与えられた力
英語の会話は『』で表されます
また主人公がわからない単語は〇などで表記されます
俺は西村夏生という名前だ。自分で言うのもなんだがオタクだ。クラス…というか学校で一番のオタクであると自負している。そしておそらく全世界のオタクが一度は夢見たことがあるであろう異世界転移というのを体験している。一人だと心細いがクラスメイトだっている。知っている人間がいるというだけでものすごく安心できるものだがそれでも不安は大きい。だがそれ以上に感じる。期待、好奇心。感じるのだ、
新たなる僕の物語の始まりを
聖歌の大合唱が終わった。
終わるころにはほぼすべてのクラスメイトが起きており、寝ているのは一人か二人程度だった。
すると今度は女王(?)らしき人物の横に少しやせたおっさんが前へと出てくる。
「ハジメマシテ。オドロカナイデクダサイ。ワレワレハ、テキデハアリマセン」
片言な日本語に友好の意思。かなり良い兆候だ。だが非常にしゃべりにくいな。おそらく彼は通訳係だが、彼程度の語学力じゃまともに対話することはむずかしいだろう。だが残念!我らにはいるのだ。この状況を打開する希望の星が!
『ここは…どこですか?』
さすが俺たちの中で最も英語が堪能な嶋田會。帰国子女は伊達じゃないな。それにこういった場面でも臆さず発言できるのは彼のいいところだ。
『ここは、貴様らで言うところの異界。神より賜りし、地にして我らが祖国。そして我こそはオメルニヴァ帝国11代目国王!ダグマーラ・インガルス・ヒルゲンブリンク三世である!』
わぁお。こいつはたまげた。わかったことはとりあえず宗教色が強いということ。そして11代もの間変わらず国を守っていて革命とかも起きないとかいったいどうなってんだよ。日本じゃあるまいし。すさまじい国だな。
『では…なぜ、我々はここに?』
そう。それめっちゃ気になる。実際ものすごく重要だ。魔王討伐みたいなシンプルなものだったらいいんだけど…
『知らん!』
は?
「は?」
思わず會もそういってしまほどに衝撃であった。マジ何言ってやがんだこのアマ。じゃあなんだ?俺たちは転移の実験で適当に呼ばれたってことか?だとしたらそいつをぶんなぐってやりたい。
『我が神が言うには貴様らを勇者としてこの地に使わすとのことだが、我らにそもそも勇者など必要ない!』
あーなるほどそんな感じね。なんか未来ヤバげだから今のうちに若い勇者送っとくよって話?こりゃいきなり学園モノが始まりそうだな。てか俺たちそんな戦えるか?動物一匹すら殺したことがないような人間だぞ?そもそもこいつらが戦っている奴らってなんだ?ムカついてきたから文句言ってやる
『我らはまだ幼き少年。しかも動物一匹すら殺したこともないような世界で生きてまいりました。我々はおそらく戦力になれないでしょうし、勇者が不必要とあらば我らをお返し願えないでしょうか。』
異世界に興味はあるがこれでいいのだ。大体敵を倒すとか日本人高校生には無理だろ。ラノベ読んでるほうがいいわ。
『そんなものできるならとっくにやっておるわ!大体勇者のくせになんだその贅肉だらけの豚のような体は!シスター・ステラ!こいつらを治癒しろ!!』
うわ口わっる。大体なんだよ治癒って俺ってそんなにブスか?なんだ、この顔は怪我か病か呪いに違いないってか?はっ!残念だったな!俺は生まれつきこの顔だよ!
脳内ツッコミを入れつつシスター・ステラとやらの一挙一動が見放せないでいた。
国王の合図で出てきたのはシスターというよりもどこかの神官のような宗教的衣装を身にまとった老婆であった。しわの多い老婆でありながら、一切のシミやそばかすなどなくあるのは唇左下の小さなほくろのみ。垂れていながらも豪勢な衣装の上からでもわかる大きな乳房は彼女は若いころは美人であったことを思わせる。
『御意。承りました』
すたすたとカーペットの左端を歩くシスター。実は俺は好奇心でいっぱいである。
なぜかって?逆に諸君らは興奮しないか?だって夢にまで見た魔法だぞ!
しっかりと目に焼き付けて再現できるようにならねば。
「ヴぉぅん」
ささやかな光とともにライトセイバーを振ったような音がした。その瞬間に魔法陣のようなものが浮かんだ。だが俺はそれを認識することはない。これと同時に俺は体中から耐え難い苦痛を感じ取っていた。
心臓から血管。果ては爪の先に至るまで己の情報が改ざんされるような感覚。
新たに感じる血液にも似た温かい流れ。それはまるで寄生虫のように蠢く。
「うあぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「くっっっ!!!」
「あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”」
皆の絶叫が聞こえる
理解不能
これのどこが治療なものか。
改造という名前の方がよっぽどあっている。
だまされた。その言葉が頭をよぎる。
それ以降、俺の頭は真っ白になっていた。