今、何してた?
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会が始まる頃、ライラは自室で1人やきもきしていた。
この部屋から出てはいけないことは理解したが、厳重な警備もとい監視をされて何とも嫌な気分なのだ。
拳で語り合ったにも関わらず、リアムはライラを信用してくれていない。幾度も逃亡の意思がないことを訴えても、「うるさい」と一蹴されるだけで聞き入れてはくれなかった。
―ライラが部屋で暇を持て余している間。
広間では退屈そうなリアムが、周囲の視線を集めていた。
彼は圧政を敷く若き帝王であり、彼の機嫌を損ねた者の末路は想像を絶するとの噂だ。彼が主催の会であるため、今回の催しに対する辞退は許されない。
皆、彼の機嫌を伺いゴマをする。あわよくば、と自らの娘を差し出す輩も現れた。
権力と武による支配の意味を自問するまでに成長したリアムは、謀略が張り巡らされた会話に心底うんざりしていた。
「リアム様、次はあちらの方ですわ。初参加の有力貴族、バルボサ・アーリントン様。昨今、鉄の製造に着手している方で、近々ライラック王国に近い広大な鉱山の採掘権を得る予定らしいですわ。ここで友好関係を深めておくのは得策です」
「わかった」
その言葉を聞き入れ、リアムはバルボサに近づく。彼を注視していたバルボサは、リアムの視線に気づくと人の好い笑みを浮かべた。
「お初お目にかかります。リアム殿下」
そう言うと、彼はチラリと側のメイドを見た。視線を受け取ったメイドが2つ分のグラスを持ってくる。
「・・・リアム殿下と二人きりで話がしたいのです。あちらの壁際など、如何でしょうか?」
「何故だ」
「あまり聞かれたくない話なのです」
「承知した」
このような「秘密の会話」は社交会の恒例だった。
バルボサはリュシカとグラスコにも下がるよう伝え、彼らを遠くに追いやる。リアムの側近と許嫁にも命を下す姿勢が気に入らず、リアムの警戒心が密かに引き上げられる。
グラスコとリュシカによると、バルボサはベルーガ帝国に有益な大貴族だ。少しでも今後の益になれば、とリアムは大人しく彼に従った。軍や武力の増長に関係する話であったら、こちらから打ち切ればよい。
バルボサはリアムにグラスを差し出して話し出す。
「あぁ、気にしないで下さい。アルコールは入っていませんよ。リアム様は御年17でしょう?来年の成人した暁には、共にワインを嗜みましょう」
「御託はいい。要件はなんだ」
「では単刀直入に。シャガーナ鉱山の利権に興味はありますか?希少鉱石から鉄まで採掘できる土地です。場所はベルーガの中でもライラック寄りの山ですな」
「それをわざわざ2人きりで話す理由は?」
グラスをゆらゆら揺らして、リアムが問う。
「流石はこの帝国を統べる王。・・・実は、その採掘権はまだ手にしていないのです。これから入手する予定なのですが、如何せん真っ当な方法を取りません。大きな声では言えないのです」
「興味ないな」
リアムは揺れる液体を見ながら呟く。その無礼な態度を前にしても、バルボサは丁寧な態度を崩さなかった。
「かしこまりました。では、この件は聞かなかった事にして下さいますか?」
「・・・あぁ」
リアムも後ろめたい所業をしてきた身だ。今更相手を糾弾する筋合いも、権利もないと思った。
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その日の深夜。
1日中部屋に軟禁され、体力を持て余していたライラは目が冴えていた。しかし扉の外には人間の気配。まだライラの監視は続いているのだ。
であれば、と窓を見遣る。眼下で松明の光がちらちら動くのが見えるものの、辺りはしんと静まりかえっている。
高くそびえる城壁を守る砲台が鈍く黒光っているが、遠くに広がる城下町には灯りが無い。
まだまだこれからだ。これからこの国は変わるのだから。
「・・・ん?松明?」
何気なく見えた灯りに気を引かれる。列をなしている訳でもない、独立して動く複数の光。
その光は一瞬集まって、そして離れてゆく。
1つと3つに別れた。1つは城の方へ。3つは城下町の方へ。
不可思議な動きをするそれらが無性に気になった。思わず窓を開けると、下から風が吹き上げた。ライラの長い襟足がびゅうっとたなびく。
「あれは・・・」
あれは確か。ライラの部屋にも食事を運んでくれた若いメイド。
何人もの人が出入りするライラの部屋だが、彼女は無口で挨拶も返してくれないので気になっていたのだ。
グラスコに指示を受けていたのだとばかり思っていたが・・・、思えばライラを無視するのは彼女だけだった。何かが引っかかる。
このままでは3つの灯りが城を出て行ってしまう。ライラは地面と遠い自室から飛び降り、足早にあのメイドを捕まえようとした。
「っねぇ!」
ライラの声に対する大袈裟な反応で確信が持てた。
・・・リアムの障害になる人物だ、と。
「な、なんでしょう」
「今、何してた?」
低い声で彼女に圧をかける。美しい顔面の怒りを受けたメイドは酷く取り乱し、慌てて顔前で両手を振る。
「なっ、何もしておりません!」
「・・・嘘だろ」
「い、いえ・・・」
ライラは軽く舌打ちをする。このままじゃ埒が明かない。このメイドは今すぐ口を割らないだろうし、手荒な真似もしたく無い。
「じゃあ、服脱いで」
「えっ!?」
ライラの突拍子もない発言にメイドが顔を赤らめる。彼女からしたら、ライラは中性的な顔立ちの美青年だ。うら若き乙女に破廉恥な事を要求しているように思えるだろう。
「これ羽織っていいから。とにかくその服を貸せ」
固まるメイドに自身のローブを強引に掛け、そのメイド服を渡すよう命じる。顔を赤くしていた少女は、ただならぬ様子のライラに顔を白くして従った。
「こんな事したく無いんだけどなぁ」
―メイド服を身に付けたライラは深くため息を吐いた。
次話も楽しみにしていただけると幸いです。
展開が遅くて申し訳ないです・・・。