嘘の手紙
裏オークションに潜入した翌日の朝。
私とカンヤさんはいつもの通り顔を洗い、着替えて朝食へ。
食堂へ行くとアテリアさんが居た。昨日よりも顔色は良さそうだ。
アテリアさんが言うには明日、ウェインさんの葬儀が行われるらしい。
朝食後、ピーター君とミアちゃんは学校へ行った。
私とカンヤさんは朝食後、客間でお茶をしていたが、そこにカンヤさんが来た。
「警備隊の方が来て、お二人を呼んでいるのですが……」
「はい、今行きます」
昨日裏オークションに潜入した後、私たちは花屋へ寄った。その後に私はベネオスの
警備隊本部へ立ち寄り、翌日お屋敷で話したいことがあると言っておいたのだ。
お屋敷のエントランスに行くと、アーセファーさんがいた。
私に気づいたアーセファーさんが言う。
「おはようございます。それで何がご用でしたか?」
「はい。実はウェインさんを殺害した犯人がわかったんです」
アーセファーさんは驚いた顔をした。
「それは本当ですか? 警備隊ですらいまだわかっていないのに……」
私が「本当です」と答えると、アーセファーさんは「それで犯人は?」と言う。
「犯人は今、ウェインさんの書斎に居ます」
アーセファーさんは「中に入っても?」という顔でセリカさんを見た。セリカさんは
「ちょっと待ってください」とリビングへ向かった。リビングにはアテリアさんが居る
ので、確認しに行ったのだろう。セリカさんはすぐに戻って来た。
セリカさんが「どうぞ」と中へ促す。そして、アーセファーさんとと私とカンヤさん
はウェインさんの書斎へ向かった。
ウェインさんの書斎のドアをノックして中へ入る。書斎の中に入ると室内に居た人物
に向かってアーセファーさんが言った。
「彼が……そうか」
部屋の中にいたのは……やはり、グランさんだった。
グランさんは驚いている。
「これはいったい……?」
私は、一から説明することにした。
「事の発端はアネモネという花屋さんの娘さん、アネモネさんが誘拐されたことにあり
ます。アネモネさんを誘拐するように指示したのはウェインさんです。ウェインさんは
犯罪組織の人間と繋がりがありました」
アーセファーさんが言う。
「ベネオスの街に裏社会があるのはわかっていましたが、まさかウェイン子爵が……。
それは間違いないのですか?」
「はい、間違いありません。そして花屋へ定期的にお屋敷の花瓶に飾る花を買っていた
グランさんはアネモネさんが誘拐されたことを知っていました」
「つまり、花屋のアネモネという女性を誘拐したのがウェインだと知って、彼はウェイ
ン子爵を殺害したと?」
「はい。おそらくこれを見たのでしょう」
私は『オークション出品票』をアーセファーさんに見せた。アーセファーさんは書い
内容を確認して言う。
「ヴァダーの人形? フォディアの人形?」
「それは裏オークションで使われている隠語で、ヴァダーの人形が女性の奴隷、フォ
ディアの人形が男性の奴隷を意味しているらしいです。つまり誘拐されたアネモネさん
は裏オークションで奴隷として売られたということです。そして、この隠語を見てすぐ
に意味を理解できた人物がいます」
アーセファーさんはグランさんの方を見た。
「それが彼ということですか」
グランさんは慌てて反論した。
「ちょっと待ってください! そんなのたまたまじゃないですか! 私が犯人だという
なら証拠を見せて下さい!」
「証拠はありません」
そう、証拠などない。しかし、私は続けて言った。
「ですが、グランさんは私が昨日の晩グランの部屋のドアの隙間に挟んでおいた、『ア
ネモネさんの居場所が分かった。知りたければ明日の朝食後、書斎へ来い』と書いた手
紙の通り、この部屋にやって来ました。それとウェインさんが亡くなってからお屋敷に
は来客や警備隊の方が出入りしていました。執事さんやメイドさんはその対応に結構忙
しくしていました。それを考えるとグランさんは凶器をまだ持っているか、お屋敷の中
にまだあるはずです。それがきっと証拠になるでしょう」
私とカンヤさんは昨日裏オークションへ行った後、花屋のアネモネへ向かった。そこ
で花屋さんの名前と娘さんの名前がアネモネだということは確認済みだ。
グランさんは俯いたまま、何も言わなくなった。アーセファーさんがそんなグランさ
んに言う。
「すいませんが、本部まで同行してもらいます」
グランさんは顔を上げる。その顔は意を決したような、そんな表情だ。
「わかりました。確かにウェインさんを殺害したのは私です。警備隊本部には同行しま
す。ですがその前に、どうかアネモネさんを助けてください! お願いします!」
アーセファーさんが私を見た。
「確かに、誘拐が本当なら放ってはおけませんね」
私は言った。
「アネモネさんはカーネギー侯爵が居場所を知っていると思います。カーネギー侯爵が
裏オークションで落札していたと裏オークションの資料に書いてありましたので」
しかし、問題はどうやってカーネギー侯爵に会うかだろう。ここ、ベネオスはカーネ
ギー侯爵の領土。つまり、彼はベネオスの王だ。
アーセファーが言うには、
「話くらいならできるでしょうが、知らないと言われたらそこまで。私たち警備隊です
らカーネギー侯爵には逆らうことはできません。彼に逆らえばこのベネオスどころか国
外追放すらありえます」とのことだ。
グランさんはえらく落胆し、肩を落とした。カンヤさんがその様子を見、言った。
「なんとかならないんでしょうか……」
もしかしたらこのままカーネギー侯爵に今回の件をもみ消されてしまうかもしれない。
何か策はないものかと考えていると、相変わらず我関せずを通していたアデルが突然
言った。
「おい、ティア。目には目を歯には歯を、権力には権力だ。それとカーネギーが侯爵で
いられるのは誰のお陰か考えてみろ」
誰のお陰? それって……。
「それってカーネギー侯爵を脅すってこと?」
「違う。俺は事実を言えと言っているんだ」
事実……いや、脅しでもこの際いい。彼はそれほどのことをしたのだから。




