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蘇り

 俺は驚愕していた。翡翠は死の女神イシュタムではなく月の女神イシュ・チェルの姿に変貌していた。頭に蛇を置いた破壊の女神。

 戦え。彼女がそう言っている気がした。俺は神官チランではない、戦士だ。戦士としてのみ楽園への道が開かれる。彼女は俺にそう教えている。

 俺は猛然と死の蝙蝠カマソッツの手下どもに戦いを挑んだ。やつらは獰猛で、影から無数に湧き出てくる。冥界シバルバーの眷属らしい無頓着さで、女神の姿をした彼女にも平然と襲い掛かった。彼女は鞄を振り回して応戦しているが、多勢に無勢というやつで、その身から少しずつ小さな血の飛沫が飛び散っている。

 まだ俺の戦場は残されていた。こうなれば彼女と共に戦って、戦い続けて果ててやる。

 銀は死に物狂いで戦っていた。その気迫に私も奮い立たされる。

 びゅっ、と空気が引き裂かれて、蝙蝠たちを薙ぎ払った。さっきも聞こえた、鞭が振られる音。

 音の出所を探ると、父が祭壇を登ってきていた。その手には私が投げ捨てた鞭。まぼろしかと思ったが、その憎たらしいしたり顔は現実の父以外ではありえなかった。

「こっちだ!」

 その一声でふらついていた私の体は芯を取り戻して、しっかりと地を踏みしめた。ぐったりしている銀を拾い上げ、父の元へと駆け寄る。父に連れられて全力で走る。

「なんで生きてるの!?」

「生きてちゃ悪いか?」

 にやりと笑って、私が父の頭だと思っていたものを差し出す。それはよく見ると髑髏の形をしたものに赤い汁をまぶしたものだった。表面が手で拭われると水晶髑髏が現れた。得意げな解説によると、神話における小さな血イシュキックと同じ手を使ったそうだ。

「蝙蝠とやりあってる途中で水晶髑髏を見つけたんだ。グラナの赤木もな。髑髏に樹液を塗って帽子を被せて完成。結局捕まっちまったが、いい時間稼ぎになったよ」

「でも首が……」

「手品師がやるのを見たことないか。頭を亀みたいに引っ込めて、上着に隠すんだ」

「ない!」

冥界シバルバーの王である一の死(フン・カメ―)七の死(ヴクブ・カメ―)は手品にしてやられたんだ。勉強しておきなさい」

 こんな状況で語られる父親面した説教を、少しだけうれしい気持ちで聞き流す。

 出口の明かりが見えてきた。冥界シバルバーからの脱出だ。腕の中では銀が私を見上げている。銀がいたからここまでこれた。私には銀が必要だ。恐怖を振り払い、進む為に。

 一緒に生きよう、と私は銀に語り掛けた。

 冥界シバルバー以外に生きるしるべがないと思っていた。隷属こそが俺に残された唯一の使命だと。

 翡翠が俺に共に生きようと言った気がした。俺が戦士でなくなったのは、戦場がなくなったからではなかった。守るべきものを失ったからだ。俺は彼女を守る。そうすれば俺は戦士でいられる。俺には翡翠が必要だ。

 そして、生きることと戦ってやる。その末に訪れる死は、戦いの中での死だ。もし途中力尽きたとしても、死の女神イシュタムが俺を導いてくれる。だから何も恐れることはない。

 ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます。読んで下さった皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。

 評価やコメントなどいただければ大変嬉しく思います。よろしければ是非お願いいたします。

 あとがきは活動報告に投稿します。こちら2023/3/13付けのものを私のマイページの活動報告からご確認下さい。

 それではまた別の作品でも出会えることを心より願っております。

 2023/3/13の井ぴエetcでした。

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