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第8話 取引

「――儂らの山に共和国元老院の魔術師が来たのは、ちょうど2年前の冬じゃった」


 ガナモが言った。


「お主が言った通り、製造を依頼されたのは鋼や合金製の炉や工具の製造じゃ。報酬はまぁ、人間とドワーフの間でよく取引される絹や羊毛、麦、肉、葡萄、酒などじゃな。造った道具が具体的に何に使われるか儂らにはよぅわからんかったが、材質や強度、形状などの指定はやたら具体的じゃった。そして1年余り前、儂らはそれを納品したという訳じゃ。正当な契約の下で造ったものじゃし、何か不都合があるでもない。じゃが、あまりに不可解な発注じゃった。そう思っておった矢先、半年ほど前、妙な噂が山に届いた」


「噂?」


「見慣れぬ道具を持った人間たちが、各地で魔物を狩っているという噂じゃ。別の山のドワーフは、人間がそれでゴブリンを狩っているのを見たらしい。あくまで勘じゃが、儂は、自分たちの納品した物がそれに関わっていると睨んでおる」


「考え過ぎだ」


 ブギンが言った。


「人間は時々、自力で変な物を作る」


「じゃが、金属製品の加工においては儂らに分がある。ドワーフにもわからんものを、人間が何もないところから生み出せるとは思わん」


「ドワーフが作った新しい道具から生み出せると?」


「そうじゃ」


 傲慢とも言える推測だが、自らの技術力を基盤とした自負と言えるだろう。ブギンの反応からして、ガナモの予想はドワーフの中でも全員に支持されている訳ではないらしいが、しかし今回はその勘が当たっている可能性が高い。


「もしそうだとしたら、共和国がそれで儂らに攻撃する可能性すらある」


「ゴブリン狩りに使われたのがどういう道具かは聞いた?」


「奇妙な杖か筒のようだと言っておった。大きな音を立て、魔術のように見えない矢でゴブリンを射殺しておったと」


 その特徴は明らかに銃だ。どのレベルのものを作ったかまではわからないが、特徴としては銃で間違いない。見えない矢というのも、ドワーフが矢という飛び道具しか知らず、小さな銃弾が目にも止まらぬ速さで発射され、ゴブリンの死体に矢が刺さっていなかったからそう思っただけだろう。魔術師が見えない魔力の矢を射て戦だけに、実体の矢という痕跡がなければ、魔力の矢だと決めつけてしまうのも仕方ない。


「なるほど……ガナモさんの勘は当たってるよ。おそらくそれは、あなた方の炉から作られた武器だと思う。名前はわかんないけど」


 あまり多くを語ると、ドワーフたちが共和国で私から情報を得たと明かしかねない。


「その武器がドワーフに使われるかと言われれば……少なくとも、今すぐ使われることはないんじゃないかな。ただ、将来的にどうなるかはわからないね。例えば、国内から魔物を根絶した後とか」


 共和国がどれほどの文明発展とどこまでの軍拡を目指しているかはわからない。それに、仮に現在の目的が魔物の絶滅だったとして、その後で人間以外の種族の淘汰にシフトすることだってあり得る。


「魔物の根絶じゃと……?魔術師全員を動員しても、そんな真似ができるとは思えん」


「確かにすぐには無理だね。でも、共和国が本腰を入れて、時間をかけて成し遂げようとしてもおかしくない。それに、いつかは武器以外のものも大量生産する可能性がある」


「武器以外?」


「例えば、馬車より速い、魔術を使わない大きな荷車とか。あと、風がなくても動く船、農作物をたくさん作れる肥料、色々な薬……とにかく、ガナモさんたちが造った道具は、次の新しい道具を造るのに使えるものだよ」


「にわかには信じ難いが……」


「正直オレも、共和国が何をどこまで造れてるかはわからない。そこは、これからガナモさんたちが都で調べればいいんじゃないかな。共和国に提示できる取引材料はあるし」


「何じゃと?」


「あ、ここから先は交換条件だ。オレたちの頼みを聞いてもらえるなら、共和国との交渉に使える情報を教える。その代わり、そっちが共和国で集めた情報を渡すこと」


「……頼みの内容とは?」


「さっきも少し言ったけど、オレたちは都の様子を知りたい。元老院がどんな産業に力を入れているか。新しく開拓した土地や、仕入れ始めた資源は何か。あと、国内でドワーフやエルフ、魔物が目撃された事例。ここ3年の共和国の変化を知りたいんだ。この情報は、ガナモさんたちにも役に立つよ。共和国が造りたいものを、ドワーフの技術で、より高品質に、先に造ることだってできる。そうなれば、予想外の道具や材料で、新しい技術を生み出せる可能性だってある」


 私は、ドワーフの自負心を刺激しつつ言った。


 実際、魔術を駆使して金属加工などするドワーフの冶金技術は、仮想世界の未来技術にも引けを取らないレベルだろう。しかし現状、金属に関する情報量や科学的知見の差で、ドワーフたちの方が幅が狭い。裏を返せば、可能性の広がりさえドワーフに提示すれば、世界樹の情報を持つ共和国よりドワーフの方が加工技術の一点で先を往くこともあり得る。


 それだけの情報の価値に、ガナモも気づいたらしい。


「……わかった。都で得た情報は渡そう」


「ありがとう」


 私は礼を言い、こちらが指定した街で特定の宿に泊まることと、テオに向けた伝言をドワーフが代理で伝えることを約束させた。


 そしてそれと引き換えに、私はドワーフたちに、仮想世界の科学技術の一部を教える。


 元老院が銃を使い始めたのであれば、次に必要になるであろう技術についてだ。


 ドワーフたちと書面でも契約を交わし、宿屋の2階にある部屋に移動してから、ミヤが言った。


「私たちの代わりに、ガナモさんたちが都に行ってくれることになったけど……私たちはどうするの?」


「もちろん、セラを探すよ。まずは南西の方――ビレグに行こう。

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