第20話「人は一人では生きてゆけない(前編)」
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アパートに、キエラという苗字の部屋が出来ていた。
彼女は、九乃助らのいるアパートに引っ越した。
「信代会」のメンバーから、所在を隠すためである。
「ワンワン!!」
午後の昼下がりに、キエラは子犬の散歩をしていた。
その光景が、九乃助の部屋の窓から見えた。
純太は、彼女が九乃助のいとこだと信じられなかった。
もちろん、それは嘘であるが・・。
「本当に、いとこなんすか?」
と扇風機の前にいる、タンクトップのジーンズでダレる九乃助に聞いた。
「そうだよ・・」
「嘘だ!!あんたみたいな遺伝子を、彼女からは感じられない!!」
それは、そうである。
「それより、依頼は?」
「ああ・・、そうでした」
純太は、依頼のメモを渡した。
九乃助は、尻をかきつつメモを受け取った。
「・・『午後6時のカラオケ大会にて、審査員をお願いしたい。 by 居酒屋の店主』・・」
と読みながら、横になりながら缶コーヒーをすすった。
当然、ちょっとこぼれた。
この場所は、ちょうど、今は縁日中であった。
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このカラオケ大会とは・・。
市内が縁日で行うメインイベントのひとつ。
このカラオケ大会は、市内が総力を上げて特選のカラオケスタジオを用意し、そこで、プロアマ関係なく自由参加で歌を歌ってもらうという企画。
大会と称してるだけあって、審査員の評価によって優勝者が決まる。
そして、その優勝者は、この一年間S県でもっとも歌の上手い者として讃えられるのだ。
例年によると、出場者のレベルが上がっており、しかも、芸能界からのスカウトもあるなど、この大会での優勝はステイタスとなっていた。
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そして、午後の6時。
市内は、縁日だけあって人が大賑わいしていた。
道路は歩行者天国となっており、出店などが多く並んでいた。
だが、中でも市内が総力を上げたカラオケスタジオには、出場者、観客で溢れ返っていた。
その審査員席に、九乃助と行きつけの居酒屋の店主と、ほか数名の審査員が居た。
ちなみに、主催者は、行きつけの居酒屋の店主であった。
その店主から、九乃助は審査員役を頼まれたのであった。
「悪いね、九ちゃん」
と、マスターが隣の席の九乃助に話しかけた。
「いや、別に気にせんでいいよ・・。しかし、俺の審査は厳しいぜ・・」
と、九乃助は微笑を浮かべた。
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「いやー、二人とも、よく似合うよ!」
「本当!?」
「・・」
とTシャツ、半ズボンでシルバーを身につけた純太が、キエラとレビンの着物姿を褒めていた。
レンタルで借りてきたのであった。
この3人も、縁日の道路を歩いていた。
ちなみに、キエラの子犬はお留守番。
「でも、キエラちゃん、スタイルいいねー」
「そっ、そうかな・・」
と、レビンはキエラに言った。
それには、ちょっとキエラは恥ずかしそうだった。
「いや、レビンちゃんもスタイルいいよ」
と、純太が話しに入ってきた。
「もー、純太君ったらー」
「そりゃ、キエラちゃんは体のラインが綺麗で、ウェストもいいし、でも、レビンちゃんはラインはともかく、その分、胸や尻で補って・・」
バゴッ!!
余計なことを言った純太の顔に、レビンの鉄拳がめり込んだ。
純太は地面に倒れた。
「さぁ、カラオケ会場に行きましょう・・」
「うっ・・、うん・・」
「あたしも、出場するんだから・・」
レビンは、キエラの手を引いて会場に向かった。
どうやら、彼女らも出場するのであった。
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そして、カラオケ大会はスタートした。
まさに、スタジオの観客席の興奮は、早くも最高潮であった。
今、スタジオには、今回の大会の司会を務めている男が立っていた。
「ようこそ!!みなさん!!市内総出を上げての夏の祭典が始まりましたー!!」
彼のMCに合わせて、観客は盛り上がっていた。
「司会は、この私!借金が返せないのに、こんな場所に居る阿部健七でお送りいたします!!」
と司会は、観客を盛り上げた。
そして、彼は審査員席に手を指した。
「彼らが審査員だ!!彼の耳を唸らせるのは、果たして誰だ!!」
と、審査員席の九乃助らにスポットが当たった。
そして、審査員が手を振ると、観客も盛り上がっていた。
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こうして、参加者のカラオケがスタートした。
と、スタジオに純太が出現した。
審査員席の九乃助は渋い顔をした。
「なんで、出てんだよ・・」
そう愚痴っていた。
スタジオでは、司会者が純太にマイクを向けた。
「自信のほどは・・」
「今日の俺は・・」
純太は、渋く声を出した。
「では、歌ってもらいましょう!!」
「おい!!!」
喋りの途中で、司会はマイクを自分の向きに戻した。
カラオケのイントロが流れた。
そして、純太は歌い始めた。
別に面白くないので、歌ってる状況はカットさせてもらう。
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純太は歌い切って、息を切らしていた。
でも、何故か、歌った気がしなかった。
司会者は、マイクを握った。
「審査員の評価は果たして!!」
と、審査員は歌の採点を手持ちの札に書かれた数字で評価する。
審査員は5人で、一人の持ち点が20点で合計100点が最高点であった。
そうして、純太の歌に採点が下さった。
審査員1
5点
感想:暗黒の世界へ戻れ。
審査員2
1点
感想:ここから、いなくなれ。
審査員3
1点
感想:遊びでやってんじゃないんだよ。
店主
5点
感想:音程が酷い。
九乃助
0点
感想:ジゴクニ、オチロ。
合計:12点
その評価を見て、純太はキレた。
「なんだ!!てめーら!!!この扱いはなんだ!!!なんで、一人だけ、片言だ!!」
だが、彼は警備員につまみ出されていた。
それでも、納得できない彼は叫び続けていた。
どうやら、とても審査の目が厳しいと見られた。
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その状況を、観客席から見つめる男が居た。
その男は、篤元豪であった。
「甘いな・・、純太・・」
そう言って、微笑んでいた。
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