葬儀と再出発
カーネギー侯爵が警備隊に捕まった翌日。私とカンヤさんはロレーヌ家の方々と共に
墓地へ赴いていた。
そこはベネオスの街外れ。黒い柵に囲まれた所に墓地はあった。
ロレーヌ家の人々は喪服を着ている。ちなみに、葬儀の時の決まり事はその国や地方
によって違いがあるが、アークラードの葬儀では喪服でなければならないという決まり
は特にないらしい。現に私とカンヤさんはいつもの私服だ。それとアークラードでの葬
儀は家族のみが多く、それ以外の人は後日に行われる送る会で故人を弔うそうだ。
葬儀にはロレーヌ家の三人に加え、メイドさんや執事さんなどロレーヌ家で働く方々
も参列している。
墓石に向かって皆手を合わせる。アテリアさんは泣いていた。
ピーター君とミアちゃんも手を合わせている。二人は泣いていない。しかし、何が起
こっているのかはなんとなく理解しているように見えた。
そして、手を合わせている人たちの中にグランさんの姿はなかった。
昨日、カーネギー侯爵邸で私たちは違法な物品を押収した。それと無事アネモネさん
も見つけることができた。発見した場所はやはり隠し部屋だった。
最初に隠し部屋を発見したのはグランさんだった。アネモネさんはその隠し部屋の中
にいた。
アネモネさんは口と手と足を縛られ、少し衰退していたが、命に別状はなかった。
その後、アネモネさんは警備隊に連れられ病院へ。グランさんはカーネギー侯爵と同
じく警備隊本部へ連れられて行った。
グランさんとアネモネさんは折角の再会を果たしたのに、結局二人が話すことはな
かった。
カーネギー侯爵邸にいたメイドさんや執事さんの半数くらいは奴隷として買われた人
たちで、やはり皆口止めをされていたみたいだ。
カーネギー侯爵本人はこの後裁判になるだろう。彼はあそらく無罪になる。なぜなら
彼はベネオスの王だからだ。しかし、それも時間の問題だ。彼がベネオスの王でいられ
るのはおそらく一か月もないだろう。私がアークラード王に事の顛末を話してしまえば
ば彼は正当に裁かれるだろうからだ。
葬儀が終わるとお墓の前にテーブルを置いて会食。ちなみに葬儀の初めは墓地の近く
に建てられてある教会で追悼ミサがあったり、シスターさんたちが聖歌を歌ったりして
いた。それとお墓の前で会食するのは故人との最後の会食をし、供養するという目的が
あるらしい。
出される料理は故人の生前好きだった料理が出される。ちなみにテーブルの上に並べ
られた料理は、サンドイッチだ。
皆でサンドイッチをいただいていると、アーセファーさんが現れた。
「失礼します。少しお話、よろしいですか?」
どうやら私をご指名のようだ。
アーセファーさんはウェインさんのお墓に手を合わせた後、「少し歩きましょう」と
言った。
私とアーセファーさんは墓地を抜け、教会が建てられている方へ向かって歩く。
教会の周辺には花壇があり、色とりどりの花が咲いていた。
教会の入口手前まで来ると、アーセファーさんは言った。
「まずお礼を。あなたのお陰でカーネギー侯爵の悪事を暴くことができた。と、言って
も裁判で無罪になるでしょうが……」
「それに関してはおそらく時間の問題かと。アークラード王には私の方から伝えておく
予定ですので」
「そうですか。それは助かります。それと、グラン・ラングレンのことなんですが、あ
なたの言った通りにグランさんは書斎で『オークション出品票』を見てしまったそうで
す。それについてウェイン子爵を問い詰めたところ彼ははぐらかしたらしいのですが、
ウェイン子爵がアネモネさんを誘拐したのがわかり彼を殺してしまったそうです。凶器
は持っていたナイフ。犯行後もずっと持っていました。きっと犯行後、来客や私たち、
警備隊の対応に追われ、捨てることができなかったのでしょう。同じ理由で犯行後に裏
オークションについて調べようにも、できなかったと思います」
アーセファーさんは思い出したかのように言った。
「裏オークションについては警備隊も調べていたのですが、
よく場所が分かりましたね」
「それは……た、たまたまですよ……。それより、グランさんの現在の様子はいかがで
すか?」
ガルターブさんのことを知られるのはまずい。私は話を逸らした。アーセファーさんも
特に気にならなかったのか、それ以上詮索はしなかった。
「元気……とは言えないですが、至って健康です」
「そうですか……」
無理もない。アネモネさんは無事だったが、彼がアネモネさんに会えるのは大分先のこ
とになるだろう……。
アーセファーさんは話題を変える。
「次にカーネギー侯爵のことなのですが、ウェイン子爵はカーネギー侯爵に脅されてい
たそうです。カーネギー侯爵はおそらく手駒が欲しかったのでしょう。タイミング悪く
劇場建設予定地から離れた場所で新築のお店を建てたウェイン子爵に目を付けたのでみ
たいです」
ウェイン侯爵はやはり脅されていた。きっと断ったら……いや、考えるのは止めておこ
う。
教会前の道を暫く歩いていると教会と墓地の敷地外に出た。私とアーセファーさんは
そこで足を止めた。
このまま歩いて行くと花屋、アネモネへ向かう道がある。
そういえばなぜ誘拐した人を遠くに売り飛ばさなかったのだろうか。近くだとすぐ身
元が割れそうなものだと思うのだが……。アーセファーさんに訊いてみた。
「理由はふたつあります。それはカーネギー侯爵が自分のお気に入りを手元に置こうと
していたからです。アネモネさんはお気に入りだったのでしょう。もうひとつは、遠く
だと費用の割に高く売れないという話を聞いたことがあります。アークラードは海に囲
まれていますし、唯一陸続きの南側は関所の警備が厳重ですから」
なるほど、人を運ぶとなると船が必要になる。船を手に入れようにも目立つだろう。確
かに費用と労力はかなりのもの。奴隷業も大変そうだ。
あっ、奴隷業で思い出した。
「アネモネさんに奴隷印は……」
奴隷印というのは奴隷に魔術印の焼きごてをし、逆らった時などに奴隷に激痛を走ら
せることができる、魔術陣の様なものだ。おそらくカーネギー侯爵邸で働いていた人た
ちには奴隷印が焼かれていたはずだ。
アーセファーさんは答えた。
「まだ奴隷印は刻まれる前だったみたいです。それとカーネギー侯爵邸にいた人たちも
解印の準備が進んでいます」
「それは良かったです」
これで何もかも元通り……とはならないだろうが、少しはいい方向に向かって行くだろ
う。
最後にアーセファーさんは言った。
「頼まれていたことですが……」
私はアーセファーさんにお願いをしていた。それはハンズ・ブランクの向かった先を
カーネギー侯爵に訊いてほしいというお願いだ。
アーセファーさんは言った。
「『本社へ戻る』と言っていた、と」
「本社ですか……わかりました。ありがとうございます」
本社ということは、ハンズ・ブランクは首都ロマリオからさらに北側にあるというベア
ボルに向かったのだろう。これはまた暫く移動しなければならなそうだ。
アーセファーさんの「戻りましょうか」という声に、私とアーセファーさんは道を引
き返した。
次の日、私たちは旅立つことにした。
朝、ロレーヌ家のお屋敷の前で、ロレーヌ家の人たちがお見送りをしてくれた。
私とカンヤさんはロレーヌ家で働く方々、そして、ピーター君とミアちゃんと挨拶を
交わした。
最後にアテリアさんは頭を下げて言った。
「セレスティア様とカンヤ様には大変お世話になりました。道中お気をつけて」
「はい。ありがとうございます」
そう挨拶してくれたアテリアさんはスーツを着ていた。
アテリアさんはこれからウェインさんの代わり、ロレーヌ商会の事業再生を目指すそ
うだ。
私とカンヤさんは箒に乗り、飛び立つ。目指すのは首都ロマリオだ。
ガルターブさんは既に出発している。今度こそハンズ・ブランクを捕まえよう。
最後に皆に手を振ると、嬉しそうにはしゃいでいるロロ君の姿が見えた。




