「もうライラックに帰りたーい」
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ちょっぴり文量が少なくなりました。申し訳ありません!
リアムを真っすぐに見つめ、闇を宿す彼の目に太陽の光を送る。
「ボクが友達になってあげるよ」
「・・・は?」
「君の話を聞いて、正直、ボクは君ほど不幸じゃなかったように思えてきた。君は頼れる人が誰もいなかったんだね。それは辛いかもしれない。だから、ボクが初めての友人になって、君を見守ってあげるよ。君の敵ではない存在になる。味方には・・・、なれないかもしれないけど」
ライラは未だに、アーシェン王を苦しめたリアムを許していなかった。今後の彼の動き次第で、彼に肩入れすることがあるかもしれないが。
「とも、だち」
「まぁ、リアムって今まで友人とか兄弟なんて縁がない生活をしていたんだよね。分からないのも無理はない。でも!これから友人のボクは、立場を弁えずに今日みたいに言いたいことを君に言うから。君もちゃんと言い返せ」
「・・・馴れ馴れしいな」
そう言うリアムの顔には拒絶の気配が無かった。気まずそうにライラから目を逸らし、揺れている三つ編みを見つめていた。
孤独なリアムには真っ向からぶつかってくれる存在が必要だった。
彼を恐れず怯えずに対話をしてくれる、過ちを正してくれる。
彼の不幸を嘆かずに、自分だけが不幸であると思い込む心の弱さを叱咤激励してくれる友人。
―捕虜のライラが、その存在になってくれるというのだろうか。
**
「小僧・・・。まぁたリアム様に乱暴したな?!」
城内に戻ると、リアムの右頬を見たグラスコが血相を変えてやって来た。ライラは手形のついた首元を擦って答える。
「ふっ。これは男同士の美しい友情なんだ」
「貴様!何を訳の分からないことを言っている。リアム様、こいつライラック王国に突き返しましょう」
「いや、いい」
リアムは存外スッキリした顔で言った。
「リアム!!」「リアム様!!」
ライラとグラスコが同時に叫び、静まり返っていた城が少し賑やかになった。
―その日の夜、リアムは自室で考え事をしていた。
「あの髪・・・。どこかで・・・」
ライラの三つ編みを見て懐かしい気がしたのだ。そういえば、あの時―。
「・・・どうでもいいか」
リアムが寝ようと目を瞑ると、
コンコン
部屋が控えめにノックされた。
「誰だ」
「リアム様。リュシカです。3日後の社交界についての打ち合わせをしたく、参りました。夜分に失礼ですが・・・、どうやら日が昇っているうちはライラックの捕虜と城下町に行かれていた様子でしたので」
「入れ」
がちゃり、と戸が開き一人の女性が入ってきた。紫がかった艶めく髪を揺らし、しゃんと背筋を伸ばして歩く姿は美しい。
「どうなさいますか?前回同様、帝国の益になりそうな相手に焦点を当てて近づきますか?」
「あぁ」
「承知いたしました。ではグラスコ様が調査してくださった、帝国の糧となる約150名の方の顔と名前を憶えておきますわ」
「助かる」
短い返事を聞き、リュシカはそっと部屋を去った。
高貴な家柄の彼女は、その父によって幼い頃からリアムとの縁談を組まされていた。聡明すぎる彼女は圧倒的な記憶力を有し、場の空気を読む力に長けている。その才を見込まれ、リアムに見込まれた。許嫁になって以来、彼を影ながら支えている存在だ。
だが悲しいことに、リアムは彼女を―リュシカをただの駒としか見ていない。
**
捕虜生活10日目。そろそろこの生活に飽きてきていた。そんな時だった。
「社交会?」
「そうだ。リアム様と許嫁であるリュシカ様が催される会だ。有力な貴族を取り込む目的で開かれる」
今日も相変わらず嫌がらせのようにカーテンを開けてきたグラスコが、面白そうなイベントを教えてくれた。ライラは、退屈しのぎに参加したいと言った。
「捕虜の立場で何を言っている。貴様は自室待機だ。絶対に余計なことをするな」
「やっぱり」
最近のリアムとグラスコの変化によって忘れていたが、ライラは元々人質としてこの国に連行された身だ。アーシェン王とライラック王国の未来のために、覚悟を決めてこの帝国にやって来た。初めはどんな扱いを受けるかと不安だったが、思いのほか快適な生活をさせてもらっている。
最近改心してきたリアムは、もうライラック王国に攻め込むようには思えなかった。
・・・であれば、そろそろ故郷に帰ってもいいのではないか?
「じゃあ―」
「駄目だ」
心の声が漏れていたのではないかと思う程、グラスコに内心を見透かされた返答をされる。
「どうせ、『もうライラックに帰りたーい』とか思ってるんだろ」
「ご名答。もうリアムは変わった。ライラックを不法に攻めることはないよ」
「・・・分からない」
「?」
ライラはグラスコの様子に首を傾げる。一番そばで彼を見てきたグラスコ自身がリアムを信じてないように見えたからだ。
「グラスコ。お前はリアムの昔からの側近だよね?・・・なら彼を一番に信用してあげるべきはグラスコじゃないの?」
「そう、すべきなのは分かっているんだが・・・」
煮え切らないグラスコの態度は気になるが、彼はライラよりもリアムと付き合いが深い。長年のリアムの行動を傍で見てきた立場では、そう易々と彼の突然の変化を受け入れきれないのも無理はなかった。
「ま、徐々に受け入れればいいさ」
深く考えずに、ライラは言った。
―が、その言葉を聞いてもなお、どこか遠くを見ているグラスコが気になった。
リュシカの記憶力のよさが欲しいです。
150人の顔と名前の完全暗記は、よくよく考えると凄すぎですね。