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 虚脱状態の私に、影を糸にしてつむいだような巨大な布袋が覆いかぶさってきた。巨大な蝙蝠。父を連れ去ったという化け蝙蝠だ。ここでは死者を想い、悲しむ時間すら与えてくれないらしい。

 私は反射的に鞭を手に取っていた。大きくしなった鞭が、大きな二つの眼孔の間を捉えたと思ったが、俊敏な動作でかわされてしまう。二撃目を打とうとした瞬間、別の蝙蝠が私の背後から襲い掛かってきた。化け蝙蝠は影から無尽蔵に生まれ出ているようだった。

 首飾りを掴まれて、引っ張られる。咄嗟に引っ張り返して、首が締まるのを避けたが、強い力で私の手ごと締め上げられる。全身でもがくが、瞬く間に大量の化け蝙蝠が群がってきて、私の体ごと持ち上げ始めた。闇雲に鞭を振ってみるも、背後の蝙蝠を追い払うことはできない。

 蝙蝠たちは私をうず高く積まれた瓦礫の山の頂上へと連れていく。そこには平らになった小さな足場があり、屋根のない祭壇のようにも見えた。

 足元に銀が駆けつける。助けて、と目で訴えるが、銀は思案するように私を見つめている。

 蝙蝠どもは俺に機会を与えようとしている。餌を吊り下げ、喰らいつかせようとしている。確かに魅力的な餌だ。祭壇を模したこの場所で、翡翠を贄として捧げれば、俺は神官チランとして楽園へ行く資格が得られるのかもしれない。

 甘い囁き。やれ、やれ、と蝙蝠どもが急き立てる。近くには彼女の父親も吊り下がっている。彼は贄となったのだろう。ならばせめて彼女も同じ場所へと導いてやるのが、俺のなすべきことなのかもしれない。

 彼女は激しく抵抗している。贄が儀式を拒絶しようとするのは悪い兆候だ。俺は宥めようと言葉をかけたが、余計に興奮を煽るだけだった。彼女は何に抵抗しようとしているのだ。俺の牙は痛みもなく一噛みで彼女の首を落とせる。心臓だって綺麗に抉り出してみせる。それなのに何故。

 銀は牙を剥いて私に襲い掛かろうとしていた。鋭い切っ先が私の喉元に狙いを定める。今にも跳躍せんとばかりに、全身をバネのように縮めている。

 死にたくない、という気持ちと、死んでもいいか、という気持ちが心中ではせめぎ合っていた。家族はもういない。銀は私に案内料を支払わせようとしているのかもしれない。銀に助けられた命だ。それを銀にあげてもいいのかもしれない。

 でも、と考える。私はまだ生きていたい。鞭を投げ捨てる。ひゅっ、と音を立てて飛んでいった鞭が、父の死体にぶつかった。死者に鞭打つとはまさにこの事。私を残して死んだ報い。

 両手で首飾りを掴んで、渾身の力を込めて左右に引っ張る。引き千切れないかと思ったが、頑丈すぎて無理。諦めかけたその時、風を切る音と共に、私は祭壇の上に叩き落とされた。何が起きたのか分からないが、蝙蝠たちが離れていって、天井付近で反転したかと思うと、また襲い掛かってくる。

 ほどけた首飾りが空中を舞い、頭の上に落ちてきた。フェドーラ帽にくるくると、とぐろを巻いて乗っかかる。

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