前世の記憶
読んでいただき嬉しいです。ありがとうございます。
アメリアは前世で健斗と遊園地に来ている夢を見ていた。ゴンドラで健斗と二人で並んで座り手を繋いで下の景色を見ていた。人が沢山いて皆が楽しそうに笑っていた。ずっとこの人の側にいたいけどこれは儚い夢だと分かって悲しくて涙が出た。
健斗は自分の手のひらで涙を拭いてくれた。ハンカチで拭いてよと思ったけど、優しいなと又泣きたくなった。切なくて儚い初恋が悲しい。どうして私が死なないといけないのと思い俯いたら抱きしめてくれた。洗剤のいい香りが身体を包みこんでくれた。
◇◇◇
健斗と生きたかったと寝言で言ってしまったたのかもしれない。目を覚ましたベッドの横にはロバート様が固まって立っていた。
「君は奈々なのか、生まれ変わったんだね。健康に生まれて良かった。この世界が奈々が良く読んでいたウェブ小説の世界に良く似ていると思っていたけどアメリアと奈々では名前が違いすぎてもうひとつ自信がなかった。それに読んでいた物と少しずつ違うんだ。小説の中では僕と兄と母上が君の田舎に静養に行くんだ。三人で仲良く遊んで友情を育み君は兄に憧れていた。でも実際は僕だけが母上に付いて来た。母上が病気だというのは同じだったけど、その先は書かれていなかったから諦められなかった。隣国で治療を受ける話も書かれてはいなかった。だから成功するかもしれないと思って母上の決断を後押しした」
「私はこの間前世の夢を見てようやく思いだしたの。小説のことはあまり覚えていないの、ごめんなさい。自分に起きた事の方がショック過ぎたのかな、実際に病院で出会った時のことが夢に出てきて健斗も転生していたら良いなと思っていたけどあれから長生きしたのでしょう?」
「そうか、それじゃあ覚えていなくても仕方がないね。小説の中に転生したと気がついたのは十三の時だったかな。衝撃だったよ。奈々の好きな小説だったから気がついたけど、こんな話、誰も信じないと思って言えなかった。大学は二浪して医学部に入って奈々がかかった病気の勉強をした。だけど難しくて手には負えなかった。有名大学の偉い先生が治す薬を見つけてくれて、簡単に治る時代になるまでは生きていたよ。やっぱり研修医時代は忙しくて死にそうだったな」
「小説の中と同じなんだね」
「今度こそ奈々といやアメリアと一緒に生きたい」
「今は平民なのよ、貴方とは身分が違いすぎるわ。外国からも私狙われてるの」
「アメリアは薬で成功しているから陛下から貴族籍は返してもらえる。手続きも公爵である父上からしてもらったほうが早いと思う。兄が疫病の後遺症で脚を悪くしていて公爵家の執務を支えているんだ。王都にいるほうがアメリアを守りやすいと思う」
「今でもサラとギルに守ってもらってるわ。心配しないで。医者で公爵令息ですものね。
そうだわお義兄様に私の薬を使ってみて。万能薬とはいかないけどどエリクサーも作っているの」
「待て待て、守れると言っているんだ。守らせて欲しい。人の話を聞け。
しかしエリクサーとは凄いな、もしかしたら兄上に効くかもしれない。各国の王族が買っているんだろう」
「ギルが上手に薬を売ってくれたから利益が出るようになって、冒険者の人に上級の材料集めが依頼できるようになったの」
「アメリアは過労で倒れたんだ。休憩も取らず研究していたんだろう。今世は僕を置いて逝かないでくれ。どれだけ悲しかったか分るか。アメリアの友達には暫く預かると言ってある。ゆっくりと休養を取ってもらうから楽にしていて欲しい」
ロバートはアメリアをもう離さないとばかりに抱きしめた。前世病気でこの腕の中からいなくなった初恋の人を今度こそなくさない為に最善を尽くす事を心に誓った。
ギルという男は悔しそうにしていたが絶対に渡さない。過労になるまで働かせるなんてどこのブラック企業だ。
将来一緒に暮らすなら要塞のような建物を建てようか。アメリアには社交界は合わないだろう。研究三昧でもいいが舞台を観に行ったり、レストランで食事をしたり買い物にも連れて行きたい。
公爵家の影も譲り受けなくてはいけない。前世で出来なかった事を全て叶えてあげよう。
とことん甘やかす決意をしたロバートだった。
父親に話をするといい返事が貰えた。今をときめく薬師の嫁だ。元伯爵令嬢なので礼儀作法の基礎がしっかりしている。絶対に逃がすなとの言葉を貰った。
爵位は陛下に話をつけて返していただく事になった。これで女伯爵となったアメリアと結婚するのに障害はなくなった。
影と護衛とメイドを公爵家から譲り受けなくてはいけないが、為人を見極めなくてはいけない。アメリアが苦労しては困る。
婚姻までにやることが多すぎて医者の仕事は暫くの間休むことにした。
アメリアのエリクサーは兄上の脚によく効いた。動かなかったのが少しずつ動くようになり、立ち上がれるまでになっていた。
このままいくと歩けるようになるかもしれない。屋敷の中が明るくなってきた。社交界も脚が悪いので父親が兄嫁を伴って出ていたが、兄が出るようになるのが望ましい。ロバートは夜会が嫌いだった。たまに一人で出る事はあったが、腹の探りあいをしなくてはいけないのが苦痛だった。
ロバートは医師で公爵家次男でしかも美丈夫という優良物件だったので、秋波を送られたり実際に迫って来る強者もいた。派手なドレスやきつい香水は苦手だ。脚が悪い兄を蹴落として公爵になるのではと痛くもない腹を探られていた。
昔母と一緒に田舎に療養に行った時は何故兄は一緒に行かないのかと思ったが、兄が行かなくて良かったと思えた。
小さい頃のアメリアを知っているのは自分だけで良い。あの頃のキラキラした思い出は自分たちだけのものだ。それに前世から繋がっていたのだ。運命の人という言葉だけで表すよりもっと深いものがあると思った。
◇◇◇
アメリアは公爵家でつま先から髪の毛の先まで丁寧に手入れされて疲れを癒やした。伯爵令嬢だった頃は普通にあった手入れも平民になっては縁が無かった。ただひたすら研究に命をかけてきた。
ロバートが健斗だと分かったせいもあるが、美丈夫のロバートの隣にふさわしい女性になりたかった。
公爵家から研究室に帰ったら美容オイルや化粧品を作っても良いかもしれない。女性が綺麗になるのは良いことだ。アメリアはチャレンジすることに決めた。
お世話になった公爵家から帰る時におじ様に挨拶をとロバートと向かった執務室で兄嫁のエリカ様に会った。金色の髪の儚げな美人だった。どこかおば様に似ている。
「この度は夫の脚を治してくださりありがとうございました。なんと感謝していいやら分かりませんわ。歩けるようになるかもしれないなんて感謝に耐えませんわ」
「たまたまお薬がお身体に合ったのでしょう。このまま続けていただけると良いかと思います。又何本かお届けしますね。脚のマッサージも良いと思います。では失礼します」
「アメリア嬢、本当にありがとう。どれだけ感謝をしても足りない。これからも息子をよろしくお願いする」
「すっかりお世話になってしまいました。おかげさまで疲労が取れました。そして婚約を認めていただきありがとうございました」
「昔妻もお世話になった。この様な形で再会出来嬉しく思うよ」
「おば様には可愛がっていただきました。ご恩返しが出来嬉しい限りですわ」
ロバートに研究室まで送ってもらった。婚約のことをサラ達に話さなくてはとアメリアは繋いだ手の温もりと共に温かい気持ちになりながら考えていた。
前世の話を入れたら長くなってしまいました。お互いが見つかって良かったです。




