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神様のおくりもの

作者: あきみらい


「ねぇ、神様、本当になんでそんなにお人好しなんですか!」


 ある日、神様はお付きのキツネに言われた。


「その質問は何回目だろうねぇ」


 神様は笑う。

雲の上から下界を見下ろせば、今日もたくさんの人が好きに生きている。

お仕事をする人、のんびり休む人、遊んでいる人もいれば、頑張ってる人もいる。


 ここは日本の空の上。

日本には八百万の神がいると言われてるけど、今、実際にみんなを見てる神様は一人だけ。


「外国の神様たちは、もっと我を崇めよーとかやってるじゃないですか」


 神社にお参りする人たちも、最近は映えるから!とお祈りより写真を撮るのに忙しい。

それでも一応手を合わせてくれたりもするから、いいかな、なんて神様は思ってる。

人々はいろんな事が出来るようになったから、もう神様の出番はあまりないのだ。


「ん-、そういうのは私の性に合わないからねぇ」

「でも、普段は全然手も合わせないのに、苦しい時だけ神頼みですよ?」

「それでいいんだよぉ」


 キツネはもう一度、お人好し過ぎます!と言いながらぷりぷり怒っている。

神様はそんなキツネに手招きをして自分の膝に乗せると、その柔らかな毛を撫でた。


「……私ができることはほんのちょっとだからね。これでいいんだよ」


 怒ってくれてありがとうと笑いながら、神様は言う。

人々がいろんな事をできるようになったからか、神様が出来る事は昔より少なくなった。

今ではたった二つだけ。


 一つは、こっそり縁をつなげること。

 一つは、そうっと何かを忘れさせること。


「あぁ、あそこは助けてやろうかね」


 ぽんぽんと背を叩けばキツネがぴょんと膝から飛び降りた。


「はいはい、それじゃ行きましょう」

「いつもすまないね」


 キツネが先導するように一つの神社へと道を作る。

神様はのんびりとその道を歩いていく。




 お賽銭箱の前、静かに静かに祈っていたら、ふわりと拝殿の奥から風が吹いた。

ぱさぱさと軽い音を立てて紙垂が揺れる。

ただ静かに手を合わせていた私は、ふっと誰かに抱きしめられたような気がして顔を上げた。




 忘却は神様の贈り物。

人は強すぎる痛みや悲しみを抱いて生きて行けるほど強くはないから。


 神様が自分が出来る事を一個ずつ人々に与えていった中で、たった二つだけ手元に残した奇跡。

それが、縁をつなぐ事と、忘れさせる事。

どっちもそれが必要な人ほど、我慢してしまうから。


「ふぅ、やれやれ、今日は仕事したねぇ」

「もっと色々残してたらたくさんお賽銭もらえたかもなのに……」

「いいんだよぉ、お賽銭に使うより美味しいもの食べて笑ってくれる方がずっといい」

「神様はお人好し過ぎます!」


 キツネがぷりぷり怒っている。

神様は今日も笑っている。




ふと、空にいる娘を思い出した時に降りて来たお話です。

お人好しの神様はあんなことを言っているけれど、感謝を忘れずに時々でもいいからお参りにいこうと思います。

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