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第30話「ボーイズ・ブラボー(後編)」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


武田の記憶を遡る事に、数年前。

時代は、ノストラダムスの大予言やら、なんやらで無駄な大騒ぎのあった世相である。

だが、実際は、みな平然と夏を過ごしていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


誰もいないトイレで、九乃助と武田は向かい合った。

それも、互いに拳の届く距離で。

「・・」

「・・」

また、互いに睨み合う。

そして、互いに右手に力を込めた。

二人の考えは同じ。

こいつの顔に、右手をぶち込む。

だから、二人のやることは同じだった。


バコッ!!!


同時に、二人は互いの顔面に拳を入れた。

同時に、体制を崩して鼻血を噴き出す。


「ぐっ!!武田ぁ!!!」

後ろ足で踏みとどまった九乃助が咆哮する。

「焼野原!!」

武田は姿勢を崩したが、互いに、また体をつんのめさせた。

一手動くのが早かった九乃助は、武田の左膝を蹴る。

メリ・・と音がした。

「ぐっ!!」

それによって、武田の姿勢が崩れた。

左の足が踏ん張れない。

更に、崩れた体制を九乃助は狙う。

右の拳を、顔面に打ち込んだ。


バゴッ!!


「うっ!!」

武田の口から血が吹いた。

効いている。

そして、武田の体が後ろに倒れこんだ行く・・。

と、九乃助が思った瞬間。


倒れようとした武田の両手が、九乃助の顔をキャッチした。

「!!」

九乃助の顔を支えにしたことによって、体は倒れない。

そして、九乃助の体をキャッチした武田は・・。

「うおおおおお!!!!!」

叫んだと、同時に自分の頭を大きく反らした。

武田の腹筋と、背筋に力が入る。

九乃助は、両手から頭を離そうとしたが、両手の力が強くて離れられない。

武田の頭が、大きく腹筋運動して九乃助の顔面に目掛けてくる。


「!!」


メキョ・・


九乃助の顔面に、武田の頭突きがめり込んだ。

鼻血が、噴水のように噴出した。

顔面にめり込んだ頭突きの痛みが、顔中に走る。

しかも、その衝撃で意識が飛びそうだ。

「が・・」

頭突きが効いたせいで、後ろにフラフラとよろめいて、武田から体が離れた。

額を赤く染めた武田の目が血走っている。

その武田は、左拳を大きく振りかぶっている。

今の衝撃で意識が朦朧としている九乃助に目掛けて、左拳が飛んだ。

「うっ!!」

対応が遅れた九乃助に避ける術はない。


バゴッ!!!


左の拳が、九乃助の腹部に命中した。

「うぐぉ・・」

内臓に衝撃が響いた。

口から、また血が出てきた。


駄目押しに、また武田の拳が九乃助の頬に目掛けて飛んできた。

「けっ!!!」

腹部と、顔面の痛みに耐えて、九乃助は大きく横にかわした。

大きく武田の拳が空を切った。

「っ!!」

拳の空振りで、武田の姿勢が崩れた。


その瞬間・・。

「ああああああああ!!!!!!!!」

九乃助が大きく咆哮する。

右拳に大きく力が篭る。

そして、前につんのめった武田の顎を目掛けて、下に大きく振った。


ブン!!!


空気が裂けるようにして鳴った。

拳が大きく上昇した。

「うっ!!」

武田の顎に、拳が接近した。


ガゴッ!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そこから先は、武田は覚えてはいなかった。

気づいたら、病院のベッドである。

確かに残るのは、顎の痛みと、九乃助を殴ったという感触。

そして、敗北感。

屈辱を受けた武田は、憎しみに体を支配された。


こうして、二人は出会った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


時間は、武田がトイレに閉じ篭った所に戻る。

「・・」

と、以上のことを、携帯から聞いたレビンは黙り込んだ。

この話の段階では、現在の二人の関係にリンクさせられない。

「・・」

武田は、黙り込んだ。

そして、脳裏には・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ぐぉおお・・」


まるで、地獄の底から聞こえるような潰れきった声が聞こえる。

血まみれになって倒れこんでいる高校時代の九乃助が、多くの不良に囲まれている。

そして、長身の男と、一人の女の子の姿。

どこかの道路には、多くの血が流れている。

その光景を、震えてみている武田剛志本人。

そして、血のついた車・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おーい!」


脳裏に過去の映像が蘇っていた武田の耳に、九乃助の声が聞こえた。

携帯のレビンにも、そこ声が聞こえる。

「九乃助さんが、来たみたいですね」

「ああ・・、すまないな・・。こんな話して・・」

回想するをやめた武田は、そう言った。

いつもとは、違う雰囲気である。

「いいえ・・、話振ったのは、あたしですから・・」

と、レビンは聞いてはいけないことを聞いた気分で、罪悪感があった。

「昔は、あいつも俺も殴り合うだけの・・、バカってことだよ・・」

「・・」

昔の嫌な過去が蘇ったせいか、少し武田は暗くなっていた。

更にもう一声、レビンは言う。

「昔は、どうだったか解りませんけど・・。私は、昔のこと含めても、今みたいな喧嘩してる武田さんと、九乃助さんが大好きです・・」

携帯から、レビンの声が響いた。

「ああ・・、そうだな・・」

頭のてっぺんから、冷水をかけられたようだった。

自分が可愛いと思っている気弱だった少女の言葉に、急激に現実に戻ってこれたような気分だ。

昔の嫌な記憶よりも、明らかにトイレに閉じ込められていると言う情けない現実の方が美しく思う。

武田は、内に篭りすぎた。

「やっぱ、レビンちゃんは、俺の嫁にしたいよ・・」

「それは、困ります・・」

気分を、外に向けるように武田は言った。


バキーーーン!!!!


トイレのドアを、丸太が貫いて現れた。

「ぐあああああ!!!!!!!」

丸太が、武田の腹に突っ込んだ。

「よっしゃ!ドアが開いた!!」

と丸太を突っ込んだ九乃助が、ガッツポーズをした。

わざわざ、どこから丸太を持ってきたのである。

それで、ドアと武田を貫いた。


「あいつのこういうとこが、嫌いだ・・」

「否定しません・・」


腹に丸太が突きつけられた武田が、そう言った。

レビンも同意した。


ちなみに、武田は授業に間に合った。

怪我を負いながら。

九乃助の借金は、ドアの弁償費で増えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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