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刀監警衛府  作者: うたのたう
1/1

プロローグ(前編)【試験、果てに汝は目覚める】

初めまして、うたのたうです。

初めての小説投稿ですが、自分なりに頑張って書きましたので読んでいただけたら幸いです。

人間には知能がある。知能があるゆえに人間は道具を作り、建物を立て、食物を育て、学習を繰り返し、不可能を可能に、不便を快適にしてきた。


では、今の生活は幸せであろうか?

答えは"No"。人間がここまで成長したのは根底にある『強欲さ』が原動力となっているからである。

そして今、原動力はその勢いを増幅させ、人間を終わることの無い破滅への一路へと導いている。


我々はどうすれば良いのだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カーテンから漏れ出る一筋の光が私の網膜を刺激し、ゆっくりとその眼を開く。

眩しさから目を背けると同時に視界に映ったのは予想外の光景だった。

「.......寝坊した〜〜〜〜〜!!!!」

跳ねるように起き上がり、出発の用意を済ませる。

幸い、荷物は昨日の夜にまとめておいたのでさほど時間はかからなかった。

「紡希〜、心刀はちゃんと持った?」「もちろん!」

お母さんの念入りな確認ももう耳にタコができるほど聞いた。

リュックを背負い、刀を腰にき、玄関を勢いよく飛び出す。

今日は大事な試験の日、ずっと憧れだった『刀監警衛府』の入社試験の日なのだから。


駆け足で試験会場、『刀監警衛府隊員養成校』へと向かう道中、周囲を見れば現代日本と変わらない風景の中で誰もが当たり前かのように刀を携えている。それもそのはず、この世界では誰もが自分の刀を持って産まれるからだ。

しかし、そのまま刀を抱きかかえながら母のお腹の中から出てくる訳では無い。

生まれた直後の赤ちゃんに打ちたての刀を触れさせると、刀と赤ちゃんの心が繋がり、一人一人異なった形、性質の刀へと変化するのだ。そして、赤ちゃんの心の変化、成長と共に刀も姿形を変えていくのである。

故にこの刀の名前は『心を映す刀』ということで『心刀』というのだ。


会場に滑り込み、受付で教室の位置を教えてもらい、階段を1段飛ばしで駆け上がる。5階に到達したところで右に曲がり、廊下を早足で進む。たくさんの紛らわしい扉の中から自分が受ける教室の扉を探しあて、席に座る。何とか間に合ったことに安堵しつつ、休む間もなく最初の筆記試験が始まる。1問目、2問目、3問目と順調に解き進める。

(大丈夫、全部見たことある問題だ。解ける。)

何とか平静を取り戻し、時間内に問題を解ききる。

あとは実技試験。

ここの実技試験は受験番号順に2人組で模擬戦を行い、勝者が合格となり、敗者は即退出となってしまう。決して失敗はできないというプレッシャーが肩に重くのしかかる。

周りの受験者は自分の能力を最大限駆使してぶつかり合っている。刀に炎を纏わせる者、刀を変形させる者等、様々な人が己の目的のために戦っている。

刀には所有者の心の中で1番大切なものを体現した能力のみが発現する。つまり、原則として刀1本につき固有能力が1つあることになる。

「次!受験番号0279番、調月紡希ツカツキツムギと0280番、流川一真ルカワカズマ!」

対戦相手の流川一真は癖ひとつないストレートの黒髪に栗色の瞳にきめ細やかで透き通るような白い肌で、思わず見惚れてしまう程整った顔立ちをしており、黒1色で構成されたコーデが彼をより大人びて見えるようにしていた。

だが勿論、性別など関係ない。比較するのは強さのみ。

(負けられない____今回こそは!)

「始めっ!」

相手の出方を伺おうと思った私は眼前の光景に目を疑った。

彼の姿が消えた、いや、沈んだのである。文字通り、影に呑まれていく。

(影の中に入れる?もしそうだとしたら、一体どの影から出てくる?)

ここは刀監警衛府特設の武道館。天井からは無数の照明が吊り下がっており、あらゆる方向から照らされているせいで影が四方八方に伸びている。

しかし、だとしたら

(なんで攻めてこないんだ_____?)

背中さえ取れば簡単に勝てるだろうに、なぜ攻撃しないのか、いや____

(攻めれないとしたら___!)

相手の能力に何らかの条件があり、それに引っかかっているために攻撃できないなら。それはすなわち現状有利なのは自分であるということを表し、

(何故わざわざ相手に有利な状況にさせた?)

____同時に疑念を抱かざるを得ない。

読めない。対戦相手の能力が。彼の真意が。

もっと深く考えろ。今わかっている情報を整理しろ。

考え得る全ての可能性を疑え。

思考はもっと深く。もっと早く。

____トン。

私の思考が停止した。肩に何かが触れた。

それだけで全てを察した。後ろを見るまでもない。

優しい声がした。

「考察は大事だけど、視野が狭くなっちゃ意味が無い。惜しかったね。」

何もかもその通りだった。全て見透かされていた。

最初から、掌の上で踊らされていた。

「そこまでっ!受験番号0280番、流川一真、合格!」

試験官の声は私には届かなかった。

頭の中をまだ疑問点が埋めつくしていたから。


(またダメだった。)

会場を後にしようとした時、轟音と共に足元がふらついた。建物が揺れている、先程の轟音から下の階で何かが起きたことはすぐにわかった。

私は迷っていた。下へ降りて現場へ向かい、自分に出来る事をするべきか、それともこの場に留まり、会場に居る試験監督、もとい刀監警衛府の隊員が解決し、助けに来るのを待つか。

私は迷ってしまった。それは今まで私が最も多くしてきたことであり、同時に最も嫌うことでもあった。

こんな時は決まってある人を思い出す。

(あの人ならどうしただろう____)


12年前の9月8日、まだ小学生にも満たない頃、私はいつも家の近くの公園で遊んでいた。

私がいつも通り遊んでいた時、突然女性の叫び声が聞こえてきた。声のした方を向くと、腹部から血を流し倒れている男性とそれを見て口を抑えている女性、そして血の滴る刀を持ってこちらに走ってくるいかにも犯人らしき男性がいた。私は怖くなってその場で丸くなり、両目をぐっと瞑った。

その時だった。声が聞こえた。優しい声が。小さく、でも確かに私に向かって言ったように聞こえた。

「大丈夫。安心して。君は僕が守る。何としてもね。」

思わず目を開けると、先程までこちらに走ってきていた男は別の男に取り押さえられており、血のついた刀は地面に深くつき刺さっていた。

取り押さえている男はどこから取り出したのか、大量の糸を犯人の腕に巻き付け「午後4時38分、傷害罪及び心刀悪用罪により逮捕する!」と高らかに叫んだ。

隊員の男は私にそっと歩み寄り、ポケットからお菓子を取り出し、そっと私の手に握らせた。

「ごめんね、怖い思いさせちゃって。これでも食べて元気だしてね。それから、今度また何か危なくなったら、大きな声で『助けてー』って叫んでね。お兄さんが絶対、君を守るから。」

その瞬間、2つの感情が私の中に芽生えた。

私も人を守れるようになりたいという『憧憬』。

このお兄さんと一緒にいたいという『恋慕』。


私は階段を素早く降りていく。もう迷いはなかった。

(憧れのあの人になりたくて、私はここに来たんだから。)

1階は重い空気に包まれていたが、それでも臆せず進む。

廊下に立っていたのは試験の時見た他の受験者が3人、その中には私に勝った一真の姿もあった。そして3人と向かい合う形で佇むのは黒のパーカー、ズボン、マスク、サングラスと、全身黒ずくめの男。

(________居た、やつが犯人だ。)

男は何か小声でボソボソと喋っているようだったが、距離が離れているせいで全く聞こえない。

(とにかく犯人が動いてこない内に最善策を考えないと。)

早足で他の受験者3人と合流する。

「あんたはさっきの、、、まだ居たのか。」一真はどことなく疲労しているように感じた。恐らく既に1戦交えたようだ。

「今の状況は?」情報の整理が最優先だと思い提案する。

「轟音がしたから近くにいた2人と入口付近に向かったら扉はぶっ壊されててあいつが居たんだ。この場にいた隊員も全員あいつにやられて俺らも戦おうとしたけどまるで攻撃が通らないまま押されて今に至った感じだ。」

薄々分かってはいたけど、状況はかんばしくないらしい。

「まず一真以外の2人の名前と能力、もしあったら能力の『条件』とか『制約』を教えて。その後いくつか質問したい。」

能力には当然のごとく限界がある。それは当人の精神的成長と共に伸びてゆくのだ。

「俺は荒巻颯太アラマキソウタ。能力は『触れた刀の大きさを変えること』だ。」

オールバックの金髪で長身、全体的にゆったりとした服を着ており、そしてピアスといかにも悪い男な見た目だが真っ直ぐな声に真面目な態度からその誠実さが伺える。

「条件というか、能力の限界なんだが、今んとこは自分の身長の3倍が限界ってとこかな。ただ、刀の一部分だけ大きくするとかだともう少しでかく出来る。」

「僕は天国陽斗アマクニハルトで、能力は『光の量、方向を変化させること』です。」

陽斗は颯太とら対照的に黒髪で目が隠れており、モノクロな服装は彼の大人しさを物語っている。

「能力の条件というより僕は制約なんだけど、光の量も方向も大きく変えれば変えるほど、体力を使うから長くは続かないんだ。」

「ありがとう。じゃあ、質問していくね。まず一真の能力なんだけど_____」と言いかけたところで一真の方から先に口を開く。

「俺の能力は『影の中を自由に出入りできること』____」そこに間髪入れずつっこむ。

「だけじゃないよね?」

一真は少し驚いたように目を開いていた。

「試験が終わってからずっと考えてたんだ。なんであんなに時間をかけて私に勝ったんだろうって。」

違和感は疑念を生み、

「別に勝とうと思えば一瞬で背後に回っていくらでも攻撃できただろうに、なんでそこまでしなきゃいけなかったのか。」

疑念は一つの仮説を生んだ。

「あなたの能力の条件は、能力の全貌を相手に認知されればされるほど制限される。」

いくつもの可能性を探しては否定してを続けた結果、

「だから私が影の中のみを自由に移動できる能力であると勘違いするように影の中だけを出入りした。違う?」

私の中で納得のいく解答こたえはこれだった。

一真は少し考え込み、やがて諦めたようにため息を吐き、

「どうやら、試合に勝って勝負に負けたみたいだね。」

両手を上げてお手上げとでも言わんばかりに、

「そう、僕の本当の能力は『物体をすり抜けれること』だよ。条件まで完璧に合ってた。いやぁ〜、想像以上だね。」

そう呟いた。

颯太と陽斗は只々紡希の洞察力に驚いていた。

ちらりと犯人を一瞥いちべつすると、壁を触りながら未だに小声で何かを呟いているので、私は質問を続けた。

「もう一つだけ。」

最低限聞いておきたいこと、それは____

「さっき攻撃が通らないって言ったのは具体的にはどんな感じだった?弾かれたのか、そもそも当たった感じすらないのかみたいに。」

_____敵の情報。その中でも1番気になっていたこと。

無敵になる能力なんて存在しない。しかし、その隙を見つけないうちは無敵であるのと同義なのだから。

すかさず颯太が口を開く。

「奴に直接攻撃しようとしたのは俺だから言わせてもらうが、当たった感触はあった。それは確実だ。」

颯太は自身の刀が奴に必ず触れていたと、念入りに訴え___

「ただ、感触があまりに硬すぎた。鋼の壁を相手にしてる見てぇによぉ。加えてあいつはその時刀を抜いてなかった。だから俺は腕を切ったと確信してたんだ。ただ_____」

そして視線を逸らし、うつむいて言うその姿は___

「その腕が異常に硬かったんだよ。」

そのあまりに異常な性質に絶望しているようにも見て取れた。

「あと、後ろから見てたというか、サポートしてて思ったんだけど」

陽斗がその後に続いて補足する。

「颯太君の刀とあの人の腕の間に少しだけ隙間があったように見えたんだ。だから、見えない壁を作る能力とかなのかもしれない。」

一真も同意見のようで、これ以上の情報は出そうになかった。私は首を傾げて考え込む。

(足りない。もう少し情報が欲しい。出来れば能力の特徴と、その条件まで知りたいのに。)

あと一歩。すんでのところまで来てる。打開策がもうすぐで出来そうなのに届かない現状をもどかしく思いつつ、再び犯人に目を向けると、先程まで廊下の奥に居たのだが、いつの間にか距離が半分程にまで縮まっていた。

「警戒っ!」頭で考えるより先に叫ぶ。

3人も呼応するように臨戦態勢をとる。

犯人はゆっくり、足元も覚束ないながらも確実に私たちとの距離を詰めてくる。その動きがぎこちないせいか、時々軋むような音も聞こえ______

(この音は。。。?)

音は前の方から聞こえてきた。やはり犯人の体が軋んでいるのか、いや_____

(だとしたらさっきこの情報が出なかったのがおかしい。)

さっきと状況的に違うのは、私がいることと、今いる場所が廊下であることぐらいしか_____

(廊下?だとしたら________!)

すぐさま壁に目をやる。全てを見逃さないようにじっと見張る。

_____ギシッ。再度、軋む音が聞こえた。

その時、ほんの壁が少しだけ変化したその様子を私は確認し、私の左側に立っている颯太に命ずる。

「颯太下がって!」

言われるがままに下がった颯太の頬をそれが掠め、目の前の床を強く叩き、パチンと、大きな音が響いた。

「あっぶねぇ、おい、今のはなんだ!?」

「もしかして___」陽斗が気づいたように私を見る。

「うん、やっとわかったよ、あいつの能力。」

今ので確証が持てた。ようやく集まった最後のピース。

「____糸だよ。」

それは、たった1本の糸。しかし___

「細くも硬い、決して切られることの無い、頑丈な糸を生み出し操る。それがやつの能力。その証拠に__」

先程まで凝視していた壁を指さし、私は淡々と述べていく。

「そこの壁に何かを強く擦り付けた様な細い跡がついてるでしょ!」

ほんの少し、注意深く見ないと気づかないほどに細く、だがしっかりと彫られたような一筋の跡がそこには残っていた。

「「「能力が分かれば_____!!!」」」

3人が一斉に動き出す。全員が一斉に刀を抜き、颯太は左に、陽斗は真ん中に、そして私は右に分かれる。陽斗が自身の刀に反射した光を増幅させ、犯人の目に集中的に当てる。

視界を奪ったのを確認し、颯太は刀を最大限まで大きくし、

私は背後に回って、奴の糸に引っ掛からないように刀を横にし、颯太と同時に刺す____!!






各々の役割を完璧に理解した連携攻撃、ほんの数秒、しかし体感では数分にも及んだ静寂を破ったのは______

「実に惜しい。」他でもない、奴だった。

私の刀、颯太の刀、陽斗は両手両足をそれぞれ奴の糸で縛られていた。

(やられた。やらかした。不安要素はあった。奴がこちらに向かう前、何故か壁を触っていた事。直前まで奴が糸を1本しか出していなかった事。気づいてた所はいくつもあったのに____っ!!)

気持ちが先走ったあまりに、かえって最悪の状況にしてしまった。

「連携自体は悪くない。いや、むしろ素晴らしい。私でなければ確実に決定打になっていたであろう。」

最早もはや奴に褒められても何も嬉しくない、むしろ怒りの念が膨れるばかりだった。

「ただし、君達は自分達の敵の強さを測れていない。それは正確に測れなくてもいい、だが下に見積もることだけは許されない。それが唯一で致命的な君達のミスだ。」

何もかも見透かされていた。奴の掌の上、操られていた様に、自分に繋がれた糸を断ち切れなかった。

糸が私の刀と腕を締め付け、腕を血が流れる。

(早く打開しなきゃ、この状況でできることで、戦況を変えうる一手を_______)

そこで私の意識が遠のいていくのを感じた。考えることが難しい。呼吸も苦しい。


(でも、まだ諦めたくない。まだ抗いたい。まだ未練が沢山ある。まだ誰も救えていない。まだ私の夢は始まってすらいない。)


我儘わがままなのは分かってる。でも今度こそは、約束、守ってみせるから。


(だから、追わせて。夢を見させて。救わせて。抗わせて。

もう少しだけ、この命、誰かの為に、使わせて____)






頭が痛い。五月蝿うるさい程に声が響いている。誰の声かも分からない。ただ、優しい声な気がした。


『何て紅い情熱なの、でも、嫌いじゃない。約束よ。その命、必ず多くの人の為に、そして、いずれはあの子の為に。さぁ、見せなさい、あなたの覚悟おもいを。』






私の腕から流れた血は刀をつたい、刀をまとい、刃の側面には幾何学模様が浮かび上がる。

絡みついていた糸を燃やし、私はゆっくりと立ち上がる。そして、刀を奴に向けて高らかに叫ぶ____

「あんたを野放しには出来ない、だから、今、ここであんたを討つ!!」

プロローグ(前半)を読んでくださり誠にありがとうございます!

この物語の大まかな世界観等は高二の時にふと思いついたのですが、小説として書き始める前に受験期に入ってしまったため、見送ることとなってしまいました。

その後、大学に入ってから時間に余裕が出来たので、この度無事にプロローグの前半が完成に至ったという訳です!

今後も決して早くは無いと思いますが必ず続きは投稿しますので!

どうか楽しみに待っていただけると幸いです!

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