再会
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レンブランド公爵家はとても大きな屋敷だった。昔おばさまの葬儀で行ったのは教会だったのだと認識を新たにした。白亜の城と言った方が早い。こんなところにギルは良く一人で行ったなとまずは感心し、大きく息を吸い込んだ。ロバートはこんなお城の令息だったんだ。
小さかったから身分を考えず仲良くして貰っていたが今なら身分の違いがはっきり分かる。招待状を手にし真っすぐ前を向いて玄関に近づいた。
扉を開けて近づいてきた若者は幼い頃会ったロバートがそのまま大人になっていた。
「アメリア、良く来てくれたね。サンデー商会のギル殿と侍女さんかな、ようこそ。懐かしいね、無事でいてくれて良かった。どうぞ中には入って」
「レンブランド公爵令息様、本日はお招きにあずかりまして光栄ですわ」
「アメリア、ロバートと昔のように呼んでくれないの?」
「私はもう平民です。身分が違いすぎます」
「そんな事は無いよ、話がたくさんあるんだ。まずは応接室へどうぞ。ゆっくりして」
侍女が四人分のお茶を持って現れた。お茶菓子も昔アメリアが好きだったものが出されていた。ギルとサラにも座るように声をかけてくれた。
「手紙を沢山もらっていたのになかなか返事を出さなくてごめん。医者になって病院で実習が始まって、朝早くから夜中まで働くというか勉強で寮に帰ったら泥のように眠っていた。アメリアの手紙は癒しだったよ。宝物だから今も持ってる」
「そうだったのですか、手紙が途絶えたので私の手紙はもう必要がなくなったのだと思っていました。過去からの手紙はもう必要じゃなくなって良かったんだと納得していました」
「過去からなんて思ったことはないよ。返事がないんだものね、そう思うよねごめん。
あれから疫病でご両親を亡くされたんだよね。辛い時に側にいられなくて申し訳なかった。アメリアは僕が辛い時に側にいてくれたのに何もしてあげられなかったね。後悔ばかりしている」
「疫病が蔓延するなんて誰にもわからなかったのですから仕方がありません。教えていただいた薬草の知識で学校に進み、自分で道を切り開けて良かったと思っています。レンブラント令息様とここにいるサラとギルのおかげです」
「そんな呼び方は寂しいな、昔みたいにロバートと呼んでくれないか」
「爵位は返しましたので私はもう平民です。子供の頃のようなわけにはいきません。それに結婚していらっしゃるのではありませんか?相手の方に申し訳ないです」
「結婚なんてしていないよ、婚約者もいない。恋人もだよ。
アメリアはすごい薬を作っていと聞いた。貴族籍を返してもらったら良いと思う、王家も納得するよ」
「各国から危険な使者が来ていますので考えていません」
「狙われているのか?」
ロバートはアメリアが価値に気付いた各国から狙われていることをはっきりと実感し青くなった。
「アメリアのいるところは安全が保証できるのだろうか?」
「サラとギルが守ってくれていますので安全です。容易に近づくことは出来ないようになっています。この度は特別に出て参りました」
「特別か、一生そこで薬を作るの?」
「それはわかりません、私も嫌になることがないとは申し上げられませんので」
「昔みたいに川の土手を散歩したいと思わないの?」
「懐かしいですね、あの頃は父も母も生きていましたし、幸せな良い時代でした」
「アメリアが葬儀に来てくれた時一緒に帰りたかった。長閑な空気に縋りつきたかった。母の様な病気を治すんだから甘えられないと自分を戒めたけど、あの時帰っていればおじ様とおば様が疫病に掛かられた時にアメリアを一人にしなくて済んだのにと悔やむばかりだよ」
「ご立派なお医者様で公爵令息様ではありませんか。私は前を向きました。心配していただかなくても平気です」
ロバートは自分の存在を拒絶された様な気がして寂しくなった。長い間連絡を取らなかった事も忘れて。
「また是非会いたい、駄目だろうか?公爵家の庭で久しぶりに散歩をしないか。ここなら護衛が沢山いて安全は保証する」
アメリアはギルとサラの方を見た。公爵令息の願いを平民が断るわけにはいかない。二人は頷いた。
庭園は花が色とりどりの花が咲き乱れて息を飲むほど綺麗だった。
「可愛いワンピースだね、良く似合っている。久しぶりに会ったら綺麗になり過ぎていて驚いているよ」
「レンブラント令息様もすっかり大人になられて素敵になられました」
「昔みたいにロバートと呼んで欲しい」
「ロバート様、もう会えないと思っていました。薬が有名になったからお声をかけていただけたのでしょうか」
「違う、そう思われても仕方がないかもしれないが隣国から帰って一番に行ったのはアメリアの家があったところだ。だがご両親が亡くなったと聞きアメリアの行方は分からないと言われた。目の前が真っ暗になったよ。アメリアの無事が一番心配だった。それで探そうと決めた」
「ごめんなさい、ずっと連絡がなかったからもう友情は無くなったと思っていました」
「それは悪かったと思っている。碌に連絡もせず、葬儀の時に来てくれたのが最後になったんだからそう思うよね。
一度アメリアが泣いているような気がしてペンを取ったんだけど、何を書けばいいのか迷って出せなかった。あれから疫病が流行って連絡も取れない日が続いてどれだけ後悔したか分からなかった」
「元気だと一行でも良かったんですけど今更仕方のない事ですわね。
両親がいなくなって支えが、薬を作ることだけになりました。
サラとギルがいてくれて背中を押してくれたので生きて来れたんです。暗い世界で彼らだけが温かい光でした。
薬草なら平民にも手が届く値段で作れますのでサンテー商会に任せられるようになり、精度の高い薬を作るようになれたのですわ」
胸が潰れるような思いがしたロバートはやっと言葉を紡ぎ出した。
「大事な友達なんだね。疫病にかかってなくて生きていてくれて良かった」
昔の様な顔でロバートが笑ったのを見て少し心が暖かくなった気がした。まだ友情が残っていたのだと思ったのだ。
その途端気が緩んだのか、急にアメリアは急に目の前が暗くなった。逞しい腕が支えてくれたような気がした。




