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ロンドベルトにて

 夜が更け、人々が寝静まったころ。俺たちはローバーズの屋敷に潜入した。

 潜入は容易くできた。屋敷内の見取り図は午前中に調べておいたので屋敷内に潜入し

ても迷わずにナナエの部屋に到達することができた。

 部屋の中に入ると、ベッドで就寝しているナナエがいた。

 ゼノが懐からダガーを取り出す。

「後はこいつを殺すだけか。簡単だな」

ゼノがベッドに近づく。しかし、それを遮る者がいた。

 ゼノの前に立ち、遮ったのはアンナだった。

「待って。本当にこの子を殺すの?」

「ああ。だってそういう依頼だったろ?」

「そうだけど……」

アンナは一度黙る。しかし、何かを決意したような顔をした。

「殺し屋たちはもういないはずよ。私たちは誰かを殺す必要なんてもうないの。まして

や貴族のくだらない復讐に巻き込まれた女の子を殺すなんて……。きっとシスターレナ

はそんな私たちを見て悲しんでいるはずよ!」

「そんなこと今言わなくてもいいだろ。ターゲットのはもう目の前にいるんだぞ!」

 アンナとゼノが揉めていると、ターゲットのナナエが目を覚ました。

「キャアアアアアアアアァァァァーーー!!!」

 ナナエの叫び声を聞き、部屋の外から声が聞こえて来る。やがて警備兵がこの部屋に

雪崩れ込んで来るだろう。

ゼノが舌打ちをした。

「とっととこいつを殺して、ここから去るぞ!」

アンナは両手で遮る。

「駄目よ!」

 警備兵が迫る。最早時間はない。しかし、ゼノもアンナも譲る気はない。すると、ベ

アトリーチェが二人の間に入った。

「わかったわ。ここは私に任せて、あなたたちは逃げなさい。大丈夫、殺したりしない

わ」

ベアトリーチェはそう言った後、俺の方を見た。それはつまり……。

 ゼノは「ふざけるな!」と激怒する。俺はそのゼノに不意打ちで催眠の魔術をかけた。

詠唱はいらない。俺の右腕の肩には催眠の魔術陣が彫られている。魔力を流せば対象を

眠らせることができる。

 ベアトリーチェの右手の肩には俺と同じく催眠の魔術陣が彫られている。ベアトリー

チェはナナエに催眠の魔術をかけ、眠らせた。そしてナナエを抱えた。

「みんな別々の方向に逃げましょう。さぁ、行くわよ」

 各々ナナエの部屋から出る。俺は窓を飛び出した。


 隠れ家に帰り、少しするとベッドに寝かせたゼノが目を覚ました。

 ゼノは「ベアトリーチェとアンナは?」と訊いてきたので、俺は「まだ」とだけ答え

た。ゼノは「そうか……」と言い、それ以降何も言わなかった。

 それから三日後。

 ベアトリーチェとアンナはまだ帰って来ていない。そして、隠れ家からゼノの姿が消

えた。ゼノの部屋には書き置きがあり、書き置きには『旅に出ます』とだけ書かれてい

た。

 今思えば、アンナは一年前のあの日から仕事に関して消極的だった。おそらく辞めよ

うと考えていたのだろう。そう、俺たちは一年前のあの時から自由になったのだ。しか

し、俺たちは殺し屋を辞めなかった。なぜなら、俺たちにはそれ以外の生き方を知らな

かった。いや、知ろうとしなかったからだ。

 俺は気づかない内に楽な道を選んでいたのかもしれない。

 生前シスターレナは道徳的なことをあまり言わなかったが、記憶の中で唯一思い出せ

る言葉があるとしたら、『自分らしく生きなさい』だ。アンナはその言葉を思い出した

のかもしれない。そして自分らしく生きようとした結果、殺し屋をやめるという結論に

至ったのだろう。

 ゼノももしかしたらシスターレナの言葉を思い出したのかもしれない。きっとその言

葉の意味を探しに行ったのだろう。

 ベアトリーチェは……よくわからないな。

 ゼノがいなくなった次の日、俺はゼノの書き置きにゼノの名前と自分の名前を書いて、

リビングのテーブルの上に置いた。

 俺は思った。みんな自分勝手だと。だから俺は探しに行くことにした。みんなと、自

分の答えを……。


 自分の過去を語ったガルターブさんが言う。

「それから五年ほど各地を巡ったが、誰一人見つけられていない」

私は「そうなんですね」と答えながら、過去の記憶を思い出していた。

 銀髪の金色の目……そう。私はその人物を知っているかもしれない。そもそも金色の

目で、特異魔導体質の人物なんてこの世界に二人もいるかどうかだろう。

「そのベアトリーチェという方、もしかしたら会ったことがあるかもしれません」

ガルターブさんは驚いた顔をした。

「どこだ? どこで会った?」

「ロンドベルト帝国です」

 私はガルターブさんに倣って昔話をすることにした。と言っても数か月前のことなの

だが……。


 それは、私とアデルがロンドベルト帝国から旅立つ三か月ほど前、ロンドベルト帝国

の王城、シリヴァングプゼリ城にいた私は、ある日の夜、眠れない夜を過ごしていた。

ちなみにシリヴァングプゼリとは古代エルファタ語で難攻不落という意味らしい。

 目を閉じていても眠気がこないと感じた私は目を開けた。視界には天井ではなく、天

蓋の内側が見える。

 身を起こして立ち上がる。

 部屋の中には大きな窓とドア。家具は洋服棚と机しか置かれていない、とてもシンプ

ルな部屋となっている。

 私はなんとなく机に近寄る。そこにはお風呂に入る前に外した髪飾りが置かれていた。

桜の花びらを模した、綺麗な髪飾りだ。その髪飾りを私は手に取り、指でなぞる……。

 うん、他にすることがない。

 どうしようか迷っていると、ドアの外から足音が聞こえてきた。今はもう遅い時間だ

が、いったい誰だろう……見回りの人だろうか……。

 私は髪飾りを机の上に戻すと、椅子に掛けてあったカーディガンを羽織り、ドアの方

へ向かった。

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