灰汁の強い野郎ども
『高ネオ STREET』の構成会議は月曜日なのだが、オレは無論欠席し、木、金の収録にも行かなかった。陣内社長も「好きにすれば」の言葉通り、何の説教もしなければ咎めもしない。
途中で仕事を投出す事も、プロデューサーにメールだけで後は何の連絡もしない事も、無論初めてだ。
「中山君、今週の金曜日のスクールの授業に講師として出て貰うから」
「解りました」
社長は睨む訳でも笑う訳でもなく、無表情で告げる。
授業は19時からの2時間だ。他局で会議や打合せが入っているが、まあ間に合うだろう。
そして金曜日の19時10分前、授業に出席する為、事務所に立寄った。
陣内社長と共に1階のフロア内に入ると、7名の受講生は既に着席している。
「今回の講師は我が<レッドマウンテン>の稼頭でありホープである、中山裕介先生に授業を担当して貰います」
笑顔で紹介する社長。何か、というか明らかに小っ恥ずかしい。
「その前に社長、この前道玄坂(渋谷区)のラブホに行ったでしょう?」
「行ってないよ! そんなとこ!」
女性受講生が馴れ馴れしい口振りで陣内社長に話し掛け、社長は動揺しているのは明白。これは行ったな……。
「でも見てくれとか顔、社長さんに似てましたよ」
もう1人馴れ馴れしい女性がいた。このスクールで、かは知らないが仲の良い2人なのだろうとは察する事は出来る。
「社長もヤル事はヤッてるんですね?」
「だから行ってないって言ってるでしょ!」
オレも雰囲気に呑まれニヤリとしてしまい、陣内社長はガン飛ばす。
「私はラブホなんか行ってないからね! 社長をおちょくるような事言ってたらあんた達全員採用しないから!」
「えーっ!! それ権力の横暴じゃないですかあ」
と、男性受講生は口を尖らせる。
「採用するかしないかは私が判断するの!」
陣内社長の表情は無論仏頂面。むきになる事からして益々怪しい。
馴れ馴れしいのは女性2人だけかと思ったら、男性もいたか。他の受講生は皆笑いもせず見ているだけ。
「じゃあ中山先生、後は宜しく」
社長は仏頂面のままキッとオレを睨むとパイプ椅子に座る。これ以上詮索するなよ! と目が言っている。解りましたよ。
「初めまして。我が<レッドマウンテン>のホープかどうかは解りませんが、陣内美貴社長からブーストされてる中山裕介です」
受講生とは初対面なので、丁重に頭を下げた。
「別にブーストはしてないよ」
陣内社長は澄まし顔で「フフンッ」と鼻で笑う。もう機嫌が直ったか? 瞬発力を求められる放送作家は気持ちの切替えが早い人が数多といる。
「ユースケ君、逢いたかったよ」
いきなり「ユースケ君」はねえだろ。馴れ馴れしいにも程がある。
「えーっと、貴方は……奈木野淳子さん」
「淳子です。ナギジュンって呼んで良いから」
強制的にあだ名で呼べってかい!
「ナギジュンさんはオレと同い歳。さっきの逢いたかったってどういう意味?」
「私の曾お爺ちゃんとユースケ君の曾お爺ちゃんが兄弟なの。だから私達三従兄妹」
「曾祖父って、ほぼ他人じゃん。でも何でオレが三従兄妹だって解ったの?」
「うちのお母さんが番組のエンドロールで「中山裕介」って見付けて、「何処かで聞いたような名前ね」って言って、ユースケ君のお母さんに電話したの。そしたらユースケ君のお母さんが「息子は放送作家をやってる」って返されたんだって」
「そうなんだ……」
息子が不安定な放送作家という生業に就いているのを、未だに快く思っていないお袋さんがねえ……。
「まさかこんな所で親戚に逢えるなんてね。中山君、ある意味持ってる男」
今度は陣内社長が悪戯っぽい顔。「持ってる」んじゃなくてこっちにしたらある意味「災難」だ。社長を無視して進める。
「それで、うちの事務所に入りたいって思ったんですか?」
「それもあるけど、私EXILEのファンで、メンバーの人に逢いたいなあって思ってるの」
「はあ?」
嬉しそうな顔しやがって。逢えるって保証もないのに。
「それで、逢えたらどうするの?」
「辞めちゃうかも」
陣内社長の顔を一瞥する。笑みを浮かべているが、その反応は諦めか、呆れか、それとも両方かい?
「オレと同い歳で三従兄妹でEXILEに逢いたい。オメー何なの!?」
「オメーって事ないじゃん。私はガチでここに通ってるんだから。これでもね」
ナギジュンはふざけて脹れっ面。「ガチ」なのはEXILEに逢いたいだけだろ?
「だって動機が不純じゃん」
「だから今まで派遣の仕事しかした事ない」
EXILEに逢いたいと派遣の仕事に何か関連があるのか。不純だからアラサーになっても定職には就いていない……てか。
「まあ、放送作家も派遣みたいな生業だけどね」
でも、ご自分が「不純」だとは自覚しておられるようで。多分、うちの事務所も不採用だろう。社長がこんな呆れる志望動機の奴を入れる訳がない。
「次は……重留一実さん」
「一実です」
「失礼」
「一実ちゃん凄いんだよ。合コン千回も経験しててね」
またナギジュン……入って来んなよ。動機も不純なら口数も不純。
「どんな人達と合コンするの?」
別に全く以て興味はないけど、話の流れ上は致し方ない。
「弁護士とか会社役員とか、後、政治家秘書もいますよ!」
声を弾ませやがって。だが今彼女が言った肩書が本当ならば、良いコネクションでパイプは太いな。
「そう。エリートばっかだね」
「ユースケさんの様な人ももっと合コンして欲しい。合コン盛り上げられる人は営業力もあるし、コネクションも増えます! きっと出世しますよ」
目まで輝かせちゃって、オレの何を知っている? まあ、一理あるような気もするけど。とにかく楽しい人生を。
「ユースケさん、今日元気ですか!?」
「元気っていうか普通だけど」
「もっとテンション上げて行った方が良いですよ!」
大きなお世話だよ! 好漢っぽくしてるけど、世間で言う「若者らしさ」をオレに求めて来んな!
「ええっと、君は川並……」
「光哉です! ユースケさんも元気出して行きましょう!」
「はいはい、解った解った」
こいつ正直疎ましい。でも目上の人達からはこれくらい灰汁が強い方が、一発で顔と名前は覚えられて案外重宝されたりする。何か悔しいが……。
ある意味……ていうより相当個性が強い面々とのコミュニケーションを終えた所で、
「もう習ったかと思いますが、放送作家は「個」でもあり「集団」でもあります。集団生活が苦手な人もいるでしょうが、仕事に就く以上は徐々にでも慣れて行く必要があります。後、作家は会議の雰囲気を穏やかにする、盛り上げる事も仕事の一つです。そこからアイデア、企画案が出たりする事も多々あります」
一々言わなくてももう十分場は盛上られるだろうけど、自分が今、心得ている知識を淡々と伝えた。




