さようなら、また会える日まで
仕方なく離ればなれになります。
健気に前を向いて生きていきますが、波乱はまだまだ続きます。
それから三年が経ち二人は親友になっていた。話も楽しいし何より気がとても合うのだ。ロバートの母親は越してきた時より健康になってはいたが、内臓に病巣があるらしく元気に笑っていた翌日にはベッドに伏せっていることが多かった。
アメリアが十歳なのでロバートは十三歳、何時までも母親と田舎にいるわけにはいかない年齢だ。貴族たちの入る学院に行かなければいけなくなっていた。
そんなとき公爵が隣国で評判の腕の良い病院の噂を聞いてきた。公爵家は外科手術にかけてみるか、このまま薬だけで過ごす生活にするか判断を迫られていた。
悩みに悩んだ末、夫人は隣国で手術を受けることを選んだ。
生きるか死ぬかの判断をした母親の側にいることを選んだのはロバートだった。
どれくらいになるか分からないが入院生活と手術結果を見届けることを彼は選んだ。
好きな人が身近にいなくなるのは寂しかったが、勇気を応援したいと思った。
隣国で母親に付き添いながら医学学院に通うという。いずれ医者になって母親を直したいというロバートを尊敬した。隣国は医療が最先端だから夢ではなくなるかもしれないと思ったのだ。
アメリアは隣国へ旅立つロバート親子を複雑な気持ちで見送った。
「おばさま、きっと元気になって帰って来てください。待っていますね」
「ありがとう、アメリアちゃん。貴女がロバートと仲良くなってくれて田舎の生活が賑やかになったわ。私達がどんなに元気つけられたかわからない」
「私の方こそ楽しかったです。ロバート様のおかげで薬草の勉強の面白さが分かりましたし、これからもっと勉強したいと思うようになりました」
「貴女達の未来が見たいと思ったから手術を受けてみようと思えたの。手紙を書いてくれるかしら」
「もちろんです。お二人に書きますね。またお元気なお顔が見えることを信じています」
「アメリア、離れてしまうけど君は僕たちにとって掛け替えのない人だ。きっと帰って来るから忘れないで」
「忘れるわけがないわ、ロバートもおばさまもとても大切な人達なんですもの」
隣国へ送って行くために夫の公爵が帰って来ていた。アメリアの両親や使用人たちも見送りのために姿を見せていた。
そうしてロバートと母親は大きくゆったりとした馬車で隣国へ旅立って行った。
アメリアは大好きな人達がいなくなった寂しさで暫く気持ちが沈んだ。それを見た父親が街に連れ出し美味しい食事やお菓子を買ってくれたのでいつの間にか気持ちが前をむいた。帰りに本屋に寄って買ってくれた薬草の本はアリエルの宝物になった。
隣国で頑張っているおばさまとロバートの事を考えながら、薬草の勉強に打ち込む事にした。
基礎的な知識はロバートに教えてもらっていたので、後三年したら薬学の専門の学校に行くつもりだ。
おばさまが良くなりロバートと一緒に研究することが目標になった。
家庭教師を付けて貰い勉強はしていたが、友人が欲しくなったので地元の学院に通うことにした。
学院は家から一時間ほどの所にあるので馬車で送り迎えをしてもった。
お金に余裕のある平民や、王都の貴族学院に行く前の貴族の子息や令嬢が交流を広げるために来るのんびりとした学院だった。
ロバート達と手紙のやりとりはしているが寂しいものは寂しいので、アメリアは友達と賑やかに出来るこの環境が気に入っていた。
サラとギルというお金持ちの商人の家の双子と仲が良くなった。サラのほうがお転婆なところがあり、ギルはそれを優しく見ている兄という感じだった。
三人で学院の帰りにカフェでお茶をしたり雑貨屋で文房具を買ったりして学生生活を楽しんでいた。
◇◇◇
そんなある日ロバートから母の手術が失敗して帰らぬ人になったと手紙が来た。
王都におばさまと帰ってくるそうだ。
アメリアは葬儀に参列したいと父親に泣きついた。ロバートが悲しんでいる時に側にいてなぐさめたかった。
父親は泊まるのは一日だけになるが構わないかといってアメリアを連れて行ってくれた。往復で二日はかかる。その間の父の仕事が止まってしまう。いない間の執務は母がやってくれることになった。
馬車の中で泣いていると
「今からそんなに泣いているとかえって心配をかけてしまうだろう。目が腫れてアメリアかどうか分からなくなるぞ」
と冗談とも本気ともわからない言葉で慰めてくれた。少しだけ笑えたアメリアはしっかりロバートを慰めるためにもう泣かないでいようと思った。
葬儀が行われる教会に着いたアメリアは悲しみに打ちひしがれている彼の元に急いだ。教会にはロバートはおらず父親の公爵とロバートより年上そうな男の子がが魂の抜けたような顔で対応に現れた。
父親同士で話しをしてもらいロバートの行く先を聞くと墓に行っているそうだ。
墓まで送っていきますと彼の護衛が案内してくれることになった。ロバートは墓の前でぼんやりと座り込んでいた。
「ロバート」
アメリアは姿を見ると大きな声で呼びかけた。振り向いたロバートはポロポロと涙を流しながら
「アメリア、わざわざ来てくれたの?母さんは天国に行ってしまった。もう会えないんだ。アメリアにも会いたがっていた」
涙を零しながらぽつぽつとロバートが話した。
「いつもおばさまの健康とロバートの幸せを祈っていたわ。辛かったわね」
「やっと泣けた。亡くなってから悲しいのに涙が出てこないんだ。アメリアの顔を見たら涙が出てきた」
「本当に悲しい時は涙がなかなか出ないそうよ。役に立てて良かった」
涙を零すロバートの背中を撫でながらアミリアは言った。
「いつも手紙ありがとう。読み返してはお守りみたいにしてるんだ」
「私も手紙を楽しみにしているの。いつも書きすぎかなって思うけどどうかしら」
「母さんの顔を見に行きながら学校に行ってたから返すのが遅くなってごめんね。君の手紙は夜空を照らしてくれる星みたいなんだ」
「これからのことは考えたの?このまま隣国で勉強を続けるの」
「隣国のほうが医療が進んでいるから向こうで医者の資格を取ろうと思っているんだ。君はどうするの?」
「私はロバートが教えてくれた薬草で薬学を学ぶつもり。平民の病気も薬草なら安く治せそうだしね」
「相変わらずしっかりしてるな、あれから川には落ちてない?」
「こっぴどくお父様たちに叱られたからさすがに気をつけてるわ」
「花畑もあれから大分大きくなったのかな」
「ハーブが増えたし雑草みたいな小さな可愛い花は増えたわ。薬草も植えてあるし。何の花畑ってきっと使用人たちにも思われているわ。話し込んでしまったわね。教会に帰りましょう。お屋敷にも帰らないといけないんでしょう?今日は宿に泊まるけど明日には帰らないといけないの」
「わざわざ遠くまで来てくれてありがとう。君のおかげで泣けたし前を向く気になった。今度は僕が会いに行くよ」
こうロバートは言ったがこの後何年も姿を見る事はなかった。
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