第2話「不安なのは、こんな夜に馴れてしまったこと」
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廃墟の5階建てのビルがあった。
午後の11時を指していたせいか、不気味で気味が悪かった。
そのビルの2階には、明かりが灯っていた。
どうやら、誰か居るようであった。
このビルの住所は、ちょうど例の看板に書かれてあった住所であった。
つまりは、例のなんでも屋の「フリー・ナイン」は、ここにあった。
この不気味なビルの一階に、足音がした。
明かりが点いているのは2階である。
よって、一階には誰も居ないはずである。
だが、足音がした。
二人分の・・。
何故なら、黒いスーツの男が潜入していたからだ。
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そのことに気づいたのは、九乃助だけであった。
「断るって言ったろ・・」
と、追い討ちをかけるように彼女に言ってやった。
彼女は下向いていた。
ショックだったようだ。
それでも、窓の外のいた男のたちの行方を目で探した。
「九乃助さん・・」
「!」
その九乃助の後ろに、いつの間にか、純太が居た。
純太の手が、九乃助の後頭部を握った。
すると・・。
「この飲んだくれが!!!」
そう気合を入れて叫んだ。
バリーン!!!!
「ぐはっ!!」
純太の手の動きにより、九乃助の顔がガラスに押し付けられ、突き破られた。
思わず、下を向いていた彼女が窓の方向を見た。
九乃助の顔が、窓を突き破っていた。
窓は当然、割れていた。
「ふぅ・・」
「なっ・・」
純太は、一息つけて、驚いていた彼女の方に歩いて行った。
九乃助は、ピクリともしなくなっていた。
そんな状況に、彼女は驚いた。
というか、いろんなことが起こりすぎて、対応に困っていた。
「あの・・、彼は大丈夫なんですか・・」
依頼を断ると、冷たくあしらわれた九乃助のことを気にしていた。
彼女の人が良いと言うか・・、心配しなきゃならなくなるというか・・。
「いや、気にしないで。この人、昔、なんかあったらしくて、女性不信に陥ってるから」
と、純太は笑顔で語り始めた。
パッ、パッと手を払っていた。
ちょっと、その一言に彼女は戸惑った。
「女性不信・・?」
聞いた事のない単語に、彼女は戸惑った。
その仕草が、純太は可愛く感じた。
というか、今で言う萌えていた。
「要するに、女性が信じられないんだって」
「えっ・・、そうなんですか!!」
「可哀想な人だよねー」
そんな、九乃助の心理を純太は語った。
「・・」
九乃助は、ガラスが刺さった自分の顔を鏡で見ていた。
しかも、丁寧に刺さったガラスを抜いていた。
慣れた手つきだった。
つまり、今に始まったことではないと・・。
「そういうこった・・。頼るんなら、「シ○ィー・ハ○ター」にしろ。女好きだし」
ガラスを抜き終わった、九乃助がそう言った。
「それは、漫画です・・」
すかさず、純太はツッコミを入れた。
まるで、コントを見せられてるようで、彼女は混乱していた。
助けを求めに来たのに・・。
と思っていた。
むしろ、「シ○ィー・ハ○ター」が、実際居てくれたらなー。
と思ってしまった。
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そんな九乃助たちのやりとり中に、二つの人影が2階に出現した。
「さっきのガラス音は何だ・・」
「そんなことより、明かりが点いてるぞ・・」
耳を澄ましても聞こえないくらいの小声がした。
黒いスーツの男が、2階に来ていた。
そして、明かりの点いている九乃助たちが居る部屋を発見した。
「ここに、あの女が居るかもしれない・・」
そう言って、足音を立てずに部屋のドアに近づいて行った。
どうやら、彼女を探して、ここに来たようだった。
「入るぞ・・」
「ああ・・」
一人がそう言うと、黒いスーツの男が銃を構えた。
このドアを突破するつもりらしい。
「どこに入るの?」
どこからか、声がした。
その声は、二人の後ろからだった。
「あの部屋にだよ」
銃を構えた男が、答えてやった。
「おい、誰と話してる・・」
突破を示唆した男が、ツッコんだ。
「えっ・・」
二人の男は、ゾッとした。
背中に人の気配を感じた。
自分たち以外、後ろにはいないはずであった。
「おい・・」
「誰か、後ろに居るぞ・・」
恐る恐る二人は振り返った。
今までにない悪寒を感じつつ・・。
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「そういえば、名前聞いてなかったね」
と、部屋の外には黒いスーツの男が二人居る状況で、純太が彼女に名前を尋ねた。
「えっと・・、レビン・・」
そう、彼女が自分の名前を名乗った。
他に言いたそうなことがありそうな様子だった。
「レビンか・・、いい名前だ・・」
純太が、レビンという少女の名前を聞いて喜んでいた。
「あの・・」
「はい?」
レビンは、純太に問った。
「さっきの彼・・、窓の外へ降りて行っちゃいましたけど・・」
窓の近くの椅子には、さっきまで座っていた九乃助が居なくなっていた。
窓から、一階に降りたそうだ。
「ああ・・。部屋の外に、君を追ってるのが居るからね・・。突破されたら、君の体が危ない・・。それで、あの人、窓から降りて、君の追っ手のケツを叩きに行ったんだよ」
純太は、どこか自慢げに語った。
「追っ手が、ここに来たのを解って・・」
彼女は驚いた。
わざわざ、窓から降りて、2階に来た黒いスーツの二人を後ろから叩きに行ったのだから。
普通はやらないし、普通だったらドアから出るべきだ。
だが、九乃助は、窓から出て追っ手の後ろに来た。
それは、ドアから出たら逃げられるからだ。
実は、ある程度の合理的だった。
とりあえず、2階から普通に降りて、すぐ追っ手の後ろにつく、九乃助の身体能力が異常だと思うべきである。
純太は、窓の近くの椅子に腰をかけた。
「あの人、女性不信だけど信用していい・・。彼は断ったけど、この依頼受けるよ・・」
「えっ!」
といって、純太は彼女の依頼を受け取ると言った。
「どっちにしろ、彼のマネージャーは僕だし・・。彼に断る権利なし!」
そう言いのけた。
レビンは、その一言が嬉しかった。
そして、もうひとつ気になったことがあった。
「あの・・、彼の名前は・・」
そう尋ねた。
純太は、椅子にもたれ掛かって、静かに口を開いた。
「焼野原 九乃助・・。この「表から裏のなんでも屋」フリーナインの代表・・。一部じゃ、「関東圏の悪夢」と言われてる、元不良の男さ・・」
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黒いスーツの男二人は振り返った瞬間に、気を失った。
ほんの一瞬で、意識が奪われていた。
そして、地面に倒れこんだ。
理由は、振り返ったと同時に、二人同時に顎に衝撃が来た。
その衝撃の速さは、信じられなかった。
当たったのも気づかないくらいだ。
衝撃は、二人の意識を消した。
その衝撃を放ったのは、焼野原 九乃助の蹴りだった。
両手をポケットに突っ込んだまま、衝撃と速さが異常な蹴りを放つ男。
そんな男が、フリーナインをやっていた。
そんな男がやっているフリーナインに、レビンが来たことから物語は始まった。
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「なんでも良いけど、あいつ(純太)、依頼受けやがった・・」
九乃助は愚痴った。
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