第27話「夏の思い出」
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「!?」
九乃助は、午後の昼下がりに八百屋で足が止まった。
「大玉スイカが半額だと・・」
八百屋の店先には、普段よりも格安で並べられていたスイカがある。
スイカ好きの九乃助には、たまらなかった。
そして、おもわず、2個購入したのであった。
これが、悲劇の始まりだった・・。
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アパートに戻った九乃助は、純太にスイカを切らせていた。
台所で、純太は愚痴っている。
「2個、食べ切れるんですか・・」
「大丈夫じゃ!「スイカは別腹」、「ボールは友達!」って言うだろう!!俺の最高記録は、4つだしよ」
訳のわからないことを言うほど、九乃助は上機嫌であった。
そして、携帯を片手に持った。
トン!トン!
ドアのノックがなった。
「お邪魔しますー」
と、レビンがドアを開けて部屋に入ってきた。
彼女は、九乃助に呼ばれてきたのである。
レビンにもスイカを食べさせようとする老婆心からであった。
「あっ、レビンちゃんー」
と、純太はスイカを切り分けながら、軽く手を振った。
「おおー、来たかー」
と、九乃助は上機嫌に、レビンをテーブルに手招き。
それに合わせて、レビンは部屋に入る。
九乃助の機嫌の良さに、レビンはちょっと珍しいと思っていた。
「機嫌よさそうですねー。今日は、どうしたんですか?」
「今日は、スイカが半額でよー」
と、意気揚々に九乃助は言う。
「ああ、近くの八百屋が安かったんでしょう?」
「そうだ・・、なんで、解った?」
レビンは半額の店が、どこだか一発で当てた。
なぜ、一発で解ったのか・・。
理由は、数分後にわかった・・。
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「・・」
「・・」
「・・」
3人は、言葉が出なくなっていた。
まさに、金縛り状態。
九乃助の部屋に、2個スイカが追加された。
そのスイカは、誇らしげにテーブルにそびえる。
この2個は、レビンが呼ばれる前に、例の半額の店で買ってきたスイカであった。
彼女も、九乃助たちと食べようと思っての購入である。
「増えちまったな・・」
とスイカ好きの九乃助も、ちょっと困っていた。
「まぁ、キエラも、遅れて来るから大丈夫だ!!」
九乃助は、キエラも呼んでいたのであった。
キエラは、そろそろ来るはずである。
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「・・」
「・・」
「・・」
「・・」
4人は、言葉が出なくなっている。
まさに、金縛り状態。
九乃助の部屋に、また2個スイカが追加された。
切り分けた分も含めた6個のスイカは、誇らしげにテーブルにそびえる。
キエラも、さっき購入していたのであった。
「どうすんだよ・・」
さすがの九乃助も困っていた。
「しかも、全部、大玉じゃないですか・・」
と、レビンがスイカのサイズにツッコミを入れる。
「・・!そうだ!!」
と、九乃助が声を上げた。
そして、部屋から飛び出して行った。
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私立探偵、豪の住むマンションには、青いインプレッサがあった。
その隣に、九乃助のCR−Xが駐車された。
そして、豪の部屋では・・。
「篤元いるか!!」
と部屋のドアを、いきなり開けて、九乃助が現れた。
九乃助の手には、スイカを2個持っている。
どうやらお裾分けするようであった。
「ああ、九乃助さん、いいとこに・・」
「?」
そう言って豪が、用件を聞かずに、また部屋に戻って行った。
まるで、なにかを取りに行くように・・。
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「・・」
「・・」
「・・」
「・・」
「・・」
九乃助がアパートに戻ると、5人は言葉が出なくなった。
まさに、金縛り状態。
九乃助の部屋には、豪が居た。
両腕に、スイカを2個持って・・。
九乃助の部屋に、また2個スイカが追加された。
切り分けた分も含めた8個のスイカは、誇らしげにテーブルにそびえる。
減るどころか、増えた。
豪は実家から、スイカが送られたので、それを、九乃助たちにお裾分けしようと思っていた。
だが、また九乃助たちの首を絞める羽目になった。
「どうやって、8個も食うんだよ!!焼野原ぁ!!!」
と、純太がキレた。
「うるせぇな!!こうなるとは、思わなかったんだよ!!」
九乃助は、逆ギレで返した。
レビンは、この状況の不可抗力さに泣きそうだった。
「みんな、落ち着いて!」
と、キエラが言った。
すると、その場の騒ぎは納まった。
まさに、鶴の一声。
彼女は、なにかの策があるようであった。
「キエラちゃん、急にどうしたの・・」
とキエラの冷静な様子に、レビンは反応した
すると、キエラは策有り気に口を開いた。
「この5人でスイカ8個を、一人一個で食べれば3個残る」
すっごい、当たり前のことを言った。
「んなことじゃねぇーー!!」
「んなことじゃねぇーー!!」
「んなことじゃねぇーー!!」
「んなことじゃねぇーー!!」
奇跡の4人同時ツッコミが炸裂。
しかも、ハモった。
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午後11時・・
ここは、某市内の駅裏。
深夜には治安が悪くなることで有名であった。
不良などの高校生やチンピラがうろついていて危険である。
今日も、街中の不良が街中を牛耳っている。
「うーっ、トイレ!トイレ!」
今、トイレを探して走り回ってる、いかにもなラッパースタイルの不良少年、正井中広は強いて言うとスイカが好きな男の子であった。
そんなわけで、彼は駅裏に居た。
「!」
すると、駅裏のベンチで座っている男がいる。
半袖のコートの茶髪の青年(九乃助です)であった。
「うほ・・、普通の男・・」
と、正井少年は思っていた。
そう彼が、思った瞬間。
九乃助は、少年を見つめながら足元から、多く貰ったスイカを出した。
「はっ!」
少年の目は、スイカに釘付けである。
そして、九乃助はスイカを出して言った。
「食べないか?」
「いや、結構です・・」
少年は、断った。
こうして、焼野原九乃助(23)好きなお菓子は、バームクーヘンの青年は、武田のせいで請け負った借金500万と、スイカ8個(しかも、全部大玉)を背負った。
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