デート
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アメリアとロバートは研究室兼住居に住み始めた。婚約者なのできちんと節度は守っているようだが、二人とも大人なので実際のところはごく身近なメイドにしかわからない。公爵家でも仕えていたので口が固かった。今までいたミズリーはじめ商会が付けていた護衛に加え、多分公爵家の影がアメリアを守っているような気がするサラだった。勿論公爵家の秘密に関する事なので確かめる気はない。知ってしまえば命が危ないかも知れないのだから。
二人の屋敷の手直しもされている。面向きの屋敷がどうしても必要となるためだ。サンデー商会でアメリアのウエディングドレスや家具なども手配されていて目が回るほど忙しくなった。
その上アメリアがいい香りの肌に優しいオイルを開発したのだ。王家の薔薇の香りに少し近いらしく、高位貴族をターゲットにお手入れ用に売り出す事になっていた。
公爵家で手入れされて思いついたのだという。薔薇の香りの物はあったが王家の薔薇となると香りが特に良いらしい。王妃様に献上して許可を得た。王家の薔薇に似ている香りだという所がポイントだ。
アメリアも王家の薔薇を見たことも香りを嗅いだこともないそうだが感覚で作ったそうだ。本物ではないから王家に不敬を働いたと言うわけでもなく無事に売ることが出来る。閃きで作ってしまう才能が怖い。
王妃様は勿論、当分高位貴族中心で売っていくつもりだ。材料は本物の薔薇の花を沢山使って作られている。
アメリアの存在価値がどんどん上がって、平民レベルでは守りきれなかったかもしれない。ロバート様と婚約して良かったと言えるのかもしれないとサラは今更ながら思った。
♢♢♢
アメリアと違う部屋で研究をしていたが、休憩を取らなくてはと気が付いたロバートがメイドにお茶の用意をさせて、サンルームに持って来させた。
「アメリア、お茶にしよう、根を詰めると倒れるよ」
「ありがとう、手を洗ったら直ぐに行くわね」
二人はソファーに並んで座り紅茶とコーヒーで休憩にした。お茶請けにはチョコレートが置かれている。最初にロバートが毒見をした。
「私が毒見役なんじゃないの?ロバート様は公爵家の子息なんだから」
「アメリアは僕の大事な人だ。君に何かあったら生きて行けないよ。愛してる」
「いつから?」
「雰囲気を壊す娘だね。前世からだよ。今生は隣国へ行き離れ離れになってからだよ。いつも一緒にいたアメリアがいなくなって寂しかった。けれど母上は病気だったから弱いところは見せられないと思って我慢してた。アメリアはこんな俺は嫌い?」
「そんなわけがないわ。前世から大好きよ。あの頃私も寂しかったけど、おば様と一緒に行ってあげるロバート様って優しいなって思ってた。医師になるんだって言ってたところも尊敬してた。でも手紙が届かなくなって、もう私のことは忘れたんだろうなって思ってたので一度は諦めたわ」
「一生かけて償うくらい後悔してるので許して欲しい。でも忙しすぎたんだって納得してくれたじゃないか」
「分かってる、でも諦めてた。寂しかったし、いくら好きでも必要とされない人を思うのは辛かったので蓋をしたの。またこうして会うまではね。奇跡みたい、また一緒にいられるなんて。しかも健斗だったなんて嬉しすぎるわ」
「アメリアの薬があったからだよ。目印があって見つけやすかった。離れてた時もずっと好きだったよ。アメリアを失わなくて良かった」
二人の唇が重なった。それはチョコレートの甘い味がした。甘くしびれるようなキスはアメリアを蕩けさせた。ぼうっとした意識の中でこんなキスをロバートはいつ覚えたのだろうと思ったような気がしたが、あまりの気持ちよさにそんな考えは何処かに行ってしまった。
蕩けて色っぽくなったアメリアを見てうっとりしたロバートは自分だけに許されたこの時間を楽しむことにした。
ロバートは約束通り街歩きやカフェでのデートに連れ出した。変装は念入りにした。二人とも眼鏡に髪色の違う鬘を被り平民の着るような服を身に着けている。
つい最近まで平民だったアメリアは自分の洋服を着ているだけだ。実験をするのに綺麗な物は必要がない。
手を繫いで歩いているのでデート感が半端ないが、ロバートがイケメン過ぎて注目を集めているのが分かる。今更だとアメリアは気にしないことにした。
評判だというカフェを予約してくれたらしい。
「こっちの世界でもカフェは良いわね。パンケーキがとても美味しいわ」
「原作者が日本人なんだろうな、食文化が良く似ている」
「お米なんかもあったりして。お味噌汁とか良いわね。そのチーズパンケーキ少し頂戴」
「良いよ、ほらあ~んして」
「うん美味しい」
ぱくっと食べてから周りから視線が飛んで来ているのに気がついたアメリアは、恥ずかしくなってしまった。
「可愛いな、こういうのデートらしいだろ、一度やってみたかったんだ」
「じゃあ、お返しよ、あ~ん」
アメリアは自分のベリーのパンケーキをフォークに乗せるとロバートの口まで持っていった。ロバートは平気な顔で口に入れた。
「されると恥ずかしいな」
「平気そうに見えたわ。でも楽しい」
「そうだな、楽しい。この後は雑貨屋にでも行くか」
「雑貨屋さんか、良いわね」
手を繫いでぶらぶら歩くと恋人同士だと自覚する。もう既に同居しているカップルなのに。
雑貨屋でお揃いのペンやマグカップをロバートが買ってくれた。
「ありがとう、嬉しい」
「そんなに蕩けそうな顔は僕だけが知っていれば良いんだから誰にも見せないで」
ロバートが妬いてくれるのが嬉しいアメリアだ。
「どんな顔か分からないわ」
話題を変えようと「今度は着飾って劇場へ行こうか」と話を違うところへ持っていくロバートも好きだなと思う。とにかくべた惚れになっている自信がある。
「本物の芝居が観られるのね、感慨深いわ。そんな事を考える余裕がなかったから嬉しい」
「君が喜ぶことなら何でもしてあげるよ、好きだよ」
「私も大好き、こんな幸せな日が来るなんて思っていなかったわ」
「僕も幸せだ。ああ、その可愛い顔、誰にも見せたくない。
でもせっかく出てきたんだから本屋に寄ってから帰るか」
アメリアは顔を引き締めることにした。目に力を入れ口にも力を入れた。
「本屋さんか、良いわね。たくさん買って帰りましょう」
「どんな顔のアメリアも可愛いよ」ロバートが蕩けるような顔で囁いた。
周りに甘いオーラを撒き散らしながら二人はお気に入りの本をたくさん買い占めサンデー商会に配達してくれるように頼んだ。
二人の住む屋敷が整えられるまで後一月となった。
後半はバカップル全開です。