第1話「世界を知らぬ神」
「···やはり来るか。」
神、ソツルグが呟いた。
何が来るのか。それは闇神が復活しようとしているのだ。
そして、それに対抗するには人間界に降臨し禁忌魔法を使用するしかない。しかし、人間界に神のまま降臨しても対抗はできない。人間として降臨しないと意味がない。また、全ての記憶を保存したまま降臨すると、記憶を闇神に覗かれる可能性もある。そして人の体は神の力には本来耐えきれないため、一部の記憶と力を封印して憑依することとなる。
「では、行くとしよう。」
そうして、地上に一筋の光が差す。
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「ここは···どこだ?」
ソツルグの降臨した姿、ルアス·エルヴィン。
天界にはさまざまな神が人間界を管理しているが一人の神が複数を管理するため、地形や地名などは覚えていない。裏通りに現れたルアスはまずは周囲に見られていないことを確認する。
その後、自分の容姿を近くの窓の反射で確認する。白金色の髪、透き通るような水色の瞳。常に微笑を浮かべる穏やかな青年の姿。
「ほう。これが俺か。」
自分で言うのも馬鹿げているが、見た目はよかった。
「とりあえず大通りに出てからだ。」
まずはこの世界の細かい情報を得ないとなにも始まらないな。
そうして大通りに出てみると、かなり大きな町にみえる。街といった方が正しいか。
「思ったよりも大きな都市だな。情報が多く得れそうだ。」
その後、一日街で情報収集をし、多くの物事を得た。しかし、同時にその容姿と愛想の良さから、少しばかり有名となってしまったらしく、街の人からの多くの好感も得てしまい話しかけられることも多いのだ。なので疲弊もあり、教えられた宿に早めに行くことにした。
「今日は情報も多く得たが···疲弊も貯まってしまった···。今はゆっくり休むとしよう。」
正直な所、眠気が凄まじい。人間の体は不便だ。しかし、これもまた趣があるものよ。
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夜中、何故か目が覚めてしまった。あれだけの睡魔があったにも関わらず、今は全く眠気がない。
「俺は···何かを···忘れている···?」
肝心な何かが全くといっていいほど思い出せない。何を忘れているのか、これを思考し続け、一向に眠ることができないのだ。
「何を···忘れたのだ···」
不安で、その夜は一睡もできなかった。
翌日、やはり一睡もできなかったのが響いたのか、あまり体調が優れない。
「困ったものだ···。これが毎日となると流石に耐えきれん。」
そう呟きながら得た情報を使い、食事処を探す。
「···急がないと···!学園に遅れちゃう!」
前から慌てて走る少女がいる。のどかな風景だ。これも人間界のよき所であろう···
そうしてすれ違う···
「!」
「?」
そう。感じたのだ。闇神の気配を彼女から。また、彼女も自身の変化に違和感を持ったらしいが···。
「···あっ!こんなことしてる場合じゃない!」
そうして走り去ってしまう。
「···猶予はあまりない···か。」
目の色が神の証である黄金の瞳に輝きながら、そう呟いた。