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第7話 交渉

「最初に確認しておきたいんだけど、共和国から依頼があったのは3年――いや、2年くらい前?」


 私が尋ねると、ミヤとルキアンナ、ネリエッタは3年という時期でおよそ察したような表情を浮かべた。一方で、ドワーフたちは怪訝そうな顔で私を見る。


「……何故そう思った?」


 ガナモが肯定も否定もせず聞き返してくる。やはり慎重かつ疑り深いようだ。


「共和国が最近、色々新しいものを作りたがってるのは知ってるんだ」


 私の方も、手の内をすべて明かすことなく答える。


「ただ、あなたたちが都に行っても、どう使ってるかは教えてもらえない可能性が高いね。あちこちに分けて移動した、とか言って追い返されるかも」


「お前のような人間の若造に何がわかる!」


 ブギンが話しに割り込んできた。


「何がわかるって、今言ったでしょ。共和国がやりたがってることだよ」


 アルガの魔力変化を通して世界樹の情報を得た共和国は、現在の現実世界でも再現可能な範囲と段階で、世界樹の14世紀より未来の科学技術を再現しようとするはずだ。


 そして私が思うに、共和国はまず農業と軍事技術を取り込むはずだ。


 肥料の生産技術を一部でも再現すれば食糧事情が一気に改善され、国の人口を増やしつつ、余った農作物を輸出することもできる。そして火薬と高品質の金属部品を量産できれば、技術的な制限があるものの、銃を作ることも可能だろう。これによって国の軍事力を高めることができれば、他国との戦争や魔物の討伐も有利になる。


 この2分野が充実すれば、そこからさらに資源の確保が可能になり、他の分野の科学技術や生産技術も向上させられるだろう。


 そしてこれらの技術の基礎として、良質な金属を用いた工業機械が必要になる。しかしこれを現在の人間の技術で再現するのは難しいので、仮想世界には存在しないドワーフと、魔術を利用したドワーフの高度な製錬・加工技術を頼り、機械部品をガナモたちに発注したに違いない。2年ほど前に製造を依頼したというのであれば、やはりアルガから情報をある程度収集したタイミングと一致する。


「発注されたのは鋼の炉かな?それとも、物を固定して回転させられる作業台?それか切削用の硬質な刃?この中に、発注されたものはあった?」


「魔術師の貴様が、何故それを……」


 本当はあるのに「ない」と答えられるかもしれないと思っていたが、ドワーフは秘密主義の割に思いの外正直な性質らしく、ブギンはますます不審そうな表情で言った。


「魔術師とて突き詰めれば技術者だからさ。ドワーフの職人を頼りたくなるのはどんな時か、想像はつくよ」


 自分で言ってから、私は思いついて言った。


「どういう物を造ったのか詳しく教えてくれれば、使い道や、応用した技術をオレが教えられるよ。あとはあなた方も自分たちのために同じものを造ったり、都で元老院に鎌をかけて真実を聞き出したりすればいい。情報交換といかない?」


「ちょっと、アル」


 ルキエッタが私の耳元に顔を寄せて小声で言った。


「情報を漏らし過ぎたら危ないんじゃ……」


「大丈夫だよ」


 私はルキエッタにはそれだけ言い、ガナモに提案する。


「別にオレたちは、ドワーフの技術を盗もうって訳じゃない。造った物の使い道を予想したり、他にどんなことができそうか議論したいだけだ。その後で、元老院に新しい技術を売り込むのも自由だよ。ただその代わり、オレたちも見返りが欲しい」


「……何じゃ?」


「都の様子をオレたちに教えて欲しいんだ。景気とか、鍛冶職人たちの集まりがないか、銀行の人の出入り、魔術師の人数……そういう情報を集めてくれない?」


「自分たちで集めればいいだろう。人間の国の情報は、人間の方が集めやすいはずだ」


 ブギンが真っ当な指摘をした。


「オレたちは別の街で情報を集めるから、手分けしたいだけだよ。それに、ドワーフの視点で共和国がどう見えるのかも気になる。お互いが得すると思うけど?」


 私がそう言うと、ガナモとブギンはテーブルを囲む他のドワーフたちと額を突き合わせ、しばらく言葉を交わした。ブギンは不機嫌そうな様子を見せていたが、ややあってガナモが私の方を振り返って言った。


「……わかった。儂らが依頼されたものについて、知っている範囲で話そう」

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