第33話「ディバック」
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S県K市の駅裏の夜は、荒れている。
深夜は、不良などの高校生やチンピラがうろついていて危険であった。
警察も投げやりになっていて、治安は安定しない。
だが、本当に投げやりになっている理由は、この街を牛耳る大きな組の存在があるからだ。
その組は、人数自体は多くはない。
だが、その組の人間は特殊技能を持っている。
その特殊技能とは、とても残忍な技能。
だから、恐怖して警察も抵抗できない。
今は、組は落ち着いているはずであったが、一つの騒ぎが、彼らを動かし始めた。
その彼らとは、「信代会」と言った・・。
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商店街から、離れた場所に大きな庭園のある和式の木造築の屋敷がある。
その屋敷は、とても大きく竹垣で囲まれている。
ししおとしが、音を鳴らしていた。
そう、ここは「信代会」の本拠地である。
そのししおとしが、響く距離の座敷に数人の人影が見えた。
彼は、信代会の者であるのだろうか。
その数人は、座敷の畳の上に、各自自由な姿勢でいる。
座敷の中で、一人だけ正座で座っている者が居た。
正座で居るのは、袴姿の男。
どこか、気品漂う雰囲気がある。
そして、彼は口を開いた。
「たった一人に、二人も・・」
と、言った。
彼は、写真を眺めている。
写真を眺めている眼光は、激しく鋭い。
「だから、その写真の野郎をぶちのめせばいいんだろ・・」
と、座敷に横たわる一人が言った。
その声の方向に、袴の男が目を向ける。
「小物探偵と、裏切り者のお嬢さんもね・・」
と、口元に笑みを浮かべて話した。
それを、聞いて他のメンバーもにやけた。
男が握っている写真には、九乃助の顔が写っている・・。
「ふぁああ・・」
と、大きくあくびして、その座敷から立ち上がる者がいる。
そして、背伸びをした。
座敷から立ち上がった者は、スーツでネクタイをしている。
長い黒髪の男であった。
「ねぇ、その写真くれない・・」
と、袴の男の方に指を指した。
そして、その黒髪の男の口元はにやけている。
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日は照っている。
秋という感じにはなっていた。
公園の木々も変化を見せている。
キエラは、公園のベンチに腰をかけている。
求人誌を眺めながら、ため息をついていた。
先日の失敗を反省しつつ、新しいバイト先を探している。
コツコツコツ・・
すると、足音が聞こえてきた。
その足音の方に、目を向けてみた。
「!!」
視線の先には、座敷にいたネクタイをしている長い黒髪の男であった。
キエラは、悪寒を感じた。
自分のスカートをめくった。
太ももには、ホルダーが巻かれている。
ホルダーには、小型のナイフを視線の方に投げつけた。
ッタ!!
だが、男を外れ、ナイフは地面に突き刺さった。
いや、外れたのではなく、男が避けた。
そして、キエラは眼光鋭くして、男を睨みつけた。
「桐谷秀一・・」
と、睨んで言う。
それが、この男の名前らしい。
「キエラお嬢様・・、お久しぶりです・・」
と、桐谷が言葉を返した。
二人は、顔見知りらしい。
「裏切りなどして・・、どういう心境でしょうか・・、お嬢さん・・」
「裏切るも何も、私は、元々あの家の空気が嫌いだった!!」
桐谷が見下しつつ言ったことに、キエラが、そう言い返す。
「ああー、はいはい、そうですか・・。お嬢さん、警告しておきますが・・」
また、桐谷が話し出した。
「私の目の前から、消えるか、失せろ!!」
ホルダーから、ナイフを抜き取って投げつけてきた。
桐谷は、また飛んできたナイフを後ろに跳ねて避けた。
「焼野原の命は、ない物と思ってください。本格的に、信代会は動き出しました・・」
そう桐谷は言った。
キエラの背筋が凍る。
「黙れーーー!!!!!」
また、咆哮してナイフを投げつけた。
「ふん・・」
ナイフは地面に突き刺さった。
次の瞬間、桐谷の姿は消えていた。
まるで、幽霊のように。
キエラの手は震えている。
「桐谷が動いた・・」
そう呟いた。
木々から、葉が落ちた。
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その頃、九乃助は・・。
「バームクーヘン、うめー」
自宅のアパートで、バームクーヘンを食べていた。
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