なんでも外しちゃう君
じっと見ていたエルロアさんが「何かわかるか」と尋ねてきたので答えた。
「表面はミスリル、その内側に魔導伝導率の高い木材、骨組みは鉄で作られています。
手の平や足の裏に魔術石が埋め込まれていますね。効果は両足に風、両腕に火です。で
も、一番気になるのは、上腹部の部分ですね」
「上腹部? 特に変わったところは見えないが……」
「多分内部だと思います」
エルロアさんは「内部か……」と、オートマトンに近寄る。そして、オートマトンを持
ち上げ背中側を上にして置いた。
魔力の残滓が観えるところを触ったり引っ掻いたりしてみると、目ではわかりにくい
が、何か引っ掛かりのようなところがあるのがわかった。
「ここから開けられそうですけど……何か開けられそうな物はないですかね」
私がそう言うと、イザベラさんがローブの中をモゾモゾし始めた。
「それなら、丁度いい物があるわよ」
イザベラさんは懐から、握り部分にアッシュグレーの魔石と、赤い魔導宝石の付いた、
先に針金の様なものが付いたものを取り出した。私は「それはなんですか」と聞くと、
イザベラさんが得意げに答える。
「これはどんな形にでもなる、どんな鍵でも外せちゃう私が開発した魔道具、『なんで
も外しちゃう君』よ」
「へ……へぇ~」
ネーミングセンス……独特ですね……。
イザベラさんは『なんでも外しちゃう君』を、オートマトンの背中の近づける。
すると、『なんでも外しちゃう君』の先の針金が動き始める。背中のミスリルでできた
外皮の一部が外る。外皮の中には金具のような物が見えるが、『なんでも外しちゃう
君』はその金具も外した。
イザベラさんが作業している間に、紅茶を机に置きながら言う。
「ところで、魔導機兵とオートマトンって、何か違いがあるんですか」
私は答えた。
「魔導機兵は魔石を使わなくても魔導を行使できるんですよ。しかし、オートマトンは
魔石がないと、魔装を行使できません。簡単に言うと、魔導機兵は魔法使いと同じなん
ですよ」
「そ、そうなんですね。もし魔導機兵だったと思うと、恐ろしいですね……」
「そうですね。このオートマトンはおそらく、魔導機兵を作るための練習だと思いま
す」
私とカンヤさんが話しをしていると、イザベラさんがオートマトンの内部に手を入れ
た。どうやら作業がおわったようだ。
イザベラさんが内部にある物を取り出す。
「魔導宝石?」
イザベラさんは豆粒ほどの魔導宝石を摘まむように持つ。
「おそらく魔導機兵が動く為のエネルギーに使っていたのだと思います。……だとする
と、頭部は行動パターンを反映する為のエネルギー用の魔導宝石があったはず。それと、
行動パターン刻んだ魔導陣もあったはずです」
エルロアさんが言う。
「頭部はオートマトンを行動不能にした時に、急に爆発したんだ。大した爆発ではな
かったから、被害はなかったがな」
「おそらく頭部には、オートマトンがオートマトンたらしめる何かがあったはずです」
「頭部か……。そんなに変わったところはなかったが……。目の部分に黄色い魔術石が
あったくらいだ」
「外側ではなく、内部だと思います。おそらく魔術陣がそうなのでしょう。その魔術陣
がオートマトンがオートマトンたらしめるものなのだと思います。そして、その魔術陣
は裏オークションで手に入れた魔導機兵の設計図を参考に刻まれているはずです。それ
を見られないようにする為に、稼働限界時に自動的に爆発するように作られていたので
しょう」
「なるほど。なかなか用意周到だな」
イザベラさんは摘まんでいる魔導宝石を観ながら言った。
「それにしても、この魔導宝石小さいわね。これじゃあすぐ動かなくなるじゃない」
「テストとして作られたからだと思います」
「テストで作ったのに、あれだけの被害が出たなんて、本当に恐ろしいわね」
恐ろしい被害……。そういえば、私は詳しい被害状況を知らない。ついでだから、教
えてもらおう。
「私たち、現場は観て来たのですが、具体的な被害ってどのくらいだったんですか」
エルロアさんは机の上にある資料と思わしき紙を取り、見ながら答えた。
「死者百四人。重傷十四人。軽傷二十一人だ。オートマトン三体だけで、これだけの被
害が出た。これは非常に由々しき事態で、早急に解決に動きたいところだ。現在は調査
中だったのだが、セレスティアのおかげで進展しそうだ」
「それは良かったです。私たちもオートマトンを直接観れたので、大変参考になりまし
た」
エルロアさんは「話しは変わるのだが」と前置きをして言った。
「その小脇に置いてある箱と花はなんだ」
小脇に置いてある物。それは、ギフトボックスと花だ。イザベラさんは、それを見て
言った。
「私たちへのお土産!?」
私は残念そうに答える。
「すいません。違います。これはクラリスさんへのお見舞いに買った物なのですが、病
院に行ったら面会謝絶で、会えなかったんです。よければクラリスさんに届けてくれま
せんか」
エルロアさんが「わかった。こちらで預かろう」と、花とギフトボックスを預かってく
れた。その様子をイザベラさんがジッと見詰めている。私は、イザベラさんに言った。
「食べたら駄目ですよ」
「た、食べないわよ」
ギフトボックスは、賞味期限が一か月以上の長い物を選んだし、花は切り口に布を濡
らして巻いてあるので、すぐに枯れることはないだろう。
そろそろディナーの時間が近いので、エルロアさんの執務室を後にし、客室へ戻った。
客室に戻って少し経つと、ドアがノックされた。返事をし、ドアを開けると、そこに
いたのは少年と三十代くらいの女性だった。
「すいません。セレスティア様ですか」
「はい。セレスティアといいます。こんばんは」
私が返事をすると、少年と女性の方は「ごきげんよう」と挨拶をした。ごきげんようと
は、中々丁寧な挨拶だ。王城にいるということは、もしかした貴族とか王族の人なのだ
ろうか。確かに少年の服装はコート、ウエストコート、ブリーチズと、正に貴族といっ
た格好だし、華やかなピンク色のドレスを着た女性の方も、なんとなく気品が溢れてい
る感じだ。いや、王城の客室にいるような人は大体貴族や王族か。
少年がキリッとした顔で挨拶をする。
「はじめまして。私はアークラードの王子、セシル・アークラード・ド・ロマリオと申
します」
続けて女性の方が挨拶をした。
「ごきげんよう。私はアークラード四世の妻、イーリス・アークラード・ド・ロマリオ
と申します。以後、お見知り置きを」
そう言って、イーリスさんは微笑んだ。
アークラード四世の妻。つまりこの女性の方はこの国の王妃様ということだ。
イーリス様は王妃に相応しく、とても気品の溢れる立ち振る舞いだ。それに対してセ
シル様は少し緊張気味だ。
私はセシル様と同じく少し緊張気味な方を紹介した。
「こちらは、私の友人のカンヤさんです」
カンヤさんは頭を深々と下げた。
「ご、ごけ……ごきげんよう。カンヤ・カゲイノエと申します」
噛んだ。きっと「ごきげんよう」とか言い慣れていないのだろうな……。
彼女は顔を真っ赤にし、しゃがんで俯く。そして、その彼女を見てアデルは密かに
笑っている。
セシル様は咳払いをして、言った。
「本日はディナーへのご出席、ありがとうございます。本日は、僭越ながら私が案内さ
せていただきます」
私は「はい。よろしくお願いいたします」と頭を下げた。
カンヤさんは……まだ立ち直れていないようだ。




