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第18話「銀色の夢、紡ぐ雨の調べ(中編)」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


九乃助は立ち上がった。

口から取ったナイフは、右手に握られていた。

そして、親指で、手品のスプーンのように円弧に曲げられていた。

キエラという少女は、動揺しはじめた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


時間は、真っ暗なAM1時。

レビンは、九乃助の部屋の電気を点けた。


「zzz・・」


九乃助は、部屋にはいなかった。

なのに、いびきが聞こえるのは、武田が勝手に上がり込んでいたからであった。


「グォオオオオオーーー!!!」


と、いびきを上げて眠る武田もパンツ姿で横になっていた。

部屋は、ものすごくアルコール臭い。

武田の隣には、純太が横たわっていた。

最近、この二人は仲が良かった。

我が物顔で眠ってる武田は、以前のセクハラまがいの行動といい、レビンには印象が最悪だった。


「はぁ・・」


レビンは二人に毛布をかけた。

そして、自分の部屋に入っていった。


「九乃助さん、遅いな・・」


と、時計を見つめて言った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ワン!ワン!!

どこからか、犬の鳴き声がしていた。

だが、泣き声よりもマフラー音の響く橋の下では、九乃助が追い詰めていた。


「何百本・・、投げつけたって無駄無駄・・」


キエラは、少し焦り始めた。

もうかなりナイフは投げ付けていた。


シュッ!!


またナイフが飛んできた。

九乃助は、右の片手を突き出した。

人差し指と、親指で挟んで、飛んできたナイフをキャッチした。

そして、また、そのナイフを地面に捨てた。


「芸の無い女だな・・」


と、九乃助は罵った。

この一言で、彼女はキレた。


「確かに・・、ナイフ投げは得意だけど・・」


そう言って、彼女はコートを脱いだ。

コートを脱ぐと、タンクトップと細めの白い肌の両腕が見えた。

その白い肌の手が、ミニスカートのポケットに入った。


「このコートさ・・、固形の火薬入り・・」

「!」


ミニスカートのポケットからライターが出てきた。

九乃助は、血の気が引いた。

この後の彼女のやることがわかっていた。


「馬鹿!!」


そう言って、九乃助は橋の下の川原の元に全力疾走した。

無様だが、必死に走った。


「もう遅い!!」


シュボッ!


コートに火がついた。

そして、九乃助の走った方向にコートを投げた。

コートに火が走り始めた。


「!」


全力疾走していた九乃助の足が止まった。

橋の川原で、なにかを発見した。

コートが、宙に浮いていた。

もう少しで、火薬に着火しそうであった。


「なに!」


キエラは、九乃助が足を止めて、川原にあるなにかを拾って抱えたのを見た。

彼女は、自分の後方に火薬の安全圏まで下がった。

火薬の量は大した量ではないが、九乃助の居る距離では無事で済むことない。

爆発寸前なのに、九乃助はなにかを抱えていた。

そして、また走り出したが遅かった。


コートが九乃助の後方100m弱で、火薬に着火した。


バァアアアアアーーーーーン!!!!!


「ぐぉっ!!!」


とてつもない爆音と、爆風が吹いた。

火薬が爆発した。

それによって、九乃助は背中に爆風と爆風を受けた。

爆破の衝撃で、九乃助はなにかを抱えたまま数10m吹っ飛んだ。

体が宙に浮いていた。

火炎が、九乃助の半袖のコートを燃やした。


「ぐっ!!」


吹っ飛んだ後、わざと背中を擦るようにして着地して燃え移った炎を消した。

両腕には、なにかをまだ抱えていた。


「ぐぉああああああ!!!」


九乃助は、激痛に耐えていた。

背中に受けた衝撃と、火傷は致命傷ではなかったが、激痛だった。


「・・」


キエラは、その姿を見て、心境が不安定だった。

上から言われたとおりに、死なない程度の目には合わせてやった。

だが、九乃助の逃げる途中での物を拾うような行動が不可解だった。

実は言うと、彼女はこのような命令を受けたのは初めてだった。

加減が解らなかったとはいえ、激痛に苦しむ九乃助を見て、罪悪感が襲ってきた。

ナイフの時には、九乃助は苦しんでいなかったが、今の様子には、罪悪感が襲ってきた。


「なんで・・、なんで、逃げなかった!!!なに、拾ったんだよ!!川原で!!!」


罪悪感を消そうとするため、彼女は叫び散らして、九乃助に近づいた。

九乃助は、激痛から少し落ち着いていた。

だが両腕には、まだなにかを抱えていた。


「・・!」


仰向けで倒れる九乃助の両腕を見た。

その手は、黒いすすだらけだった。

そして、その中には・・。


「ワンワン!」


キエラは、尻餅をついた。

一気に力が抜けたのだった。


「痛ってーぞ・・、コラァ・・。随分、でかい花火だな・・」


九乃助は、そう言って両腕を開いた。

小さな子犬が、九乃助の懐にいた。

そして、子犬は無傷で走り回った。

九乃助は、コート爆弾から逃げる際に、この無責任な飼い主から捨てられた子犬を川原で見つけた。

爆発の及ぶ距離は解らなかったが、この犬も巻き込まれると思って、九乃助は懐に抱えていた。

そして、爆発から子犬を守った。


「・・」


キエラは、前かがみにへたれ込んだ。

すると、急に目から涙が出てきた。

もしも、あの時、この子犬を巻き込んだら・・。

そう思うと、キエラという少女は、ずっと苦しんでいただろう。

ヤクザに育てられた彼女は、痛みなんか解らなかった。

今までだって、父から教わったことを実行していただけだった。

下手したら、血の悲惨さすら解らなかったかもしれない。


「うぅ・・」


彼女の目から、大粒の涙がこぼれていた。


「ワンワン!!」


それを、見た子犬はキエラの顔を舐めに行った。

その子犬を、キエラは抱きしめた。


「・・」


九乃助は、立ち上がった。

そして、ポケットからタバコを出した。

だが、消し炭になっていた。


「敵に説教する気はねぇが、体の傷なんざ明日で直るわ。だが、治療と保険が効かないのは、くっだらねぇ花火に巻き込まれる無関係な人間(この場合、犬だけど)の悲しみと、罪悪感だからな」


消し炭になったタバコを捨てた。

キエラは、頬に涙を流しながら、九乃助の姿を見上げた。


「ごめん・・、なさい・・。本当に、ごめん・・な・・」


涙を流しながら、何度も何度もキエラは謝った。

敵であったはずの九乃助に、何回も謝罪した。

子犬は、未だにキエラの両腕から離れないでいた。


「花火は、人と動物に向けるなよ・・」


そう言って、九乃助は真っ暗な夜空を見上げた。

綺麗に星が見えていた。


「・・」


だが、九乃助は、いつもなら振り向いて去る所だが去れなかった。

さっきの爆破で、背中あたりの服が燃え、穴が開いていた。

それで、ズボンの尻にまで火が広がったせいで、尻の部分が燃えてしまっていた。

パンツまで燃えてしまった。

だから、振り向けない。

振り向いたら、自分の尻が・・。


「(畜生!!ファッキン・作者!!)」


心の中で、九乃助は泣いた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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