物語作れば世界を作る
物語を作るのは簡単に見えて難しかった。何かを真似たりするのが当たり前だと思っていたから。しかし、現実は違う。同じジャンルで沢山ある中でも選ばれるのはほんのひと握り。俺の作る物語はそのひと握りには入らないと思っていたが、目の前の現実では俺たちの物語と類似していた。
大学の2年になった俺はとあるサークルに居た。「物事制作発表サークル」という珍妙なサークルなのだが、ここは別命「同人活動倶楽部」とも言われる。簡単に言うと自分らで作った物語を演劇で見せたりゲームにしたりしてみようというサークルなのだが、個性的な人間の集まりである。
「おはようございます。部長と先輩方」
「おはよう。後輩10号くん。先輩たちより遅いとは何事かな?」
「部長、俺はまだ2年ですよ。単位をたくさん取っておかないと3年や4年になってバイト出来ないじゃないですか。それに執筆だって時間かかるんですよ。」
「そうだぞ。部長!10号くんがお気に入りでも単位を取らないと制作活動は出来ないんだよ。考えてやれよ。」
「何を言うのかね?後輩2号。私がいつどこで後輩10号くんをお気に入りにしたというのかね?ギロ」
「俺ら後輩5名の時はそこまで攻めてなかったのに?」
「それは私もその時の苦労を知ってたからね。それに私だってその時期は忙しかったんだからいいだろう!」
あぁ。また始まったよ先輩達の過去の単位事件。
「キッ!後輩10号くん、何が言いたいのかね?また始まったとか心の中で思ってたのかい?」
「部長は人のモノローグや心象を読むのがお得意なようで」
「伊達に後輩10号くんの師匠をしてないのだよ」
「その師匠は弟子に対して支障を与えたりしてますよね?何とは言いませんが」
「何かね?後輩2号から5号までそんな目で見てるのかね?私がいつ後輩10号くんに支障を与えたというのかね?」
俺の取らないといけない講義のところに会議を入れたりする人がいるか?
「第1ですよ。俺はこのサークルに入れられた理由が半分脅しですからね」
「あの脅し方は部長ならではでしたからね。後輩10号くんの事を調べてたんですか?」
「調べてないよ。ただ単に君が私達のパンフレットを読んでる時に顔を赤らめたからね。それでピンと来たのだよ。」
俺がこのサークルに入ったきっかけそれは今も持ってるこのパンフレットの1文。「情けないと言える人は本当は自らを情けないと思っている」
というのだが。これは俺が先輩たちと会う前に小説サイトで作っていた小説の初めの1文に書いたものだ。
しかし、この時の俺は小説や制作活動の厳しさを知らなかった。その時に見れくれた人達からのコメントで打ち負かされて小説を書くことを辞めた。素人が簡単に手を出していいものじゃないと思っていた。物語は飛び飛びの書いた内容を覚えてすらいない俺は、諦めた。その小説を書いたのが今から3年前の高校時代だ。
そして大学に受かり小説のことも忘れていた大学の入学式終わり。色んなサークルから声を掛けられていたがどれも興味がなく、パンフレットやチラシを貰って近くのベンチで適当に読んでいた。
「どこのサークルも読んだ感じブラックの会社案内みたいな事を書いてるな。面白くない」
「それじゃあ、このパンフレットも読んでくれないかい?」といきなり声をかけられた。
その声をかけた人物がこの部長である。
「このパンフレットはどこのサークルですか?」
「物語制作発表サークル!別命同人活動サークルのだよ。自ら漫画や小説、演劇やゲームなどを作るところだよ。」
「ふーん。ところで先輩は何年になるんですか?」
「今年で3年だよ。浪人も留年もしてないピッチピッチのお姉さんですよ」
「フッ、にしても小じわが多いで―」
「女性に対しては敬意と言葉遣いに気をつけなさいな後輩」
「化粧が濃ゆいんで老けて見えます。あと化粧初心者と思うぐらい顔が白いですよ。まだ、あっちの先輩の方が若く見えますよ」
「あの人は私達のサークル顧問の先生だよ。三十路後半だよ」
「スー先輩、三十路後半に負けるぐらい老けてます」
ドゴ!
すごい勢いで腹を殴られた。確かに敬意と言葉遣いには気をつけてないがここまでするだなんて先輩は怖い。
「とりあえず読んでくれる?感想を聞きたいだけなの私は」
「分かりましたよ。読みますから」
俺は適当に流し読みして感想を適当に言って帰ろうかなっと思っていたのだが、読んでたら目を奪われてしまった。絵や活動の写真はとてもいいのだが説明文がそれを物語のように進ませていく。これはパンフレットを物語という題材に沿って作られているせいか読んでいて楽しくなった。
ついに最後のページに来て後悔した。もう終わるのかと寂しくなっていた気持ちから一気に羞恥と言わんばかりのものが目の前にあった。
「そこの君!青春はスポーツだけじゃない!体力作りも大事だが物語を作るのも青春で大事なものだ!
情けない言える人は自らも情けないと思っている!」
なんで!なんで最後の1文見たことあるの!?恥ずかしいよ!うわぁー死にたくなるぐらいに悶えそう。そう感じてしまい一気に顔が赤くなった。暑いからでは無い。恥ずかしさが限界値を超えた。
「どうだい?私達のパンフレットは?デキはまぁまぁかな?」
「へっ?あぁいやそのえっと。とてもいいと思います。活動内容を物語に置き換えていて、読みやすくて伝わりやすかったですよ⤴︎ 」
「なんで声が上ずってるの?てか、顔が赤いよね?大丈夫かい?」
「へ、平気ですよ?嫌ですね、最後のひと文が妙にクサイセリフだなーって思っていて」
「あーそれね。きみの書いた小説の初めの文が好きでね引き抜いたの」
「そうなんですか?へぇー…」
うん?
「ニヤ。やっぱり君だったのね。あのサイトの小説書いたのは。更新もされてないし今となればあの小説が無くなってたから驚いたんだよね」
「も、もしかして予想立ててたんですか?」
「いや、私の感がそう言ってたのよ。どう?これをバラしたくなければわたしの所属するサークルに入るかい?」
「脅しとは卑怯ですよ!そんなので俺はくっ―」
「おーい後輩2号くん!ここにあの―――」
「わー!!分かったから!分かった!入ります!入りますからあの小説については内密に!」
「よろしい!それでは後輩10号くん!君も私達と同じ物語制作発表サークルの一員だ!とりあえずあそこにいる三十路後半の先生にこれを渡してきな。ちゃんと三十路後半先生と言うんだよ。言わなかったら…ね?」
「最後の最後まで脅しとは卑怯な」
「ちなみにこの物語を書いたのは私だよ。そしてこれを気づき、褒めてくれた君を私の弟子にしてやる!ありがたく思いたまえ!」
「うわぁぁぁ!鳥肌が立ってきた!ちくしょう!」
俺は部長に脅されそして顧問の先生に三十路後半先生と言ってしまったせいで逃げることが出来なくなりこのサークルに入った。
過去が酷いよ。これが本当の黒歴史かな。
「後輩10号くんよ、今日はこのTRPGの物語を作るよ。これは異世界ものだからある程度のチートは有りだからね」
「このチートが現実にあればなー脅されることも無かったのに」
「後輩10号くんよ、君の黒歴史である小説をバラしたのは部長と顧問だからね。諦めな」
「入会して1ヶ月でバラされた事を今でも恨んでますからね。あの先生本当は20代後半だと知って後悔しましたがあと少しで三十路ですからね。でも、サークル内でメイド服着て作業の手伝いってなんか痛々しいですよね?」
「あの人に面と向かって言えるのは君だけだよ」
「ところで先輩たちはどんな感じのにするんですか?物語は俺と部長の2部構成にするのかオリジナルストーリーを2本用意するのか話してきますが」
「2部構成で頼む」
「わ、分かりました。部長が合わせてくれるから楽ですけどダメだし怖いんですよね」
「後輩10号くん!初めは君から書いてよね。TRPGの時間は1時間だから30分でできるようにまとめなよ。残りの30分は私で合わせるから急ぎなよ。私達も参加するからある程度ステータスの紙に記入しといてね」
「物語作った人が参加ってある意味ルールーブレイクしますよ?」
「なんのために私と君で2部構成にしてると思うの?私達が大まかな作りはするけど出来次第顧問の先生が進めてくれるのよ?あの人元は小説書いてたからいきなり自分の物語を入れてくるよ?」
「メイド服の先生で小説って地雷ですよね?」
「それ以上言ってはダメだよ」
「それじゃあみんな、名前とステータスとスキル等を書いてくれよ。物語出来次第スタートだからね」
そう、ここまでが僕たちの現実だった。物語が出来、顧問の先生と共に始めたTRPGが現実と交わったのはここから2日後だった。