽど疲れていたせいか、ぐっすり眠っていた。
気づくと、レビンの体には毛布がかかっていた。
「あっ・・」
そして、彼女の隣には、心の葛藤の末に眠り込んだ九乃助がいた。
午前5時までの心の葛藤だった。
「もしかして・・」
彼女は思った。
九乃助は、自分の身を守るために眠らずに、ずっと傍に居てくれたと・・。
女性不信とか、言っておきながらも、自分をこうして守っていてくれたと・・。
大変な誤解をした。
確かに、毛布をかけたのは九乃助であった。
そのせいもあってか、彼女は変な感情を抱いてしまった。
「・・」
そして、レビンは、そっと自分にかかっていた毛布を九乃助にかけた。
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その数時間後が、九乃助が起きて居酒屋に言った時間であった。
以上のことの一部を、九乃助は店主に話した。
「で・・、今までのツケを出してくれた彼女は、なにしてるの」
と店主が言った。
九乃助は、口に焼き鳥を放り込んだ。
「掃除とかしてやがった・・。不覚にも寝てしまったが、何も盗まれてない・・。だが、いつ、隙を突かれるか・・」
と女心も解らずに言った。
そのことに、店主は笑って答えてやるだけだった。
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事務所では・・。
「あっ・・、そこ・・」
「ここですか・・」
「あっ!ちべて!くそ!!あの飲んだくれ!!!」
純太が、レビンに腰に湿布を貼って貰ってた。
「野蛮な男でしょ・・、あいつ・・」
そして、湿布を貼られ終って、純太は服を着ながら言った。
「いいえ・・、素敵な方ですよ・・、彼・・」
「へっ・・」
そう勘違いしたレビンは答えた。
純太には、悪い冗談に聞こえた。
未だに、レビンは何故、追われてるか不明だったが、この3人の生活は始まった。
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