第9話「もう泣かないで」
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「逃げた、娘の行方は・・」
中年の男が、高いビルの窓から夜景を眺めながら電話に向かって言った。
「フリーナインとかいう、チンピラの事務所です・・」
「わかっているなら、すぐ行動を取れ・・」
プチン・・。
電話は切れた。
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「お前という娘は、自分の立場が解っていないのか!!!」
「まったく、あなたって娘は・・」
「あの家の子なのに、なんて出来が悪いんでしょうか・・」
「将来、あの子がお家を継げるのでしょうかね・・」
もう嫌だ・・。
そんなこと言われるの・・。
だから逃げたんだ・・。
家から・・。
国から・・。
日本へ・・。
でも、追いかけてくる・・。
怖い・・。
怖い・・。
助けて・・。
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「っ!!」
夏場で暑くて寝苦しかったので、タオルケットに変えて眠っていたレビンが急に目を覚ました。
汗でダラダラだった。
時間は、日曜の朝の6時。
いつも、この時間で悪夢で目が覚めていた。
また、あの夢かと思いつつ、レビンはベッドから立ち上がった。
窓を見てみると、ちょうど朝日が昇っていた。
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汗だらけで、気持ち悪かったのでシャワーを浴びた。
冷水の冷たさで、悪夢の後味が頭から離れて行った。
フリーナインの事務所に来てから、3日に一回のペースで悪夢を見ていた。
そして、そのことを忘れようとして朝は、シャワーを浴びていた。
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「あっ!」
事務所に行くと、九乃助が、朝6時にも関わらず起きて新聞を読んでいた。
片手には、わざわざ買い置きしてるマックス・コーヒー。
「珍しいですね・・、この時間帯に起きてるの・・」
「悪いかよ・・」
と、返された。
よく見ると、どこか落ち着きのない様子の九乃助であった。
なにか、いいことがあったのだろうか・・。
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1時間して、身支度を終えた九乃助は無言で外に出て行った。
様子がおかしかった。
珍しく鼻歌を吹かしながら、上機嫌であった。
しかも、軽くステップをしながら。
未だに、レビンは九乃助のことを掴めてはいなかった。
性格というか、キャラクターが解らなかった。
ただ解ってるのは、女性不信であること・・。
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しばらくして、昼すぎであった。
ブォン!ブォン!!
と、しばらくして事務所の外で車のエンジンの音がした。
窓から覗くと、黒いベンツだった。
そして、事務所の前で車が止まった。
カチャッ・・
車のドアが開くと、そこから黒服の男が数人出てきた。
「はっ!まさか、追っ手・・」
直感的にレビンは、自分の追っ手と気づいた。
そして、黒服数人は事務所の中へと来る。
レビンは、どこか隠れる場所を探した。
隠れても、無駄だと解ってはいた。
階段からは、数人の足音が迫って来る。
連れ去られる・・。
と、レビンは覚悟した。
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ブロオオオオーーーーーン!!!!
と、ベンツはマフラーを鳴らした。
「・・」
レビンは、ベンツの中にいた。
周りには、黒服数人。
ちょうど、首都高速に入った。
道路には、ベンツと後ろに白い車や、トラック軍団であった。
サングラスをかけた黒服一人が口を開いた。
「手間を掛けさせるのも、いいかげんにして下さい・・。お嬢様・・」
「よくも、こんな白昼堂々と・・」
「焼野原 九乃助の様子を疑ったら、ちょうどいい頃合いだったので・・」
と、黒服とレビンは会話をした。
レビンは、うな垂れていた。
また、悪夢が現実になると思っていた。
そう考えると、涙がレビンの目から出てきた。
頭には、九乃助の顔が浮かんだ。
九乃助(+純太)には、一応、家に泊めさせてもらったり、優しくしてもらった。
数日間だけだったが、自分の辛い現実から逃げられた。
だから、彼女はせめて別れを言いたかった。
と後悔の念で一杯だった。
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グォオオオオオオオーーーーン!!!
ベンツのスピードが上がった。
妙に、ドライバーが慌てていた。
「どうした?」
黒服の一人が言った。
「さっきから、白い車が後ろから離れないぞ・・」
ドライバーがそう言ったので、後ろを見てみると白い車がいた。
首都高速に入る前から、引っ付いていたのだった。
加速して付いて行く。
しかも、白い車の方が早い。
なのに、引っ付いてくる。
妙だと思ったドライバーは、ベンツを一旦、休憩所に走らせた。
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駐車場に置かれたベンツから、数人の黒服が出てきた。
レビンは、車の中に座らされていた。
キキィ!!
と後ろに、さっきから付いて来る白い車も駐車場で止まっていた。
車は、旧車両の「CR−X」
製造会社独自のエンジンのせいか、それとも、ターボのせいなのか速かった。
ドアが開いた。
黒服は身構えた。
ポイ!!
「!?」
人が出てくると思ったら、布袋3つ投げてきた。
それに、黒服が気をとれた瞬間。
パパパパパァーーーン!!!!!
「うわああああ!!!!!!」
布袋から、大量のロケット花火、ねずみ花火が飛び出してきた。
更には、煙球。
市販の物だったが、量がすざましくCR−Xとベンツが煙で見えなくなった。
「なんだ、これは!!!」
「あの車の主をやれ!!!」
黒服の視界は遮られていた。
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あっという間だった。
花火で視界を遮られCR−Xに気をとられた瞬間に、ベンツにいたレビンは連れ去られた。
しかも、CR−Xは煙と共に消えていた。
犯人は、CR−Xのドライバーであるのは間違いなかった。
その証拠に、ベンツには置き手紙が残っていた。
『舐めるな by フリーナイン』
黒服は、この置手紙を破り捨てた。
駐車場の周りには、さっきの騒ぎで警察が来ていたのでベンツもこの場から去った。
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白いCR−Xが、首都高を戻っるように走っていた。
運転していたのと、レビンを連れ去ったのも、もちろん九乃助であった。
中古だが車の納車があったので、今日は機嫌が良かったのであった。
そして、事務所に戻ったタイミングと、レビンがベンツに乗らされたタイミングが合っていた。
だから、追って、レビンを奪い返せた。
「うぅ・・」
助手席には、レビンは泣きながら座っていた。
九乃助は、その様子を見てハンドルを握っていた。
「泣くな!!うるせぇ!!あと、助けたのは依頼だからだぞ!!」
と、言ってやった。
「助・・、けて・・、くれ、あり・・、がとう・・」
泣きながらだったんで、聞き取りづらい声だった。
精一杯の感謝だった。
「だから、女は・・」
がばっ!
レビンが歓喜あまって、運転中の九乃助に抱きついてきた。
ハンドルがすごい乱れた。
「うぉあ!!バカ!!抱きつくな!!こら!!あと、てめーには、この車もう乗せねぇからな!!!」
と、ハンドル体制を戻しながら事務所に帰って行った。
ちなみ、CR−Xはシビックの代打で購入したのだった。
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