転移~プロローグ~
カウンセラーはいません
暖かな春の季節
高校一年生は少しづつ新しい環境にも慣れはじめ、新たなる仲間と共に学業に励む
もはやほとんど散ってしまった桜はコンクリートの上にその名残を残す
暖かい風は春の終わりをしくしくと感じさせるがまだもう少し、この季節は続きそうである。
もっとも、俺にとって重要なのはこの春がいつまで続くかではなく、このつまらない授業がいつまで続くかであるが。
現在、俺は古文の授業を受けている。授業の教師がもっとつまらないおじいちゃん先生ではなく、今年新任の若い女性の先生であることは幸運としか言いようがないがそれでも、理系の俺にとってこの時間は苦痛以外の何物でもないだろう。
先生によって白板に活用の種類が永遠と書かれている。ちょうどラ行変格活用を書いていたその時。冷たい風が前方の窓から入ってくる。最前列の生徒がその身を震わせているがそれも一瞬のこと。
次の瞬間にはこのクラスの全生徒が息をするのも忘れるほど釘付けになった。
桜の花びらだった。確かにここ数日、宙を舞う桜など全くと言ってよいほど見ていないが、さして珍しいものでもない。しかし、この時なぜか皆まっすぐに花びらを見ている。そこにだれひとりとして違和感を持たずに見続けていると、花びらはひらひらと舞い降り、教卓の上に落ちた。
その瞬間……
俺はどこかへと流れた。
どういった表現が正しいのかわからない。呼吸できる液体の中で浮遊するような感覚。
しかし、別に呼吸できるわけではない。する必要を感じない。体中が動かせず、動く必要がなく。ただ、ゆっくりと時が流れてゆく。
Dr.ST〇NEの石なった状態の人間といえば伝わる人もいるだろう。
俺は確信した。これは絶対ラノベ的展開であると。
俺は考え続ける、次にとる行動を。これから起こりうるシチュエーションを。ありとあらゆる状況を夢想し、今までに見てきた、読んできたその状況を鮮明に思い出す。
どれほど時間がたっただろうか。足元に暖かさを感じる。直感する
ついに着いたのだ!異世界に!