シスターレナ
今から二十年ほど前、ロンドベルト帝国の更に北のグラピナ王国という小さな国。そ
の外れの田舎に小さな教会が立っていた。
教会からの景色は草原と森と山。ここから町に行くには馬車で一時間ほど走らないと
出られないほどの、本当に何もない田舎だった。
俺はその教会のシスターレナに育てられた。本当の親は知らない。所謂孤児だ。
教会には俺以外に三人の孤児が居た。一人は銀髪で金眼の女、ベアトリーチェ。もう
一人は黒髪の女、アンナ。そして、最後の一人がゼノだ。
俺とベアトリーチェは同じ歳。アンナはひとつ下。ゼノはふたつ下だ。ゼノは一番年
下ということもあり、皆から可愛がられていた。
ベアトリーチェはよく教会に置いてある本を読んでいた。アンナはシスターレナと遊
んだり、お手伝いをしていることが多かった。それとゼノの世話もよくしていた。俺は
弟分であるゼノとよく悪ふざけをしたり、森の方へ探検に行ったりしていた。
本当に自然しかないような所だったが、俺たちは何も不満はなく毎日を過ごしていた。
しかし、ぞの生活はある日突然終わりを迎えた。
俺が八歳の時のある日のこと。
その日はいつも通りゼノと森へ遊びに行っていた。そして、夕方になる少し前に俺と
ゼノは教会に帰って来た。
教会に入ろうと扉を開けると、扉を開けたすぐ前でシスターレナが倒れていた。
シスターレナ以外には放心状態のアンナと、それを庇うように立っているベアトリー
チェが見えた。そしてベアトリーチェの目の前には、三人の人物が立っていた。
三人の人物は皆同じ格好をしている。全身真っ黒のローブを着ていて、それぞれナイ
フ、小剣、魔術銃を持っている。顔はよく見えなかった。
ゼノがシスターレナに駆け寄る。
「シスター? シスターどうしたの?」
ゼノがシスターレナの体を揺する。するとゼノ手は赤く染まった。
「あっ……あっ……」
ゼノは自分の手を見て、声にならない悲鳴を上げた。
黒いローブを着た中の魔術銃を持った人物が言う。
「まさか組織を抜け出してこんな所に隠れているとはな。ガキを育てて罪滅ぼしのつも
りか?」
ナイフを持った人物が言う。
「で、どうします? 全員殺しますか?」
小剣を持った人物が答える。おそらくこいつが二人のボスだろう。
「ああ。だが、そこの銀髪のだけは駄目だ」
小剣の先をベアトリーチェに向ける。ナイフを持った人物が訊く。
「あの金色の眼の子ですか? なぜ?」
「あの金眼は魔眼、特異魔導体質者の目だ。なんの能力を持っているかは知らないが、
連れて帰って育てれば役に立ちそうだ」
ナイフを持った人物は「わかりました。では、他は殺しますね」と歩き始める。歩いた
先はシスターレナの遺体、ゼノの所だ。
ナイフを持った黒いローブの人物がナイフを振り上げる。ゼノは尻餅を付いた。
「いやだ……死にたくない……!」
ゼノは逃げようとするが、首根っこを掴まれてしまった。
俺は助けようと思うがすくみ上り、足が動かない。
ナイフが振り下ろされる。しかし、そのナイフがゼノの心臓部に突き刺さる前にそれ
を制止する声が聞こえた。声を発したのはベアトリーチェだ。
「……待って!」
黒いローブの三人はベアトリーチェの方を向いた。小剣を持った人物が言う。
「なんだ」
「大人しくあなたたちの言う通り付いて行くわ。その代わり皆も一緒に連れてって」
「断ったら?」
「……私も死ぬわ」
小剣を持った人物が少し考える仕草をした。
「……まぁいいか。但し、可笑しな真似をしたら殺す。わかったな」
ベアトリーチェは頷いた。
俺たちは三人の殺し屋の三人に連れられ、教会を後にした。俺たちが向かった先はグ
ラピナ王国の外れにあるルゾという荒くれ共の根城だ。
こうして俺たちは殺し屋として育てられることになった。
荒くれの町、ルゾの町には多くの殺し屋やスリ、所謂賊と言われる者たちが隠れ住ん
でいた。その中でも俺たちを拉致した殺し屋たちの住処は一番大きかった。
俺たちを拉致した奴らたちは一流の殺し屋とまではいかないものの、この辺りでは有
名な殺し屋集団だった。しかし、その分グラピナ王国の軍に警戒され、目を付けられい
た。
俺たちはそこで一年間、殺し屋としてのノウハウを学び、殺し屋として依頼を受ける
ようになった。
依頼者は色々いたが、特に貴族からの依頼は危険が多かった。なぜなら貴族が依頼す
るターゲットはその貴族よりも階級が高い貴族や王族が多いからだ。中にはボディー
ガードを何人も付けている者もいた。しかし、その分報酬も良かった。
殺し屋として仕事をし始めて七年が経ったころ、それは起こった。グラピナ王国の軍
が俺たちのアジトを襲撃したのだ。俺たちは命辛々逃げ出した。が、同じアジトに居た
殺し屋たちの半数は捕まってしまった。残ったのは俺とベアトリーチェとゼノとアンナ。
その他には俺たちを拉致した三人と他二人だった。
ボスが言う。
「ここから北に三十キロ進んだ先に俺たちの隠れ家がある。全員ばらばらに逃げて、そ
の隠れ家で落ち合うとしよう」
皆首を縦に振った。
俺たちはばらばらになり、それぞれ目的地を目指した。しかし、グラピナ王国の軍は
俺たちを捜索している。更に俺たちの中には軍の襲撃で負傷している者が一人いる。お
そらく目的地には全員辿り着けないだろう。
それから俺は目的地を目指しひたすら歩み続けた。真っ直ぐ進んだわけではないが、
二時間もしない内に隠れ家へ来ることができた。もしかしたら自分より後方にいた誰か
が囮になってくれたのかもしれない。
俺が到着してすぐ後にゼノとアンナが到着した。
アンナが言う。
「二人とも無事だったのね。ビーチェは?」
俺は答えた。
「わからん。もう着いているなら中に居るはず」
到着した目的地には崖があり、崖には抉り取られた様な洞窟があった。洞窟の中に入
るとそこはとても広く、中には小屋が建てられていた。
俺は小屋のドアノブに手を掛け、ノブを回した。
ドアを開けるとそこにはベアトリーチェがいた。ベアトリーチェは血だらけだった。
しかし、彼女は負傷しているわけではない。
「あら、遅かったわね」
そういうベアトリーチェのそばには、血だらけの死体が転がっていた。




