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第21話「人は一人では生きてゆけない(後編)」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


それから、15人くらいが歌っていたが、どれもパッとした者は居なかった。

会場のテーションは下がっていた。

司会者が、またリストを持って16人目を読み上げた。


「えーと、続いては・・、恐怖のボクサー体型!!篤元豪ーー!!!!」


と、スタジオに豪の姿が現れた。

それに九乃助は驚いた。


「あいつも出るのか・・」


司会者が、豪にマイクを向けた。


「自信のほどは・・」

「聞いて驚くなよ・・」


ものすごい気迫を出して、司会の質問に答えた。

これには、観客も盛り上がった。


「あいつ本気だな・・」


と、審査員席の九乃助は汗を流した。

そして、イントロが流れた。


「・・」


イントロが流れた瞬間、観客のテーションは下がった。

豪の方は、ノリノリだった。

ちなみに、この曲は、深夜帯で放送してる萌え系のアニメの主題歌であった。

審査員席の人々は、顔が凍りついていた。

観客は、誰一人として騒いでいなかった。

豪は、本当に楽しそうに歌い始めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


歌いきった豪の顔は華やかだった。

だが、観客は引いていた。

ドン引きだった。

司会者は、マイクを握った。


「審査員の評価は果たして・・」


と、審査員は歌の採点を手持ちの札に書かれた数字で評価する。

審査員は5人で、一人の持ち点が20点で合計100点が最高点であった。

そうして、豪の歌に採点が下さった。


審査員1

0点

感想:ノーコメント


審査員2

0点

感想:ノーコメント


審査員3

0点

感想:ノーコメント


店主

0点

感想:ノー・モア・クライ


九乃助

−100点

感想:ノムラ・サチヨ


合計:−100点



その評価を見て、豪はキレた。


「なんだ!!てめーら!!!一所懸命、歌ったろうが!!!」


豪は、警備員につまみ出されていた。

それでも、納得できない彼は叫び続けていた。

審査員の一人が、頭痛薬を飲んだ。

ちなみに史上初の−100点であった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


何十人か、歌ったが審査と盛り上がりは酷い物だった。

観客のテーションは、下がり切っていた。

ついには、審査員の内の3人が眠り込むという異例の事態が起きていた。

この驚愕の事態と、審査員の評価の厳しさに、出場者の半分が逃げ出していった。

ある者は、後に「あの厳しさは、原付大国・ベトナムをカブで縦断するに等しい」と言っていた。

例年にないカラオケ大会の審査の厳しさと、出場者の空回りぐらいであった。


「うわぁ・・」


この状況のため、レビンとキエラのデュエットでの出場が早まり、二人の出番が近くなっていた。

しかも、観客のテーションと審査員の厳しさで、二人の緊張は凄かった。

この状況を、控え場所になっているスタジオ裏で見ていた。

これには、キエラは怯えていた。


「ねぇ・・」

「うん・・?」


キエラの弱々しい声が聞こえた。


「やめよう・・」


あまりの緊張から、キエラはそう呟いた。

それを聞いたレビンは、キエラの肩に手をやった。


「大丈夫だよ・・」


そうレビンは言った。


「審査員席にはさ、九乃助さんが居るのよ・・」

「・・」


キエラは、スタジオ裏から見える九乃助の顔を見た。

レビンにそう言われたせいか、キエラの緊張は少し和らいだ気がする。

レビンは、九乃助が審査員で座っていても安心できる。

そのくらいに、九乃助のことを想っていた。


「やめようなんて・・、言わないで・・」


レビンのその声は、気のせいか、震えていた。


「それに、やめるにしても・・、もう出番だから逃げられないし・・」

「えっ・・」


気づいたら、二人はもうスタジオに連れ出されていた。

あのやり取り中に、スタッフが彼女らをスタジオまで引っ張っていた。

そのくらいに、出場者は減っていた。

結局、緊張ほぐすもなにも、出来なかった。


司会者が、またリストを持って数十人目を読み上げた。


「えーと、続いては・・、まるで、ドタキャンで有名なタトゥーを思い起こさせるレビン・ハチコと、キエラ・カトリ!!!!」

「古っ・・」


と、まだ余裕のあるレビンはツッコんだ。

だが、キエラの緊張は続いていた。


司会者が、二人にマイクを向けた。


「自信のほどは・・」

「九乃助さん!」

「・・!」


と、レビンはマイクを持って、九乃助の方向に向いた。


「頑張りますんで・・、聞いてください・・」


と、言った。

これを聞いたキエラは、急に緊張が消えた。

何故だか、解らなかったが・・。


「おう・・」


審査員席の九乃助は、静かに頷いた。

マイクは、また司会の方に戻った。

レビンは、キエラの手を握った。


「頑張ろう!」

「うん!」


そう、レビンは小さく呟いた。

それには、キエラは頷いた。


そうして、イントロが流れた。

曲に合わせて、二人は歌い始めた。

緊張はしなくなっていた。

その二人の息の合い方と、澄んだ声で会場が盛り上がり始めた。

いつの間には、とても楽しそうに二人は歌っていた。

観客も思わず、聞き入っていた。

九乃助も、二人が楽しそうなので微笑んで聞いていた。

審査員も、ノリノリだった。

あれだけ、冷え切っていた会場は大きく盛り上がっていた。

レビンと、キエラは歌詞を噛み締めるように楽しく歌っていた。

いつの間にか、歌は終わっていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


歌い切った二人は、とても達成感のある笑顔であった。

そして、会場からは惜しみない拍手が起こっていた。

今までにない盛り上がりだった。

司会者は、マイクを握った。


「素晴らしい歌でしたー!!そして、審査員の評価は果たして・・」


と、審査員は歌の採点を手持ちの札に書かれた数字で評価する。

審査員は5人で、一人の持ち点が20点で合計100点が最高点であった。

そうして、レビンとキエラの歌に採点が下さった。


審査員1

20点

感想:胸に来た。


審査員2

20点

感想:エクセレンッツ!!!!


審査員3

20点

感想:田舎が恋しくなった。


店主

20点

感想:とても綺麗だった。


九乃助

20点

感想:ノーコメント


合計:100点



という、最高の評価が下された。

これには、二人は大喜びだった。


「やったー!!」


と、レビンはキエラに抱きついた。

キエラは、まだよく事態が解らなかったが、とても楽しかったのは、彼女は解っていた。

スタジオにいる二人は、とても楽しそうであった。

これを、九乃助は審査員席から見ていた。


「ふっ・・」


と、タバコを咥えて火をつけた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


これにより、会場と出場は盛り上がりを取り戻した。

まるで、祭りのようだった。

そして、惜しむように最後のエントリーが現れた。


司会者が、またリストを持って読み上げた。


「えーと、最後となりました!!最後を勤めるのは・・、セクハラ王!!武田剛志ーー!!!!」


と、スタジオに武田の姿が現れた。

司会者が、武田にマイクを向けた。


「自信のほどは・・」

「みんな・・、最後は決めてやるぜ・・」


と武田は司会の質問に答えた。

これには、観客も盛り上がった。

だが、九乃助は青い顔をして騒いでいた。


「やめろーーー!!!!!!そいつを歌わせるなぁアアアアーーー!!!」


と、審査員席の九乃助は狂ったように叫び散らしていた。

警備員に九乃助は取り押さえられていた。

尋常じゃない叫びっぷりであった。

そして、九乃助の意思とは無縁にイントロが流れた。


「ようし!!いくぜーー!!」


と、武田と観客は盛り上がった。

九乃助は、もう発狂しそうだった。

武田は、マイクに第一声を出した。


「ぼえ〜」


武田が、歌いだした瞬間、スピーカーから黒板を引っ掻いたような振動音が発した。

人間の声とは思えない音だった。

武田は、ひどい音痴だったのだ。

かって空想科学という本で、「キ○肉マンのステ○セ・キングの音の振動で地球を原子レベルに分解できる」という一説があった。

その音の科学的根拠を、実際に証明するかのごとく、武田は歌っていた。

その声に、会場の人間、審査員、周辺の人々は気絶し始めた。

このことを、九乃助は知っていた。

だから、彼は必死だった。

だが、むなしい事に、九乃助も気絶していた。

そして、後にこのことは、市内カラオケ大会の「失われた時間 〜ロスト・メモリー〜」という都市伝説になった。

こうして、夏の風物詩のカラオケ大会は優勝者の居ない結果に終わった。

なぜなら、武田の歌で、カラオケ大会どころでは無くなっていた。


こうして、また夏は終わりに近づいた・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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