アネモネ・トランプト
ガルターブさんの後を追い、カンヤさんと裏オークション会場への階段を降りる。壁
には一定間隔で燭台があり、ロウソクがセットされているが、今は火が点いていない。
そのため階段を少し下ると何も見えなくなった。ガルターブさんはそんなのお構いなし
に前に進んで行くのだが、普通の人はそうはいかない。
カンヤさんは壁に手を当てながら言った。
「あの~、暗くてよくわからないんですけど……」
確かに平坦な道なら暗くても壁伝いに進んで行ける。しかし地面は階段だ。いつ踏み
外すか分からない道を進むのはとても危険だ。
ガルターブさんは立ち止まり、言う。
「明かり、点けていいぞ」
私はひとつ気になったので、訊いた。
「明かりを点けたら警備の人にバレるのでは?」
しかしガルターブさんは「問題ない」と言うので、私は明かりを出した。
「光よ、我が道を照らせ」
私の手の平から明るく輝く光の玉が出現した。
カンヤさんが言う。
「便利ですよねその魔術」
今度教えることにしよう。
私たちは更に階段を下る。少しすると階段したが明るくなり、やがて広い空間に辿り
着いた。
正面の床には真っ直ぐレッドカーペットが敷かれている。左右には柱が建てられてお
り、そこにも燭台があった。しかも燭台にはロウソクではなく淡黄蘗の
魔術石がセットされ、辺りを照らしていた。正面奥にはカウンターが見える。裏オーク
ションの受付だろう。左右奥の壁には赤色で金色の刺繍が入った幕の様なバナーが何枚
か左右対称で張ってある。
あれ? 一枚だけ張られていない……。
階段降りて左右に入口前にいた様な怪しい人物が倒れている。また正面のカウンター
付近にも二人倒れてるのが見える。近くに倒れている人物に近づいてみると、気絶して
いるようだった。ガルターブさんがやったのだろう。
ガルターブさんが「こっちだ」と言うので、私とカンヤさんはガルターブさんの後に
付いて行った。ガルターブさんが向かった場所はカウンターの方だ。
ガルターブさんはカウンターを乗り越える。すると何者かのくぐもった声が聞こえて
来た。その声の主はガルターブさんの正面にいた。その人物は壁に掛けられた赤色のバ
ナーで全身をぐるぐる巻きにされた男性だ。まるで芋虫みたいに倒れている。
「うー! うー!」
ガルターブさんはその芋虫に近づき、膝を付く。そしていつの間にか手元に握られて
いる魔術銃を芋虫のこめかみに押し付けた。
「余計なことは喋るな。質問したことのみ答えろ。余計なことを話したり騒いだりした
ら殺す」
芋虫は「……うー」とだけ答えた。ガルターブさんは了解と取ったのか、芋虫の口の部
分だけバナーを剥がした。
「ハンズ・ブランクという名の男はここへ来たか?」
「き……来た」
「いつだ?」
「確か五日前だ……」
「何を落札した?」
「設計図……魔導機兵の設計図だ……」
魔導機兵は主に軍が使用するために制作されることが多い。他にも警備目的や作業用
の魔導人形なる物も存在する。しかし裏オークションで売られているとなると……。
私は訊いた。
「それは軍用ですか?」
「確かそうだ……横の棚に詳細が書いたファイルがあるはずだ……」
確かにカウンター内には棚があった。私はその棚に近づきファイルを探した。棚には
『来客名簿』や『出品票』、そして『落札者名簿』が並んでいる。私はその中から『落
札者名簿』を手に取り、ページを捲った。
私が『落札者名簿』を捲っている間に、カンヤさんが芋虫さんに訊いた。
「すいません。ここにウェインという方が来られたことありますか?」
「し……知らな」
芋虫の頭のすぐ横の地面が鈍い音と共に破裂した。ガルターブさんが魔術銃を撃ったの
だ。芋虫から引き攣った様な声が漏れる。
「ヒッ! 言う! 言います! 何度かここへ来たことがある! だが客としてではな
く出品者側としてだ!」
やはりウェインさんは裏オークションに出品していたようだ。そしてその裏にはハン
ズ・ブランクがいる。
『落札者名簿』を見ていた私はハンズ・ブランクの名前を見つけた。落札した商品は
確かに魔導機兵の設計図と書かれている。そしてその横にA3000と書かれている。
このA3000とは型番のことで、A型は対象を暗殺することに優れた魔導機兵だ。
それと確か3000番台は割と最新の物のはず。もしこれが完成して世に放たれれば、
相当な被害が出るだろう。
「魔導機兵の設計図を落札したのは本当みたいですね。それともうひとつ……」
私はページを捲った。
「カーネギー侯爵の名前もありました。
落札したのはヴァダーの人形と書いてあります」
備考と書かれている欄に『アネモネ・トランプト』と書かれている。
ガルターブさんが立ち上がり「見せてくれ」とこちらへ手を出す。私はその手の上に
『落札者名簿』を置いた。ガルターブさんは受け取った『落札者名簿』を開くことはな
く、表紙を見ている。
「この表紙に書かれている家紋……カーネギー侯爵のものだな」
カンヤさんが言う。
「それではこの裏オークションもカーネギー侯爵が……?」
「間違いないだろうな」
ガルターブさんはそう言って私に『落札者名簿』を返した。私はそれを棚へ戻す。
私たちはその場を退散することにした。芋虫は……放置。
外へ出た後、ガルターブさんは「俺はカーネギー侯爵を探る」と言ってどこかへ行っ
てしまった。私とカンヤさんは……。
「ねぇカンヤさん」
「はい。なんでしょう?」
「一か所だけ寄りたい場所があるんだけど」
「はい。構いませんけど……?」
私はその場所に向かった。




