第31話「フライ・デー・ライオン」
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秋だと言うのに、未だに暑い。
残暑と言うものであるのだろうか。
九乃助の住むアパートも、この夕方の残暑が襲っている。
しかし、九乃助は違うことで悩まされていた。
「金がない・・」
増える借金の膨張で、困っている。
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このアパートには、風呂がついていないので銭湯通いであった。
近くの古びた銭湯の女湯には、キエラとレビンがいた。
人いない銭湯の女湯からは、二人の声が聞こえていた。
「やめなよ・・、くすぐったいから・・」
と、レビンに背中を洗ってもらってるキエラが言う。
「いいじゃないー」
「やめて・・」
レビンは、構わずにキエラの細く色白い背中を泡立てていた。
「ひゃっ!!」
首筋を触られたキエラが、声を出した。
くすぐった過ぎて、思わず。
そのことに、レビンは笑った。
「キエラちゃん、首筋弱いー」
また、わざとレビンは首筋を狙った。
当然、キエラにはくすぐったい。
「やめ・・、って・・」
キエラの顔は赤くなった。
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「金がない・・」
正座しながら、九乃助は貯金通帳を眺めている。
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体が洗い終わったキエラは、シャワーで泡を洗い流した。
「そろそろ、上がろうか」
と、レビンは脱衣場に戻った。
体には、バスタオルが巻いていた。
「!」
キエラは、急に、じっとレビンを眺め始めた。
凝視と言っていいほど、見つめている。
「・・!どうしたの・・」
そのキエラの様子に、レビンは気づいた。
あまりにも、凝視するから。
「ど、どうしたの・・」
さっきので、キエラは変な趣味に走ってしまったかと、一瞬思った。
すると、キエラは口を開いた。
「太ったか?」
あっさりと、言う。
レビンのバスタオルが落ちた。
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レビン・ハチコ(18)のこの一週間。
月
自宅のアパートにて。
「このケーキ、美味しいー」
とチョコレートケーキを手づかみで、ミルクティーと一緒に頂く。
火
自宅のアパートの前にて。
「九乃助さん、げっそりしてますね・・」
アパートの前で鉢合わせした九乃助に言う。
「ちゃんと、食べた方がいいですよー」
と、片手にアイスクリームの三段重ねを食べながら言う。
あの時の九乃助の目は、「言葉が出ない」を表現していた。
水
自宅のアパートにて。
煎餅をかじりながら、TVを眺める。
木
キエラ、豪、純太のメンバーでカラオケ。
その際、お菓子類の袋を開けまくる。
「青く眠るー、水の星にそっと・・♪」
と、マイクを握る。
金
自宅のアパートにて、借りてきたビデオを見る。
片手には、キャラメル・ポップコーンの大盛り。
「ク○トロ大尉、渋いなぁー」
土
九乃助、純太とボーリング場で、焼肉を賭けた激しいスコア争いを行う。
九乃助は、ガタ連発。
大きくスイングを取った瞬間、ボールが手から離れなかったために、純太は利き腕を捻挫。
レビンの一人勝ちで、焼肉をご馳走になる。
日
現在に至る。
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銭湯から戻ったレビンは、過去のことを回想した。
この日々の過ごし方に、レビンは自宅で体育すわりになっている。
これは、追われている身とはいえ、無職丸出しの日々ではないか。
明らかに、自業自得である。
「いかん!いかん!これでは、太る一方じゃない!!」
と言って、タンスからジャージを取り出した。
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そして、その翌日の夕方・・。
ジャージを着て、アパートから出た。
どうやら、ジョギングをするつもりのようである。
さすがに、これではマズイと彼女は感じたのであった。
ただでさえ、キエラに負けてるのだから・・。
「あっ、九乃助さん」
準備体操中に、アパートの前で、九乃助と鉢合わせした。
「どこ行くんだよ・・」
と、九乃助は言った。
さっき、いつもの居酒屋にツケで食べてきたので、やつれてはいなかった。
「ジョギングですよ」
と言って、レビンはアキレス腱を伸ばしている。
そういや、連載始まって以来だ。
レビンが走るのは。
「そういうわけで、レビン・ハチコ、行きますー!」
と、レビンは言って走り出した。
「黒服に、見つかるなよー」
九乃助は、そう言っておいた。
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「見つかられました・・」
と、アパートに横たわる九乃助の携帯から、レビンの声がした。
「アホか!!キサマァ!!!」
携帯越しに、九乃助は叫んだ。
注意を破られた怒りで・・。
話を聞くに、いつも通らない裏道を走っていた。
そして、帰り道を探してる途中で、黒服に見つかる。
追いかけられ、どこかの廃墟の2階に追い詰められ、今隠れている。
「助けてください・・」
と、廃墟の隅っこでレビンは携帯を握っている。
「ったく・・、場所は?」
九乃助は携帯を握って、アパートのドアを開けた。
だが、レビンが見つかるのは時間の問題であった。
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「観念するんですね・・。お嬢様・・」
「・・」
と、黒服の一人が言う。
黒服たちは、レビンを見つけた。
そして、捕獲するために壁際にレビンを向かわせた。
黒服の一人が、廃墟の壁に背を付けるレビンに迫る。
「・・」
しかし、彼女は落ち着いていた。
怯えては居ない。
むしろ、余裕さえあった。
その様子に、黒服は違和感を感じている。
ブォオオオオーーーーン!!!!!
「!!」
強烈なマフラー音が、聞こえた。
地面に響き渡るくらいの。
しかも、音が近い。
迫ってくる。
「なんだ!!」
黒服の一人が、その音がする方向を向いた。
その瞬間。
ブォオオオオーーーーン!!!!!
「うわぁ!」
振り向くと、すぐそこに大型のバイクが現れた。
黒いオンロード・ボディのCBRの姿が、黒服たちの目の前に出現した。
ここは、2階である。
2階とはいえ、階段をバイクで駆け上がってきたのは、もちろん・・。
「女一人に、てめーら、何人だ!シャバ憎が!!」
「九乃助さん!!」
焼野原九乃助である。
バイクで、突進するように黒服たちに走った。
容赦ないバイクの突撃が、有無を言わさずに黒服たちを散らせた。
随分、あっさりとした散り具合である。
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「ったく・・、気をつけろと言ったろが・・」
そう言って、レビンを後ろに乗せて、九乃助は廃墟から出た。
日が落ちて暗くなった道路を、黒いCBRが走っている。
レビンは、両腕一杯に九乃助の背中を掴んでいる。
「だって・・」
と、レビンは見た目によらず大きな九乃助の背中を感じつつ言った。
その背中は、温かく感じる。
「・・」
九乃助の方は、背中に柔らかい物を感じた。
妙に、レビンが背中に抱きつくからだ。
それが、気を散らせていた。
「もう少し、俺から体離せ・・」
気が散るので、そう言った。
「?」
その意味を、レビンは気づいていない。
こうして、二人はアパートに帰って行く。
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