第23話「後悔しないで、ちょうだい(前編)」
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「信代会が攻めてくると・・」
と、午後の昼下がりに、キエラは子犬を抱えて座っていた。
彼女は、九乃助の部屋にいる。
部屋には、純太は居なく、さっき剣道着の男をやった九乃助が扇風機の前に、パンツ姿で横になっていた。
「ああ・・、確かに、そう言った」
と言いながら、扇風機の前で漫画を読んでいた。
キエラの腕から、子犬が離れた。
「信代会は、危険だ・・、レビンだけじゃなく・・、他に危害を加える場合がある・・」
と、彼女はうつむいた。
危険であると彼女は伝えたかった。
「・・」
そう聞いた九乃助の顔も、少しだけ曇る。
ガブッ・・
子犬が、九乃助の右足のつま先を噛んだ。
思いっきり歯を立てて。
「ぐはっ!」
痛さで、九乃助は上半身を反らした。
「あっ!こら!駄目、ジダン!」
と、キエラは子犬を両手で捕まえた。
「ジダン?」
それは、キエラが付けた子犬の名前であった。
ジリリリリリ・・・
と、いきなり電話が鳴った。
九乃助がジダンに足を噛まれている間に、キエラは受話器を握った。
「もしもし・・」
「勝手に出るな!!」
それでも、もうキエラは電話の相手の依頼を聞き始めた。
まだ、ジダンは足を噛んでいる。
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時間は、夜の7時。
ここは、いつもの高速道の橋の下。
夜なだけあって、車のマフラー音が響いていた。
こないだの爆破後が残っている。
そんな場所に、学生服を肩に掛け、太めの腹にさらしを巻いたリーゼントの男と、細めの学生服を着た少年の二人がいた。
「本当に来るのか・・」
と細めの少年、池田が言った。
「大丈夫だ!!九乃助さんは来てくれる!!」
と、太目の大田が答えた。
この二人は、以前、九乃助に喧嘩の代打を頼んだ二人組(第7話)であった。
さっきの電話をかけたのも、彼らであった。
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「で、なんの用だ・・」
しばらくして、九乃助がCR−Xに乗って現れた。
いつものように、タバコを吸っている。
「・・」
「・・」
大田と池田は、どこか言いにくそうであった。
「はよ、言え・・」
と、九乃助が急かした。
「500万貸してください・・」
声をそろえて言った。
九乃助の口からタバコが落ちた。
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あれは・・、先日・・。
二人の通う高校の校門には庭があり、そこには校長の銅像があった。
放課後、二人はこの銅像の前に居た。
「なぁ・・」
「どうした・・」
と、池田が話しかけた。
「この銅像ってよ、意味あんのかな・・」
「ないだろ」
「大体、こういうのって自己満足だよな・・」
「てめーの学校に、てめーの銅像作って、どうすんだって感じー」
そう言って、二人は銅像に落書きを書いた。
当然、それが校長にバレ、校長室に呼ばれた。
そして、校長は二人に請求書を渡した。
「弁償しろ・・。じゃないと、退学」
校長が、その一言を言った。
請求書には、500万と表記されていた・・。
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「僕、帰る・・」
事情を聞いた九乃助は、立ち上がった。
だが、大田と池田が九乃助の体を抑えていた。
「そんなこと言わずに!500万でいいんですよ!!」
池田が、そう言った。
「どこの世界に、500万も貸す、なんでも屋がいるか!!!それに、レッカーだの、車購入だの、引越ししたり(キエラの分とか)生活費で、金が無いんだ!!」
二人の手を払おうと、九乃助は必死にもがいた。
だが、二人の手は一向に離れようとはしなかった。
「じゃあ、せめて、500万を稼ぐのに協力してください!!それで、500万より余ったお金を、九乃助さんに全額上げます」
と大田が言ったので、九乃助は帰るを止めた。
しかし、この500万という課題は大きい。
しかも、期限が明日までであった。
とりあえず、3人の今の所持金を合わせても、2万だけであった。
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ここは、私立探偵、豪の住むマンション。
この田舎圏では、比較的に豪華な設備であり、なにより部屋が広い。
彼の実家は、お金持ちであったため、貯金が多くある彼は気兼ねなくマンション暮らしをしていた。
そして、今日も、夜のお楽しみのアニメ観賞を始めようとしていた。
だが・・。
「篤元いるか!!」
と部屋のドアを、いきなり開けて、九乃助が現れた。
豪は、急いでテレビを消して、ドアの方の走って行った。
ドアの向こうには、九乃助と大田、池田がいた。
「なんですか・・」
と、自分のプライベートタイムを邪魔されて、豪は気が立っていた。
早く帰ってもらいたかった。
それと、趣味だらけの部屋には入ってほしくない。
「とりあえず、部屋に入っていいか」
と、豪のそんな気持ちを解らずに、九乃助が言った。
「駄目だ!!!」
豪は、ドアを体すべてを使って塞いだ。
すごい必死である。
しまいには、汗が出てきた。
「いいじゃん、入れてよ・・」
ズカズカと、九乃助は豪の体を押し付けて入ろうとしていた。
「いやーー!!入らないで!」
「うるさい!入れろ!!」
豪は泣き叫ぶ。
それを、無視して九乃助は入ろうとする。
「お金、上げるから入らないで!!!!」
と、豪は泣き叫んだ。
「解った」
そういうと、九乃助は部屋に入るのを止めた。
豪は、呼吸が乱れていた。
「とりあえず、500万くれ」
「ふざけるなぁーー!」
豪は、なんで、僕はこんな男に金を渡さなければならないんだと泣いた。
だが、500万も渡せないので、交渉の末、10万渡した。
こうして、合計金額、12万。
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トントン!
と、九乃助は大田に池田を連れて、レビンの部屋のドアを叩いた。
そして、3人はレビンの部屋に入り、事情を話した。
「すいませんけど・・、そんなお金ありませんよ・・」
と、レビンは言った。
当然である。
「いや、そうじゃない・・」
と言いつつ、九乃助は、ポケットから写真を出した。
その写真は、武田の顔写真であった。
「これ、武田さんの写真ですが・・」
レビンは写真を目視した。
「こいつから、500万巻き上げろ・・」
「はぁ!!」
巻き上げると、九乃助は言った。
しかも500万と。
これは、豪の10万を九乃助の取り分にしようとする考えであった。
「どうやって・・」
と、レビンは引きつつ言った。
こうして、九乃助はレビンにやってもらうことを説明した。
「あのセクハラ教師から、ふんだくってやれ・・」
と、九乃助はニヤけた。
ばかばかしいと、レビンはため息をついた。
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そして、作戦は実行された。
ピロリロリー♪
と高校の職員室で、残業中の武田の携帯が鳴った。
そして、仕事中であろうが、無視して電話に出た。
「もしもしー、レビンちゃんー、何の用ー?」
と、陽気にレビンからの電話に答えた。
「武田さん・・」
電話から聞こえるのは、どこか、悲しげな声だった。
「あれ、どったの?」
様子がおかしいと、武田は気づいた。
すると・・。
「逢いたい・・」
と、レビンの声が電話から聞こえた。
「・・」
武田は、電話を切った。
そして、瞬く間に職員室から出て行った。
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レビンの部屋。
電話が切れたことを、レビンは伝えた。
それを聞いて、九乃助は笑った。
「計画通り・・」
そう言って、次のプランへと段階を進めるのであった。
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