はいはい。行きますよー
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リアムと視察回です。
―リアムとの殴り合いの後。
目を覚ますと、見知らぬ天井があった。下は上質なマットレスとシーツ、上からは豪華絢爛なシャンデリアが見下ろしている。・・・只者の部屋ではない。
「目、覚めたか」
横には頬杖を突いたリアムが座っていた。彼の右頬にはガーゼが貼られている。ほんの少し・・・、いや、かなりいい気味だった。
「お前、男の癖に細いし軽いな」
「え」
まさか、バレた―。
「よくそんなんで兵士になれたもんだ」
「あ、あぁ。そうですね、まぁ、頑張りました」
よく言われる嫌味だ。いつものように軽く返す。
ベッドから起き上がろうとして、左脚に違和感を抱く。
「なにこれ」
重くはないが邪魔だ、と思う大きさの装飾品が巻き付いていた。ライラは華美な装飾品は好まない。・・・嫌な予感がする。
「足枷だ。お前の意志で一定距離俺から離れたら、俺に伝わる仕組みだ。・・・それに、強電流が流れてお前は動けなくなるからな。後遺症も残るかもしれない」
「そんなのなくてもボクは逃げない」
「俺はお前を信用してない。この俺を殴り『王の資格は無い』と断言しておいたくせに、今更怖くなって逃げるかもしれないだろ?」
誰も信用していない、闇を含んだ目にライラは思わずたじろぐ。どんな人生を歩んだらここまで荒んでしまうのだろう。
おそらく、親分、ローシェ、セロがいてくれたライラと違い、リアムの人生には救いの手は差し伸べられなかったのだ。
藍色の髪と蒼い瞳が相まって、今のリアムは完璧に冷酷な帝王に見えた。・・・実際そうなのだが。
「で?お前は平民を気にするように言った。そんなことに意味があるのか?」
「まずは城下町に行きます」
ライラが言葉で説明するより、彼らの暮らしを間近で見てもらわなければならない。
「こんな粗末な服、着るのは何年ぶりかな」
「それ本気で言ってます?」
いつもの服装では目立つため、ライラはリアムに平民風の良い生地の服を選んだ。
厳しい暮らしを強いている元凶が国民の眼前にホイホイと現れたら、とんでもない事態を招くのは必然だ。
「お前は違和感ないな」
ライラを見て、リアムが鼻で笑う。この人はいちいち人に毒を吐かなければ会話が出来ないのか。
「はいはい。行きますよー」
渋るリアムの手を引き、2人で裏門から城を出た。まずは城下町の惨劇をその目に焼き付けてもらおう。
「・・・分かります?この酷さ」
音のない街を目の前にして、ライラは王に問う。ここまで街に活気がなければ、国にも還元されないはずだ。そして益が欲しいリアム帝王は、平民の不遇を何も知らずに高い税を設ける。地獄の悪循環は目に見えている。
「・・・お前の所はどうなんだ」
「ライラック王国はもっと活気に溢れています。出店がひしめき合って、人の会話が絶えません。あぁ、馬車もよく通りますね。そうそう、この前は素晴らしきアーシェン王が新しい取り組みを―」
「あれは何だ」
リアムが一点を指さす。そこでは数人が建物の影でもみ合っていた。幼い子供を取り囲むようにして大人が群がっている。この光景は日常茶飯事、という風に通り過ぎる人は見て見ぬふりをしている。
ライラはその光景から目が離せなかった。正確には、群がる男たちの入れ墨だ。髑髏と死神の入れ墨。それを見るのは不幸にも人生で二度目だ。
「あいつら・・・!」
ライラは衝動のままに走り出す。困惑するリアムを視界の端に捉えたまま、大人の一人に飛び蹴りをかます。
「手ぇ離せ!」
男達がどよめいている間に、子供を急いで逃がす。あとちょっとで手遅れになるところだった。奴隷商人たちは、商品に数字を彫るのだから。・・・焼き印だったかな?
とにかく数字を刻印されれば、子供たちの未来に暗い影を落としてしまう。運よく逃げられたとしても、生涯消えない奴隷の紋章を抱えて生きることになる。まともな職には就けない。
・・・数字を抱えて絶望して生きる人間を、スラムで何度も目にしてきた。
「んだこのガキ!って、見たことある嬢ちゃんだな」
「あぁ、覚えてるぜ。その髪色と顔は高く売れるぜ」
「なんだ?俺達の商品になりに来たのかぁ?」
男達が下品に笑う。
「黙れ。憲兵に突き出してやる」
ライラが睨むが、全く効いていない。むしろ男達は一層笑い声を強めた。
「憲兵だって?ここじゃあそんなもん機能してねぇよ。俺たちが何しようと、お偉いさんは知らんぷり。やりたい放題だ。ここはならず者の天国さ」
「っ!」
図星。この国では憲兵は機能していない。若い労力はほとんどが軍に駆り出されるからだ。
「ライラ」
間が悪くも、後ろからリアムが顔を覗かせる。まずい、帝国のトップであるリアムだとバレたら収拾がつかなくなる。この辺のチンピラや悪徳業者はその悪質な行為がバレないよう、「お偉いさん」に精通している。義賊で得た知恵だ。
「んだ、この坊主。おめぇもいい面じゃねぇか。それに・・・、いいとこの坊ちゃんだな?いい肉付きだ。俺らの目は誤魔化せねぇ」
「・・・きめぇな」
その発言にライラは悟る。リアムはその姿を認識されないほど裏でしか政治をしていないのだ、と。それは国民をないがしろにしている証拠だ。
本来ならば、国を治める人物は国一番の有名人であるべきだと思う。顔が割れてるからこそ責任が増し、後ろ指を指されないよう行動に気を配る。
つまり、リアムには昔から自分を客観視してくれるストッパーが無いのだ。側近のグラスコは、リアムの言いなりっぽいし。
「逃げるぞ!」
ライラは男達に小石をぶん投げ、リアムの手を掴んで走り出した。
―悔しいが、今のリアムとこの廃れた国では、横行する彼らを排除できない。
城内に入り、リアムの手を離す。
「で、どうだった?リアムがないがしろにしていた城下町は?」
「・・・酷い有様だった」
「リアム、駄目だよ。国が大切にすべきは領土の拡大じゃない。支えてくれる国民だ。それを無碍にした結果が、今日の奴隷商人だ。周囲の反応を見るに何度も子供を攫っている。・・・知ってる?あいつら、捕まえた商品にすぐ数字をいれるんだ」
「お前は何故、そんなことに詳しい?」
「スラムで攫われかけた事があるから」
飄々と言うライラにリアムは目を見開く。
「お前、貴族じゃないのか?」
「まさか。ボクはスラム育ちだ」
その言葉に、リアムは俯く。
「勘違いしていた」
「何が?」
「ひょろくて弱そうなお前が、努力して王の側近になったとは思えなかった。・・・その小奇麗な顔で権力者をたぶらかしてたんだとばかり・・・」
リアムは良くも悪くも正直者だ。だからと言って今の発言を許すつもりはないけれど。
「君って失礼な奴だな。あのまま置いて来ればよかった」
―デリカシーの欠片も無いリアムに、ライラは大きくため息をついた。
世間知らずのリアムでした。
これから変わっていくリアムを応援してあげてください。