第36話「君が待っているなら・・」
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商店街から、離れた場所に大きな庭園のある和式の木造築の屋敷がある。
ここは「信代会」の本拠地。
座敷には、数人の人影が見えた。
その数人は、座敷の畳の上に、各自自由な姿勢でいる。
座敷の中で、一人だけ正座で座っている者が居た。
正座で居るのは、袴姿の男。
そして、彼は口を開いた。
「桐谷が、帰って来ない・・」
静かに、語った。
だが、彼の内に秘めている考えは、この座敷に居る者すべてには解っている。
「焼野原・・、九乃助・・」
感情をむき出すように、男は言った。
その言葉に、他の者たちは頷く。
男は、正座を崩して立ち上がった。
彼らの執念は、計り知れない・・。
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この上なく、とてもなく高い高層ビルの上階の個室がある。
そこに座る人物は、よほどの財力があると見えた。
この最上階の個室に、レビンの捕獲を命じている中年男性がいた。
そして、最上階の窓から景色を眺めている。
中年男性の横には、黒服がいた。
黒服は、怯えている様子であった。
中年男性は、持っていたワインを口元に近づける。
すると、同時に口元が動いた。
「たった一人のチンピラに、信代会も遊ばれてるとはな・・」
そう言った。
「信代会も当てに出来ないとなると・・、どうするか・・」
中年男性は、口元に近づけたワインを飲み干すと、グラスを手から離した。
バリン・・
グラスは、床に当たって砕けた。
細かい破片が、飛び散る。
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夜も深まった午後の10時。
何所にでもあるコンビニエンスストア。
その駐車所に、CR−Xが。
そして、店内には、九乃助と豪の姿が見えた。
しばらくすると、二人は買い物袋を持って出てきた。
袋の中には、酒、ジュース、お菓子で一杯である。
「まったく、俺が雑用ですかい・・」
と、豪は、CR−Xに荷物を積みながら愚痴っている。
九乃助も、愛車の後部座席に荷物を積んでいた。
「仕方ないだろ・・、じゃんけんで負けんたんだから・・」
と、九乃助がそう言いつつ、二人は車に乗り込んだ。
「というか、どこか飲み屋に行った方が安上がりですよ・・」
豪が、そう言う。
「予約取れなかったんだから、仕方ないだろ・・」
そう言い返した。
どうやら、これから飲み会をやるようである。
この飲み会は、九乃助の借金返済記念。
やっと、彼は返済に成功したのである。
その喜びの感謝祭であった。
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アパートの九乃助の部屋では、着々と準備が進んでいた。
準備と言っても、大したこともしないので、すぐに終わった。
部屋のテーブルには、レビン、純太、武田、キエラ、桐谷の姿が見える。
桐谷とは、もちろん、先日の銃使いの信代会の桐谷である。
信代会には、任務失敗での恥と、九乃助、キエラの脅しで戻れないので、彼はおとなしく服従の道しかなかった。
だから、同じテーブルに居る。
「テーブル拭け・・」
キエラは、桐谷をこき使った。
その彼女に、同調するように、子犬のジダンも吼える。
「はい・・」
嫌々、桐谷は従う。
いつか、逆襲してやろうと思ってはいるが、彼の武器である銃は破壊された。
よって、もう逃げ場はない。
それに逃げ出さないには、もう一つ理由がある。
「別に、私がやるから・・」
と、レビンは気を使うように言う。
その言葉に、桐谷の心は、少し救われる。
「いいよ、別にこんな奴・・」
と、キエラは言い返した。
「ああ・・、僕が拭きますよ・・」
「そう?」
桐谷は、そう言ってテーブルを拭き始める。
何故か、彼にも解らなかったが、レビンを捕獲するという目的が薄れていた。
理由は解らないが、彼女に危害を加えたくないという思いが、桐谷に芽生えた。
たぶん、かって牙を剥いた豪、キエラも同じ気持ちであるのだと思っている。
武田と、純太はテレビを見ながら、二人して語り合っていた。
二人が語り合っているの内容は・・。
「レビンちゃんは、酒が弱いのは解った・・。だが、キエラを酔わすのは難しそうだ・・」
と、武田はボソボソ声で言った。
「とりあえず、篤元殿にも協力を求めましょう・・」
そう純太が言うと・・。
「あの男は、使い物にならん!!」
武田は、そう言い捨てた。
この二人は、エロ計画を立てている。
この前のリベンジであった・・。
武田の足元には、ジダンが近づいている。
もちろん、この計画は、薄々気づかれてはいるのに、気づいていない。
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アパートまでの道のりを、荷物を積んだCR−Xが駆けている。
運転席の九乃助は、片手でハンドルを動かしていた。
「信代会ですか・・」
と、豪は助手席に体重を預けて言う。
「ああ」
「レビンちゃん捕獲も、そろそろ本格的になって来た・・。ってことですかい・・」
そう豪は、窓の景色を眺めて言った。
彼は彼なりに、心配していた。
彼女を失いたくない気持ちは、皆同じである。
だから、信代会について対策を考えようとしていた。
「あいつらが本気になろうが、関係ない・・」
ハンドルを切りつつ、九乃助は言う。
その言葉に頼もしさを感じる。
「そういや、レビンちゃんが、こっち来てから・・、まだ3ヶ月しか経ってないんですね・・」
と、豪は背伸びをして言う。
やたら、この3ヶ月が長く思える。
だが、もう3ヶ月が経ったと九乃助には思えた。
訳も解らず追われている少女が来てからだ、九乃助の毎日が長くなったのは。
そして、短くも思えたのは。
毎日、純太少年と平凡に依頼を受け、適当に飯を食い寝の生活。
だが、それが平凡じゃなくなったのも、レビンが現れたから。
そして、隣の助手席に居る豪と殴りあったが、今はこうして同じ車に居る。
キエラには、ナイフを投げつけられたが、今では、いい九乃助とレビンの妹分だ。
だが、キエラはレビンより年上・・。
桐谷については、今後、どうなるか解らないが、今はキエラに扱き使われている。
武田、純太も相変わらず。
そして、子犬のジダンも。
この調子が続けばいいと、九乃助は願う。
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しばらくして、アパートに着いた。
買い物袋も持って、二人は車を降りる。
その二人が来たのを、アパートの窓からレビンは気づく。
「あっ、九乃助さん、豪君が来たわよ」
と、声を出した。
それを、出迎えるように、純太、武田、キエラ、桐谷は動き出した。
二人は、アパートのドアに着いた。
「重っ・・」
と、豪は愚痴った。
「情けない奴・・」
「ああん!!」
ボソッと言った、九乃助の一言に豪は反応した。
アパートのドアノブを握った。
そして、ドアを開けた。
「ただいま」
九乃助は、そう言って部屋に上がった。
ドアを開けた向こうには、レビンが居る。
「お帰りなさい」
そう、レビンは笑顔で返した。
これから、お菓子の袋、酒の缶を開け、飲み会が始まる・・。
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今回で、一区切り付けさせてもらいました。
しばらく、充電とさせて頂きます。
連載の再会は、もしかしたら、意外に、すぐかもしれませんし、結構かかるかもしれません・・。
ですが、構想と書きたいネタをまとめてから、この作品を再スタートさせたいと思います。
このフリーナインは、未熟な出来ですが、書き手である自分には、物語という物を書いて行く自信をつけさせてもらった作品なので、まだまだ付き合っていこうと思います。
そして、この作品を支持してくださった方々には、とても感謝しています。自信をつける原動力となりました。本当に、ありがとうございました。
では、長くなりましたが、以上です・・。