第12話「君との思い出が愛し過ぎて」
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とある山中の道路で、九乃助のCR−Xが走っていた。
山中は、蝉の鳴き声が聞こえ、周囲は田んぼだらけであった。
木々からは、木漏れ日が漏れ、夏らしい景色であった。
キィー!!
そして、車を走らせてから、ボロボロで誰も通らなくなったトンネルが見えた。
トンネルの手前で、九乃助は車を停車させた。
こんな場所に来たのも、依頼があってからだった。
九乃助は車から降りて空気を吸った。
森林の空気は、澄んでて気持ちが良かった。
そして、改めて依頼のメモを確認した。
『○○トンネルの周囲で物を失くしたので、一緒に探して欲しい。そのトンネルの前で待つ。』
とのことであった。
その依頼は、ファックスからであった。
トンネルの前には、いつの間にか、依頼人らしき男がいた。
「どーもっすー、フリーナインの焼野原さんですよねー」
「そうだが」
男は、リーゼントで学生服のいかにもヤンキーな姿であった。
地元に、こーいう奴いたなーと、九乃助は思った。
そして、思い出すに、あのファックスの字が汚かったと気づいた。
「あのっすね・・、ここで落し物したんですよー」
と、男が言い始めた。
「なにを落としたんだよ」
「くまのぬいぐるみですよ」
随分、可愛い物落としたな・・と、九乃助は思った。
「彼女の誕生日にプレゼントに買ったんですけど、ここで落としちゃいまして。だから、この森の中にあるんじゃないかと思って」
「ああ・・、わかった」
「お願いしますー」
こうして、二人での落し物探しが始まった。
だから、九乃助は着てたTシャツを肩まで捲くった。
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森林の中では、蝉の声がうるさく響いていた。
木陰があるとはいえ、それでも日差しが暑かった。
そんな状況の中、男二人が草を掻き分けてのぬいぐるみ探しをしていた。
「いやー、彼女には迷惑ばっかかけてるんで、明日の誕生日ぐらいは祝ってやらないと、他の男と寝ても文句言えなくなりますしー」
と、男が話しかけてきた。
九乃助は地元にも、こーいう奴いたなと、また思った。
男の話によると、彼女とは、自分の一目惚れから土下座して頼み込んで付き合い始めたそうだ。
彼女は、面倒見が良くて、たびたび迷惑をかけていたそうだ。
男は見たとおりのヤンキーで、頭も良くなく、デートするにも常識不足から、彼女に気を使わせたり、物壊したりした時に弁償させたり、謝罪させりさせた。
しかも、街中で喧嘩した時の後始末も彼女がやっていた。
アイスクリームを奢ってやろうとしても、お金が足りなくて、結局、彼女に払わせたりと、随分とほほ・・なことばかりやらかしていた。
その彼女の誕生日は明日のため、珍しくプレゼントをやろうと彼は思ったが、そのプレゼントをこの森に落としてしまったりと、随分、彼はへたれであった。
だが、彼は彼女のことを大切に思ってるのは、確かだと、九乃助は思った。
「あいつは、本当、俺が喧嘩してボコボコになった時も、親から見離された俺を、ずっと看病してくれて・・、とっても優しい奴で・・。本当に、結婚して、幸せにしてやりたいなと思ってるんですよ・・」
男は、よほど彼女を愛しているようであった。
だが、女性不信の九乃助には、少し理解しづらかった。
「九乃助さんは、彼女はいないんですか・・」
「いない・・」
「マジで!!可哀想っすね!!」
と余計なこと言われて、ムッと来た。
「とりあえず、口より手動かせ!!」
九乃助は説教をしてやった。
どこか、この男は自分の地元にいた頃の仲間を思い出させる雰囲気があった。
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数時間経っていた。
未だに見つからないでいた。
汗だらけになりながらも、九乃助は探した。
草を掻き分け、木々の陰などを細かく黙認して探していた。
後ろを見ると、学生服を脱がないで男はぬいぐるみを捜していた。
「暑くないのかー」
と、九乃助が声を掛けてやっても、男は大丈夫だと答えた。
日差しが午後に入って、更に厳しいのに大丈夫なのかと思った。
男は、必死に探していた。
彼女のために、一心不乱で探していた。
よっぽど、彼は彼女を大切に思っていた。
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「あった!!!」
と、夕日が沈んだ頃に、男が声を上げた。
その声を聞いて、九乃助は前屈みから立ち上がって、腰をひねった。
「本当か!!」
「ここにありましたよ!」
と、男の声がする方に、九乃助が走った。
だが、声はするが男の姿が見えなかった。
すると、九乃助の足元にぬいぐみがあった。
ぬいぐるみの脇には、メモ一枚が挟まっていた。
そのぬいぐるみ見つけた男の姿は見えない。
「おーい!!どこにいるんだ!!」
男の姿が消えていた。
せっかく、ぬいぐるみを見つけたのに、急に消える奴がいるかと思った。
そして、メモを開いた。
『すいませんが、このぬいぐるみを、誕生日は明日ですが、この住所まで届けてください。一緒に探してくれて、ありがとうございます』
と書かれていた。
汚い字であった。
このメモは、いつの間に、書いたんだ。
更に、なんで男は姿を消したんだと思った。
いろんな疑問がありつつ、ぬいぐるみを持って車の方に向かった。
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メモに書かれた住所を宛てに、例の彼女の家に向かった。
この先の農家であった。
田んぼが多いだけに、農家が多かった。
よく見ると、どこかで葬式をしているようだった。
例の彼女の家に、九乃助は車を止めた。
そして、玄関を叩くと、例の彼女が出てきた。
「これ、あんたの彼氏からの誕生日プレゼントだそうだ・・。あいつは、どっかに消えたけど・・」
と言って、そのプレゼントを渡した。
「えっ・・」
彼女は驚いた。
その様子は、変だった。
九乃助は、ぬいぐるみに挟まれてたメモを渡した。
「この字は彼の・・」
そのメモを、握った彼女の目から涙が出てきた。
九乃助には、なにがなんだか解らなかった。
彼女は、ぬいぐるみを抱きしめて泣き崩れた。
声を出して、泣き始めた。
「なっ・・、どうした・・」
九乃助は、慌てた。
そして、さっき見つけた葬式をしている農家が目に入った。
「!」
その農家に向かって、九乃助は走り出した。
何故かは、わからないが、急に走り始めた。
あの男は、もしかして・・。
「・・」
その葬式中の農家の前で、九乃助の足が止まった。
そして、目を疑った。
葬式中の農家に、あのリーゼントの男の写真があった。
そして、彼の名前があった。
彼は、数日前に、あの森林の近くでバイクの事故を起こして帰らぬ人となっていた。
事故は、あのぬいぐるみを購入した帰りに起きた。
だが、今日、九乃助はあの男に会っていた。
そして、一緒にぬいぐるみを探した。
大切な彼女のために。
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線香を上げてから、九乃助は、この場所を去った。
この幽霊話をしても、誰が信じるだろうかと思った。
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