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ベネオスの旧繁華街

 昼食を食べた後、私たちは外に出ることにした。

 昼食時、相変わらずアテリアさんはいなかった。

 ロレーヌ家のお屋敷には警備隊の方々が出入りし、メイドさんや執事さんは許可がな

ければ外出できないことになっている。それは私たちも例外ではない。しかし私たちは

元々外から来たただのお客さん。外出したいと申し出たら割とあっさり許可が出た。但

しベネオスの街からは出ないようにとは言われた。

 私とアデル、カンヤさんは徒歩でベネオスの旧繁華街へと向かった。目的地はウェイ

ンさんが経営していたという商店だ。

 商店の場所は昼食時にセリカさんにこっそり訊いた。話によると旧繁華街は劇場の建

設に伴い廃れていったそうだ。今栄えている繁華街は劇場が建てられた時に出来たもの

であるらしい。

 旧繁華街に到着して最初に思ったことは、とにかく侘しい雰囲気が充満しているとい

うことだった。カンヤさんも同じ印象を受けたのか、「寂しい所ですね……」と呟く様

に言った。

 道は石畳だが、所々割れている。道の左右にお店が並んでいるが、そのほとんどは開

いておらず、更に店内は暗くて石畳と同じく所々ひびが入っていて、かなり老朽化が進

んでいる。

 廃れた道をカンヤさんと歩く。目的の場所には程なく辿り着いた。

 ロレーヌ家が経営していた商店は三階建てで、とにかく大きかった。しかしその商店

は他の建物と同じくあちらこちらにひびが入っていたり、塗装が剥がれていたりと、や

はり老朽化がかなり進んでいるようだ。

 二階と三階に関してはおそらく人が最近出入りしていないのだろう、窓が割れ、その

ままになっている。

 一階部分は開いているが、やはり侘しさが漂っている。

 入口の両開きのドアに近づくと、入口横に積まれている木箱の陰に誰かがいるのがわ

かった。

 私はカンヤさんと目を合わせる。カンヤさんは首を縦に振った。

 私は木箱の方に向かって声をかけた。

「すいません。ちょっとよろしいですか?」

私が声をかけると木箱の陰にいた人物が顔を出す。その人物は男性で、髪は白髪交じり

のオールバック。そして顎鬚を生やした人物だ。服装は長袖のシャツを両腕共捲り上げ、

下は布のズボンを穿いている。そしてその上からエプロンを着けていた。歳の程は五十

前後だろうか。

 白髪交じりの男性は何やら作業をしながら言う。

「……何か用かい?」

「はい……あっ、私はセレスティアという者です。こちらはお友達のカンヤさんです」

カンヤさんは「こんにちは」と挨拶をした。白髪交じりの男性も自己紹介をする。

「俺はここで働いているバングってもんだ」

彼はそう言い、木箱のひとつを地面に置いた。そしてその木箱の上に座り、エプロンの

ポケットから煙草を取り出して火を点けた。

「それで、俺に何か用かな?」

「はい。ここってウェインさんが経営していたお店ですよね。ウェインさんのことにつ

いてお聞きしたいのですが」

バングさんは少し疑いの目を向けて来た。

「あんたら社長とはどんな繋がりで?」

「縁がありまして、現在ウェインさんのお宅でお世話になっています」

「……はぁ、まあいいか。それで、何が訊きたいんだ?」

「ウェインさんのことについてお聞きしたいのですが……このお店ってウェインさんが

経営されていたんですよね?」

バングさんは煙草の煙を吐き出し、答えた。

「そうだ。昔は繁盛していたんだがな。ある時店の老朽化で、新しく建て直すことにし

たんだ。しかし、店を新しく建て直した直後に劇場が建ち、客が劇場の方に流れちまっ

たのさ。それだけなら良かったんだがな……」

「他に何かあったんですか?」

「ああ。店にコソ泥が入ってな、店の貯金を全て奪われたんだ。警備隊に相談したんだ

が結局犯人は捕まっていない。それどころか、なぜか捜査は打ち切りになった。まさに

泣きっ面に蜂さ。だがな、社長は『私がなんとかするから、何も心配しなくていい』と

言ったんだ。しかし従業員共はそれが信じられずに皆辞めちまった。だから今、従業員

は俺しかいない」

 お店に泥棒が入り、貯金を全て奪われた。しかしその後『何も心配しなくていい』と

言っていた。つまり従業員が辞めていく直前には裏取引で儲ける算段がついていたのだ

ろうか。

 私は更にバングさんに訊いた。

「泥棒が入った後、ウェインさんに変わったところはありませんでしたか」

「変わったところ? ん~」

バングさんは天を仰いだ。

「いや、特に変わったところはなかったと思うが……」

「そうですか……」

 バングさんは煙草を咥え、立ち上がった。

「そろそろ仕事の時間だ。と、言っても俺が勝手にやってるだけだけどな」

「そうですか。色々教えていただき、ありがとうございました」

私とカンヤさんは頭を下げた。

 情報は得られたし、ここでできることはもうないだろう。

 私とカンヤさんはお屋敷に帰ることにした。


 夜、客室の窓からノックする音が聞こえて来た。

 私はベッドに座り、日記を書いていた。カンヤさんもベッドに座っていたが、少しウ

トウトしていた。そこに窓からノック音が聞こえて来たので、カンヤさんは

「キャッ!」と少し浮き上がった。

 私は立ち上がり、窓を開ける。窓をノックした相手は……。

「すまん、少しいいか?」

窓をノックした人物がそう言う。もちろんその人物とはガルターブさんのことだ。

 私は「どうぞ」とガルターブさんを招いた。

「裏オークションの場所がわかった」

彼は部屋の中には入らず、窓枠に座り、言う。そして言いながら、ポケットから紙を出

した。それは朝方に渡した『オークション出品票』だ。

「それと、ここに書かれているヴァダーとフォディアもわかった」

「本当ですか?」

私とカンヤさんはベッドに座り、話を聞く。アデルは私のベッドで寝ている。

「まず裏オークションの場所だが、朝方ここを訪れた時、帰り際にこのお屋敷の周辺を

うろうろしている怪しい奴らがいたから締め上げてみたら、裏オークションの場所を

知っていた」

 怪しいから締め上げてみたとはなんと過激な。まったく関係ない人たちだったらどう

したんだろう……。

 ガルターブさんは続ける。

「それとそいつらはウェインに雇われていたらしい。おそらく誘拐でもさせていたのだ

ろう」

カンヤさんは「誘拐ですか……?」と少し驚いた表情を浮かべた。

 ガルターブさんは「そうだ」と言いつつ左手で『オークション出品票』をつまみ、右

手でフォディアを指差した。

「その前にまずこの『オークション出品票』なのだが、ここに書かれているフォディア

とは炎神のことだ。そしてこのフォディアは男性の象徴でもある」

次にヴァダーを指差す。

「次にこのヴァダーなのだが、こちらは水神のことだ。こちらは女性の象徴でもある。

このふたつは何かの隠語だろう」

男性の人形、女性の人形。そして、それが書かれているのが裏オークションの出品票な

ことを考慮すると……。

 カンヤさんも気がついたようだ。

「人間ってことですか!?」

ガルターブさんは首を縦に振った。

「そうだ。つまりこれは男性の奴隷と女性の奴隷のことだろう」

 つまりウェインさんは誘拐した人を奴隷として裏オークションで売っていたと……?

ウェインさんがそんなことをしていたとは思えないが、どうやら華やか街とは裏腹に、

相当な悪事が行われているようだ。裏オークションが行われている場所がわかっている

なら、一度調査が必要だろう。そして、そこでハンズ・ブランクに関するヒントがある

かもしれない。

 私たちは話し合い、明日裏オークションに潜入することに決めた。

 ガルターブさんは帰り、私とカンヤさんは明日に備えて眠ることにした。

 そういえば、奴隷オークションの話が出た時、頭に何か過った気がする……。

 ガルターブさんが出て行った後、窓を閉めた時にロロ君がこちらを見ているのが窓越

しに見えた。

 ロロ君はガルターブさんに気がついていたはずだが、吠えることはなかった。そして、

ロロ君は、私にはなぜか悲しんでいる様に見えた。

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